A-018.0526.0421 霄を仰げば
「結局、分からないわ」
「そっか」
藤子の相槌は平坦だった。それ以上の言及もなく、憐れんだりもしない。
わたしにはそれがありがたかった。
「せっかくだし飲み物、飲んでみない?地下と全然違うのよ」
「へえ?」
自動販売機の前に立ち、それぞれボタンを押す。
「アスカちゃんはやっぱり紅茶なんだ」
「ええ。変わらないわ」
紅茶の香りが、あの日の朝を思い起こさせた。まだ三年。もう三年。
「ココアってこんな濃厚で甘かったっけ?くちどけも風味も全然……」
飲み物も全て人工物である地下とは、味も香りも舌触りも違う。人工食は、それっぽく再現されているだけに過ぎない。
「紅茶も飲む?」
「うん!一口交換しよ!」
ココアは確かに甘ったるくて、温かくて、時間がゆっくり流れている気がした。
「甘いのもたまには良かったでしょ?」
「そうね。機会があったら買うわ」
それからわたしたちは、時間も忘れていろんなことを話した。知らなかった景色、気づいた匂い、砕かれた常識。価値観の変化を共有して、比べて、わたしたちはまた一歩、大人に近づいていく。
咀嚼しきれず、ぶら下げたままのものもあるけれど。
きっと、それでいいんだ。
間違えて、修正して、自身を顧み、及ばぬことも受け入れたその先で。
霄が、白み始めている。
「……キレイ」
藤子が呟く。
視界を遮る摩天楼は存在しない。
地平線の向こうからやってきた光は、建物や草木に反射して、ゆっくりと町を色づけていく。
この霄は作り物ではないのだ。
そして、朝が来る。
お疲れ様です。
人は主観を通して世界を見ています。感情も含まれます。
同じ景色を眺めても、抱く心情次第で経験は変化してしまう。
どれだけ美しい光景でも、悲しい出来事のあとではどこか物悲しく見えることでしょう。
あるいは。
更新は一週間後、1月16日の予定です。
よろしくお願いします。
次回は、久しぶりにあの二人です。




