表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偏差値71の妖怪怪異譚  作者: 暮葉畏啓
語りは真実を求める
PR
23/61

さあ伝説になるであろうSF導入冒頭No.2

猫又が開いた扉を抜けた僕。幽玄な大地が広がっていた。


大きな桜の木が小高い丘の上に植えられていた。深い紫の薔薇があたり一面を覆っている。ここはどこだろう。月がない夜空に星はなかった。空は闇だった。遠く地平線の奥に建物の影も木の影もない。あたりにはこの大きな桜の木以外に何もない。大きな桜の木以外に背の高いものは何もない。異世界…と言うより黄泉の国だろうか。


この平坦な世界はどことなく幽玄であった。猫又は成仏した。影は逃げた。巨浪は死んだ。エルフは処刑された。封怪は死んだ。老天狗は殺された。悪鬼も不死鳥も剥がれ落ちた。残るのはただの人間の僕。


僕は一人ぼっちだった。


思えば僕は今まで一人になったことがないかもしれない。いつだって何かが、誰かが僕の近くにいた。世界が僕のために動いたこともある。助けられてばかり、僕が何かしたことなんてあっただろうか。


勝手に助けられる。勝手に怪異に成り上がる。勝手に物事が動く。


桜の木はどことない風に揺られて戦ぐ。その度に淡い桃色の花びらが落ちる。落ちた花びらは紫の薔薇の上にかかる。すると丘に吹く生ぬるい暗い風が花びらをまた吹き飛ばす。それを眺めながら僕は右手を首に置いて傾げながら思う。


いつだって僕は受動的だった。僕が語り手をするしかないと思っていたしそれは能動的、積極的とは言えない。


だから見捨てられて一人になっても何もできない。誰も来なければ誰とも会えない。自分から会おうとは思えないから。


僕の独り言は独白として空を舞う。暗い星のない闇の中を通る。そのまま見失う。


僕の心は何がしたかったんだろう。


思いとしては願望はある。けれどそれを叶えようと本心からは思っていない。猫又の世界を救いたいとは思っていたけれどあくまで猫又に言われた内容を実行していただけ。自分から何か考えて行動したことは一度もない。


思いとしての願望は願望としてあるうちは願望のままだ。願望はいつまで経っても夢でしかない。

夢は夢だから価値があって夢のままにしておきたい。だから僕の思いはいつだって夢のままでそれで止まっている。


願望はあって夢もある。けれどそれはそれとして存在しているうちは何者でもない。現実の僕の行動に直結しない。因果がない。だから薄い。想っているだけになっているから。


桜は桜としてそこにある。だから桜の花びらをつけるし風に揺られれば桜の花びらを落とす。それは僕の中での桜であって桜以上の何かになることはない。大地もその丘も薔薇もこの世界も同じだ。


僕はどうなのだろ。何も自分からしない僕は桜や丘、薔薇と同じではなかろうか。だから僕は僕でしかない。悪鬼になっても不死鳥になっても…僕は僕のままだ。


僕を超える僕が現れることはない。


でも、そうだとしたらあまりにも悲しいじゃないか。元から何をしても結果は変わらないなんて、あまりにも救われないじゃないか。


紫の薔薇はそれぞれ咲く方角が違う。僕から見て綺麗に花びらが見える薔薇もあれば反対に背中しか見えない薔薇もある。けれどそれはみんな薔薇だ。


僕は僕でない何かになりたいわけではない。僕が今まで受け身でしかなかったからといって積極的になりたいと想ったわけでもない。


ただ感じた、ただ理解しただけ。でもこうしてものがたりを独白でもいいから進めておけば自動的に勝手に何かが現れてくれることを僕は知っている。


だから独白をしている、とも捉えられる。


詰まるところ印象でしかない。決めつけているだけだ。


風は僕のところにもやってくる。暗い風は僕の頬を撫でるように吹いて僕の髪を逆立てる。それが風だから。僕を通り過ぎた風はどこへも知らぬ場所に去っていく。


こうやって世界を語りながら独白をする。物語は進んでいるのだけれど何も現れない。


何かが現れると僕は信じる、一方的に。でも現れない。裏切られたのか。けれど、いやこれで裏切られたと言う言葉が成り立つのであれば本当にこの世界は酷い。


勝手な理想を対象に対して作り上げてそれと実際が違えば裏切られたと被害者ヅラする。酷くなくて何だ。


詰まるところ僕は物語の本筋でもなんでもない、ただ頭に浮かんだ言葉について考えていただけだ。それは11月22日の時のようであった。あの日も同じように自分を客観的に見ながら歩いていただろう。


あの日が懐かしくないといえば嘘になる。何も始まっていなかった日。でも当時の自分からすれば確実に始まっていたと言える。誰が見るか、いつの自分が見るかによって変わる。そんなことで変わるものは大事なことだろうか。


伝説にあるであろうSF冒頭No.3は本当にNo.3だ。No.1もNo.2でもない。3回目。だから伝説。


でも、であるならばNo.1、No.2はどこだ。


どれが、何がそれなのだ。どこにいる。どこにあった。No.1、No.2は。



始まりは本当の始まりではない。どこから思い出すか、どこから考えるかで始まりは変わる、だったか。なら冒頭と言える内容もどこから見るかで変わるであろう。これが、今の出来事、独白披露宴の現在も、とある地点から見れば冒頭になるのではないだろうか。


つまり、この今現在が冒頭No.2であってもおかしくは…ないだろう。


何もしてこなかった受動的な僕は変化する。今現在の独白が能動的な僕の物語の冒頭と考えることもできる。


繋がりはそのまま。あくまで僕が変わるだけ。変わったように勘違いした僕の物語の冒頭なだけ。


さぁ行こう。これが伝説になるかどうかは結果が決めるのだから今は気にしなくてもいいではないか。


僕は桜に手を振って元の世界に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ