僕らだけの世界戦争
「始めるにゃ。」
猫又は小さな声でそう言った。風はこの教室に訪れない。窓はベニヤ板で塞ぎ、扉は机や椅子で閉め出した。出入りはできないように、声が聞こえないように。電球はチカチカと光っている。
「始めよう、この世界を救うために。」
僕は言った。猫又は二つに分かれた尾を故らしながら教卓の上の座っている。僕は向かい合わせで椅子に座っていた。まるで懐かしき教師と生徒。授業の一風景のようである。
「敵、北欧神話を元の勢力に戻すために、いやまず今の状況を。」
猫又はうん、と首を上下に動かして頷いて見せる。それから口を開いた。
「まず敵の本拠地は月にゃ。スコルが太陽を飲み込んだと言っても、飲み込んでしまっただけにゃ。太陽はスコルしかいないにゃ。月はマーナガルムだけでなく様々な悪魔が蔓延ってるにゃ…さながら地獄、にゃ。」
可愛い声で恐ろしいことを言う猫である。僕は傾聴する。
「だからわしらは月で交渉するのが先にゃ。力では敵わないにゃ。」
それは当たり前の常識だ…だから頭を使わねば。
「奴らは油断しきってるにゃ。伊吹山の鬼も取るに足らない、もう第三勢力は来ないと、そう考えているはずにゃ。」
僕はそこで聞く。
「伊吹山の鬼って。まだこの世界にいるのか?」
猫又は訝しげな顔をして言う。
「わからにゃい。いや、わしは会ってないからにゃ。けれどまだここに悪魔は来てない、それは事実にゃ。」
にゃーにゃーかわいいな。この猫。
「それなら鬼が日本を守れていると、言うことか。」
猫又は眉を顰めた顔で言う。
「けれどもし鬼が居たとしても、伊吹山の援助は望めないにゃ。おぬしは鬼の血統をいま否定しているから。」
確かに…僕は今人間として鬼の権能を剥がした状態だから。
「だから妖精の力を借りるにゃ。」
…妖精?それは…
「妖怪でも怪異でもない、人々に信仰されることで生まれた存在、にゃ。月がくり抜かれたとか、そういうあくまでも自然物の問題には強いのにゃ。」
地方の信仰が主な精霊。たしかに形式的、事実上世界が北欧神話に支配されても地方は影響を受けていないのか。
「それで、どこなんだ妖精に会える場所は?」
「スコットランドにゃ。」




