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偏差値71の妖怪怪異譚  作者: 暮葉畏啓
原始帝と終焉帝による生命の祝宴
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終焉帝の額

燃え上がる全てが。


炎で、炎しか見えない。もはや月の表面は炎しかない。全てが燃えたまま炎は燃え尽きない。不死鳥の炎は決して消えない。悪魔ついえる。国王はいずこ。


浮遊して上空1万メートルを飛翔する。その眼下はどこまで行っても炎しかない。月の半分が燃焼していた。


その爆炎の中、赤く燃え上がった体表に覆われた巨大な何かが見えた。太陽の届かない暗い月の表面でそいつだけが蠢く。その影はどっしりとしていて僕を見つめているようだった。


白銀の立髪が炎に照らされて。炎の隙間から見える。


黒い真珠のように煌めく爪が三本ずつ垂らされる。


鋭利な牙が揃った口から冷気が漏れ出るのがわかる。


ああ、狼だ。この国の帝王。侵略計画の首謀者、戦争の将軍。冷酷な指導者。


ああ、国王マーナガルムだ。


僕を見た。前足が歩み出す。僕の元へ牙が出向く。僕の目を、怒りの目が混然と煌めいている。


敵対意識を持つのか、こいつは…この国をたった一人で壊滅させたこの僕を…


巨大な白銀の体表が炎の中から飛び出た。月の表面を大きな後ろ足で跳ねる。そして空でまた跳ねる。2段ジャンプなんかあったものじゃない。無限ジャンプだ。一万メートルを飛翔していた僕に奴は近づく。何もない空間を踏み台にして何もない無重力空間で、荒野を走る狼のように僕に向かって直進する。その姿は稲妻のよう、雷鳴と共に進むその狼はまさにこの国の王のであった。国滅びの僕を討たんとするその姿勢。


やつは僕をなぶった。巨大な爪のついた足が僕をなぶり飛ばす。空を僕は飛んだ。吹き飛ばされる。姿勢を崩す。翼が傷ついた。その後僕が姿勢を正したのを見てそいつは名乗った。


「俺はフェンリルだ。」


その叫びは僕を戸惑わせた。名乗るだけで終わらず、そして今度は左足で僕をなぶる。なぶり殺されるかと思うほどの力。僕の翼は何もできずに歪む傷つく。奴は両前足で僕を挟んだ。奴の両足で拘束されたこの僕は身動きできないままにそのまま潰される。まるで猫に握りつぶされる蝶のよう。


フェンリル…フェンリル…マーナガルムはどこに…


「たとえ其方が神であろうと俺の意向は留まらん。お前が殺した我が子への慈愛は無くならない。故にお前への俺の憤怒は収まらんし、死ぬまで潰えん。俺の腕が必ずお前を殺す。」


力は強まる。圧力が増大する。体が圧縮されて今にも四散しそうな力。マーナガルムの親、フェンリルの怒りは収まらない。


低い男の声がこの地獄でなった。


(払へ給へ清め給へ神ながら守り給へ幸い給へ)


再び僕の中の炎が燃え上がる。冷たい体表をしたフェンリルを炎で焦がす。僕の力はより増大する。僕を拘束する腕は弱まる、離れる。


これなら…いける…


僕は体内で流転する炎を吐き出す。煌めきが宇宙を照らす。月の表面は焦げて燃えて灰になる。僕を掴むフェンリルの腕は焼け焦げる。奴の額が燃えて焦げ落ちても拘束は終わらない。それ以上に拘束の力は強まっていた。


だから…もう…


不死鳥となったこの僕は全力を出しても目の前の狼を殺すことはできなかった。僕の力は弱まる。僕の炎は弱まる。弱まれば弱まるほど拘束は固くなる。拘束が固くなるほど僕の炎は弱まる。


月の炎は潰えている。僕の炎は死んだ。悪魔は死んで建物もない。荒野で地獄絵図。炎が消えていくことは光源がなくなることで感じる。太陽が飲み込まれてすでにないこの世界で僕の炎が無くなれば。あぁ暗闇だ。闇が僕を迎えるのみだ。


このまま僕は握りつぶされるだろう。


拘束は固くなる。僕の翼は朽ちていく。体は縮小する。炎の爪が焦げ落ちる。ああ不死鳥の僕が剥がれ落ちる。また人間に成り下がる。今度は意識を失わなかったのに。語り手として尽力したのに。目の前のフェンリルの威光が強すぎる。暗い暗い宇宙。巨浪に拘束された人間はすぐに死ぬ。それがたとえ僕でも、今の僕は人間に成り下がったのだから。


それが、怪異の運命なのだ。


僕は、怪異だから、朽ちる運命なのだ。


__転移完了__統合失敗_分離する_


僕はもう死ぬ、ただの怪異だから…


フェンリルに殺される…


「それは違う。お前は…ただの怪異ではない。」


声が聞こえた。暗い月の宇宙で、僕とフェンリル以外は焼け死んだはずなのに。炎はもう死んだのに。僕はただの人間なのに。なのに、なのに、なのに、なのに……


「お前はただの悪鬼でも不死鳥でもない。ましてや人間でもない。」


誰…の声だ。


「俺はお前の強さを示す。だからお前は俺を信じろ。俺だけがお前と分かり合える。分かり合えている。」


分かりあう?それは…不可能だろ。人間が人間を完全に理解すること何て、できるはずがない…



「俺だけができる。故に証明する。まずはお前の強さを。」



月の表面、この宇宙。暗い暗い暗闇の光の届かなこの闇から声が声が形が体が蠢く動き出す


誰が誰だ俺だお前か何故証明知らない教える分かり合え思い出せ何故俺がお前と分かり合えることを


…証明するためだ。


闇がフェンリルを締め殺した。












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