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偏差値71の妖怪怪異譚  作者: 暮葉畏啓
原始帝と終焉帝による生命の祝宴
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17/61

妖精エルフは美しい

「ごきげんよう、異界の道化師。」


透き通った白い肌の持ち主はそう僕に言う。猫又の妖術によって彼女の言語がわかった自分に驚く。彼女の放った言葉は、挨拶か、皮肉か、それとも糾弾か。真意はわからない。だから僕はあくまでただの偏差値71の分際として異種族のエルフに向き合う。


「おはようございます、いい朝ですね。」


僕の挑発は場を沈めた。彼女の長髪風に靡き、淡い光は森の奥に去っていく。暗い森の底、僕らがいる森の歪みに星の輝きは届いている。淡い光が去っても、星の輝きは消えない。なんとか人間のままやり遂げられそうであった。しばらくして、僕の挑発に目の前のエルフは答えた。


「太陽は数ヶ月前に食われてしまったけれど。この私に皮肉を言うとはいい身分ね、この野良が。」


どうやら彼女は僕を野良呼ばわりしてきたようだ。挑発には挑発を、ハンムラビ法典かよ、と僕は言いたくなる。けれどそれを抑えて代わりにいうことがある。


「僕が野良なら、あなたは差し詰め裏切り者かな。北欧神話の怪物さん。」


女の目が変わる。しばらく沈黙が続いた後、僕は場を整える。


「今回はその真相を探りにきたわけではありません。自分は日本の従者です、警告をしにきました。」


女は苛立った様子、厳密には息を荒げながら僕にいう。こめかみに手を当てている様子はどこか庶民的な印象を与える。


「最初あんなに馬鹿げたことを言っておいて、日本が使わした従者だって?何を馬鹿なことを。」


日本の従者と聞いても僕を殺さないのか…衝動的なことはしない…ある程度の知能があるんだな、まあよかったか。


「その馬鹿げた言動は全てあなたを呼び出すためでした。厳密にはこの森を支配する権力者の子分を呼ぶためでしたが、あなたはその子分ですから成功したと言えますね。」


女は子分という蔑称を嫌な顔をしながらも受け入れ、TPOを意識したのかここで求められている話題を優先して答える。


「最初のには目的があったと。はぁ。で、私を呼んで何がしたかったんだ?」


僕は当たり前のつまらないことを言うように言う。だってさっきも言ったことだから。


「警告ですよ。」


女は、警告?というような顔をする。具体的には頭を空にあげて考えるような形。続けて僕はいう。


「将軍マーナガルムはあなたを裏切っています。原始帝ではなくあなた自身を。」


これが世にいう爆弾発言であろう。ただでさえ挑発行為をした時よりも長い時間沈黙が訪れる。嵐の前の静けさならぬ、爆発後の消滅だろうか。だから彼女はいう。爆発を認めたくないから。


「お前の言葉を信じる根拠は?」


だから僕はいう。


「あなたはマーナガルムの手先、低級悪魔だ。この森林の抵抗を抑えるためにきた、そうだろう?」


彼女は彼女を見透かす僕の眼光にためらったのか、僕の言説を反芻しているようだった。


「マーナガルムは月狼国家を組織している。あなたはその手先、そして幹部である上級悪魔があなたを遣わした。だろう?」


彼女は頷いてみせる。彼女の眼光は落ち着き、長髪から伝わる敵意も薄れているようだった。


_時は満ちた_計画通り__


「月浪国家にあなたは見捨てられている。気づかなかったか?現に遣わされてから一度も仲間に会っていない、そうだろう?あなたは見捨てられたんだ。」


彼女は目を大きくして驚いているようだった。


「僕は知っている。あなたの経緯を。だから僕は、そんな君を助けにきた、日本から遠いスコットランドまで。」


あくまでも善人のふり。


「辛いか?そうだろう。僕は君を慰めたいと思っている。」


共感は心を開く重要なこと。


僕は彼女の手を僕の手で包む。安心感を与える行為。


「一人だけで使わされたんだろう?大好きな故郷から飛ばされて。」


うん、と頷く彼女。頃合いかな、僕は彼女に近寄る。金色の髪を撫でる。


「僕は君を助けたい。彼らに裏切られたのなら僕が盾になろう、君を守る存在に。」


彼女は僕の胸に頭をつけた。どうやら信じたか…案外簡単だったな。僕はほくそ笑む。


「君が助かるために、僕の言うことを聞いてくれないか?」


彼女は頷いた。そして、ありがとう、とただ純粋に僕に言う。滑稽を超えて自分に寒気がした。それくらいにうまくことは進んでいる。


「ではまず君の本拠地を教えてくれないか。僕が君を助けるために。」


彼女は聞かれたことをそのまま言う。さすが低級悪魔、扱いやすい。


「私の本拠地はね、ここから東に数キロ進んだ先にぶつかる河川を昇るように進んだ先だよ。月浪国家は月じゃなくて太陽にあるんだ。私の実家もそこにあるの。大きな赤い屋根に黒い煉瓦で建てられている大きな屋敷。そこの従者の家計に生まれたの。」


悲しい生い立ちか。懐かしい過去か。それでも彼女の言葉には嘘はないだろう、彼女の目を見ればわかる、信頼する相手に褒められたい、そんな様子だ。だから僕は頭を撫でてる。抱きしめながら、頭を撫でながら、彼女を僕は褒めてやった。


「なぁ、その、本拠地…月浪国家が太陽にあるならどうやっていつも出入りしてるんだ?」


大事な情報源。これを聴きたかったのだ。


「出入りの方法?悪魔は暑さに耐えれるからどうってことないけど。暑さに弱い物資の輸送は扉で通しているよ。月浪国家が生まれて物資の輸送とか大規模化してからはやっぱり扉かな、主には。」


驚きの内容。我ながら自分の才能に驚く。


「その扉は時空間移動的なものなのか?」


彼女はうん、と頷いて見せる。はにかんだ笑顔が魅力的だった。僕の腕の中で話し出す。


「そう。時空間移動その通りだよ。」


だからそれはわかっている。知りたいのはそれじゃない。


「どこどこがつながってるんだ?」


彼女は僕の問いを笑顔で返す。この愚かな女は得意げに自分の知識を披露することの快感に気付いたようだ。嬉しそうな笑顔で僕にいう。


「複数あるけど最近作られたのでいうと、えっと、極東の島国に一つ建てたって聞いてる。その扉を通って月浪国家から地続きに兵士を送り込めるようになったらしい。日本の妖怪はまだ事実上抗争を行なっているからね。」


鬼のことか…それとも別の怪異か。いずれにしても鬼はこの世界から逃げていない。それは事実な気がする。


だから、ありがとう、そう言おうとしたが言えなかった。


ん…?


んあ…?


は?


物理的に喉が動かない。頭は真っ白だ。猫又に言われた会話術の知識も飛ぶ。猫又に言われた緊急時の対処法も飛ぶ。


誰が…喉をしめつけている?


誰に?…女に。


なんで?…知らない。


墓穴を掘ったのか?…わからない。


目の前の女は嬉々とした表情で僕の首を絞めている。女ではない、これは。強すぎる、力が。低級悪魔でこの力か。計算は元から狂っていたのか。


物理的に目の前が真っ暗になる寸前。彼女は言った。


「裏切り者はお前だ。この異国の道化師が。」


それは本質を呈していた。そして僕は意識が途絶えてはいけないこの瞬間に奇しくも気を失ってしまった。


気を失ってしまった。


それから、それからはわからない。気を失った僕が理解することも覚えていることもない。


そんな僕はもう一度起き上がる。起きた時、もう一度意識が戻った時、大きな細工されたガラスで包まれた大聖堂をこの目は見た。大きな聖堂。金と白が貴重とされた奥に大きな十字架が見える。ここはどこだ。僕はどうしてここに。目の前の巨大な狼と、長剣をもった悪魔が僕のそばにいた。


僕の両腕は手錠がされていた。自由に動かせない。ぼくは玉座の目の前にいた。目の前に大きなオオカミがいた。あきらかに長であろう。


その目の前に居座る大きな狼は言った。


「ワレ、国王マーナガルム、および月浪国家への反逆罪で斬首系に処す。対象は『キリア*スタンダート*ザヒ』。等しくその血を持って命を償え。」


キリア*スタンダート*ザヒ。僕の死角から御前に担ぎ出されたのは、あのエルフだった。



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