停滞への怒り。その芽が地獄で咲く時は今。
諦め。諦観。傍観。自分の人生を傍観する。自分の人生を諦観する。自分の人生を諦める。それは今の僕には妥当なことで当然なことだった。だから語りとしては順当でそしてその後の結末も分かりきっていることだった。
このまま死ぬ。
これは物語への反抗ではない。ただ物語に流れに乗った人間の行く末だ。
だから結末は当然で妥当。バッドエンドの終わりである。
それを拒否する意識が芽生える。
それを嫌う自分が現れる。
それも妥当なこと。僕は目を瞑ったまま考える。
どこまでいけば物語に叛逆できるか。叛逆の物語。僕がこの地獄の檻の中で目を瞑ったまま仰向けに倒れているこの状態でどんなおかしな行為を取ったとしてもそこに意外性はない。地獄で正気でいられるものなどいないのだから。どんな行動も地獄による異常として処理され一方的な世界の押し付けに屈するのみだ。
死んでしまうのだろうか。殺されるのだろうか。
自分の人生から、責務から逃げ出して走り続けた僕への償いだこれは。当然の報いだ。でもそれは僕に取っては妥当で当然でもあの髭を生やした彫りの深い男にとって妥当なことだろうか。
奴はわざわざぬるま湯に浸かっていた僕を引き上げて地獄に送ってそのまま殺すことが目的であったのだろうか。
目的。理由。因果。この世界は要素要素が繋がっている。それは明白だし否定する必要性も感じられない。それならばあの男の目的は一体なんだった。僕のように衝動的本能に左右されたわけではなかろうよ。それならば何か論理的な物語の帰結が彼にとってあるはずだ。彼にとって利益が大いにあること。
僕がその内容を考えること、が答えか。
全身を軽く揺らす。感覚が正常なことを確かめて力を出し入れする。
次に瞑った目に力を入れる。数秒凝らして目を温めた後ゆっくり開く。目の前には悪魔がいた。僕の顔を覗く悪魔がいた。その悪魔に僕は言う。言ってやる。教えてあげる。
この状況下、この物語の進度では当然知り得るはずがないであろう言葉を。言うはずがない脈絡もない言葉を。因果が全くないであろう言葉を。
会話が通じないであろうと思われた目の前の悪魔に。一度死を望んだ諦観を好むこの僕の口が。
その上でこの語りをいい意味で裏切る。なぜか。僕はまだ死なないからだ。死なない癖に死を望む。死ねない癖に地獄に堕ちる。死んでいないのに死んだと言われた。現実世界に帰っただけなのに死んだと言われた。
辻褄が合わない全てが。僕を惑わすためか。わざとらしい全てが。僕を誘導するためか。
それならば、だからこそ、そうであるから。
存外これも当然の帰結だったかもしれない。
けれどだからそれでも言う。目の前の悪魔に。鬼の形相の悪魔の頬を全身全霊、ありったけの力を引き出して。叩く。頬を。叩く。
頬が爆ぜる。悪魔の頬が揺れる。体ごと吹き飛ばされる。
因果も狙いも誰かの意図も関係ない。僕がそれに従う理由も因果もないのだから。信じられるのは自分の因果。純粋な自分の都合にこれでもかと乗ってやる。
もう諦観も諦めも傍観もやめた。まして死ねない死を望む行為は行わない。
僕は、僕を信じる。信じることの愚かさをこの身に宿して、それから信じる。
「なぁ悪魔さんよ。その変装、この俺にはバレバレだぜ。」
ひん剥かれた悪魔の目には驚嘆だけでない希望が隠れている。それに気づいてやるのは僕だけだ。




