地獄は償いの義務を抱えた者のための檻だ、獄門だ。
髭男に、深みを体現したあの深い深い男に襲われてから僕は気を失う。元の世界の現実世界で意識を失った僕はその後再び目覚める。その時、何が待っているのか。語りから意識的に抜け出そうとした僕への罰は如何なものだろう。
目を開けたくなかった。けれど意識は覚醒していた。目が覚めたということだ。けれど目は開けない。目を瞑ったまま考える。このまま目を開ければ始まってしまう。物語が。僕の語りが。
寂しいと感じたのは本当だ。現実世界をつまらないと感じたのも本当だ。けれど危機に飛び込みたいとは思わない。それは本能だろう。だから逃げた。すると無口のあの男が償いを求めてきた。恐喝し拳を振り上げた。そして今、だ。
元の世界だろうか、それともあの時の世界か。目を開けないと分からない。だから、そうだ。ここがどこか知らないといけないから、目を開けないといけないんだ。だから目を開けるのは仕方のないことなんだ。それによって語りが始まっても。
…目を、開けた。
目を開けたくない…
目の前には…
悪魔がいた。悪魔が、悪魔がいた。悪魔が…悪魔がいた。
悪魔だった…悟った。そうとしか言えない。僕の顔を影で落とす凶悪な顔。痩せているというより骨自体が大きい角張った様子。赤い鋭い目に口から溢れ出た牙。人のものではない以上に発達した犬歯が見える。暗い鱗の皮膚はゴツゴツとしている。悍ましい様子に狼狽える。そのほりの深い形相に怯える。ここが本当にあの男が言っていた償いのための場所なら、僕は何をされるのだ。悪魔は僕が動いたのを一通り確認して後、奥の暗がりに消えていく。暗い部屋。暗い部屋。暗い部屋。
僕は悪魔に見られていた。起きるまでずっとだろう。
ここは、間違いなくあの世界だった。もう戻れない。
なぁあの髭の生えた深みのあるあの男はどこに行ったんだ。影がないあの男はどこに消えたんだ。あいつこそ僕から逃げたんだろう。逃げた逃げた逃げた。
深みは不快につながる。不快は破壊につながる。破壊は瓦解につながる。瓦解は、、、僕を死へと追いやる。それで死に切れるなら、僕は僕としては最後は笑って消えてやりたい。だから、ここが地獄ならそれでいい。
あの悪魔に腹ワタを掻き出されて死ぬのならそれでもいい。死に切れるのなら、ここで成仏できるなら。それを償いと呼んでいるのであれば。僕は僕として笑って死ねる。
髭男、影男。そして僕の未来からきた影。猫又。陰陽師。天狗。鬼。不死鳥。妖精。エルフ。
そして悪魔。それなら僕は一体なんだ。それを最後まで知ることなく死ぬのもまた一興か。
僕はもう一度目を閉じた。




