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水連

 開け放たれた玄関、全員がそっちへ振り返る。


 そこに立つのは、黒のフルフェイスメット、そして全身黒タイツを基準に、胸や手足に金属の装甲を付けた女性だろう人物だった。


「お、お前、じゃあ、こっちのは……」


 慌てて歪みへと振り返るジンタ。


「それはフェイクです」


 返す言葉と同時に、ジンタの背中に黒ずくめの女性が抱きついた。


「う、うおおおおぉぉぉぉっ、離れろ――――っ」

「いやです~~~~~~。ん~~~~~会いたかったですよ~~~~、マスター~~~~~」


 必死に振りほどこうとするジンタ。

 嬉しそうにしがみつく黒メットの女性。


 それを見守る興味津々に輝く瞳と、超の付くほど冷めた瞳の数々。


 必死に振りほどこうとしているジンタに周囲の目が分からないが、それほど必死に振りほどこうとしているのだ。


「あの、ジンタさんもういい加減いちゃつくのは止めてもらえます? そしてその人をいい加減紹介してください」


「はっ!」


 いつもより二つほどトーンを下げたイヨリの声は、ジンタの背筋を一気に凍らせた。


「い、イヨリ、これは――――」

「ええ分かりますよ。ほんっっとうによく分かります。二人の仲が良いのは、よく分かりました。それでその方はどなたですか?」


 笑顔。

 とんでもなく引き攣った、とんでもなくヤバそうな目の笑っていない笑顔のイヨリ。


「や、だからさ、ちょっと話を――――」

「ええ、だから誰ですか?」


 押し問答のような二人のやりとりに、女性が加わる。


「ああ私のことはお気遣いなく。それと、私とマスターのためにベッドを一つ用意しておいて下さい」


 引き攣るイヨリの笑顔が固まった。

 代わりにジンタの顔が引き攣った。


「あ、あの、い、イヨリ、さん、ちゃ、ちゃんと話を――――」


「ええ、そうですか。そうですね、すぐ用意しますね」


 今までで一番良い(こわい)笑顔を称え、イヨリがくるりと背を向けた。


 スタスタと歩き出したイヨリは、なぜか部屋に向かう扉ではなく、台所に入っていった。


「げっ!」


 何となく、こういう時の定番。包丁でも持ってくるのかと思い、ジンタを始め全員が怯えたが、イヨリはなんとそんな全員の予想、その斜め上を行く暴挙に出た。


「「「「「「「「げっっっっっっ!」」」」」」」」


 全員が一斉に後退った。


 台所から出て来たイヨリの手に、ビールジョッキが握られていたから。


「あ、あれはまじい、まじいぜ」


 エルファスをいつでも抱えられるように抱きしめてミト。


「ささ、ロンシャン様、今日は街で宿を取りましょう」


 もうロンシャンを抱き上げているリカ。


「ま、ままま、松さん、わ、私達もそろそろお暇しましょう」


 ベンジャミンの手を引き、玄関前で竹。


 三つの家族が見事なほど即座に動いていた。


「ま、待てイヨリ。ほんとにそれだけは待ってくれ」


「いいえ、やめませんっ! ジンタさんも好き勝手してるんですから、私だって!」


 手に持つビールジョッキを持ち上げ始めるイヨリに対し、


「い、イヨリ、飲んじゃダメだよ~~~~」

「そ、それはイヨリさんにとって禁断の飲み物ですうぅぅぅ~~~~」

「イ、イイイイ、イヨリ、それダメ、ダメだよイヨリィ~~~~」


 ミリアと雪目とリゼットの悲痛な叫びが響く。


 ビールジョッキがイヨリの口元に付けられようとしたとき、


「すいません。私がふざけすぎました」


 ジンタに抱きついていた黒メット黒タイツ+装甲の女性が、ジンタから離れて深々と謝った。


「えっ?」


 勢い込んでいたイヨリが、あまりに呆気ない相手の対応に毒気を抜かれたように目を白黒させた。


「本当にすいませんでした。なんせマスターに喚ばれて三日目で、あんな次元の裂け目に捨てられたので、ついまた戻って来れたのが嬉しくて……」


 およよ、としおらしく泣く素振りを見せる黒メット女。


 その姿を見て、その場の全員がどうしようとジンタに目で訴えてきた。


 とりあえず、色々な意味で乱れた服装を整え、ジンタは黒メットをみんなに紹介した。


「まあなんだ、とりあえずコレがどうしてだか俺の『召喚の儀』で現れてしまった水連だ。種族はアンドロイドってことでいいのかな。こいつは一応このリリフォリアの生まれで住人らしいんだが、どこに住んでいたのか、どこから来たのかも一切教えてくれない。ただ、口振りから喚んだ俺の魔力を動力として動いていて、しかも俺の記憶をもその魔力から読み取っているらしいんだ」


 一応話終わったジンタ。

 見渡せば、全員がぽかーんとしていた。


 そこに今ジンタが紹介したアンドロイド水連が一歩前に出て自己紹介を始めた。


「ご紹介にあずかりました。私は水連と言います。マスターであるジンタ様は私のことを『お前』とか『おい』とか『この雌豚』などと言ってもよろしいですが、皆さんは私のことを尊敬の念を込めて水連様とお呼びなさい」


 ボカリッとジンタが水連の黒メット状の頭を殴る。


「ご、ご褒美ですか! マスター」


「違うわっ!」


 首根っこを掴んでガクンガクン揺するジンタに、ああ~~それはそれで気持ち良い刺激ですぅ~~、と喜びの声を上げる水連。


 そんな二人をどうしていいのか分からず、とりあえず見ていた全員の中、一番に口を開いたのはやっぱりロンシャンだった。


「あ、あのジンタさん」


 手を上げているロンシャンにジンタはどうぞと頷く。


「種族アンドロイド、とは一体どんな種族なんです?」


 ジンタは、一瞬考えるように天井を見てから、


「えっと、ロボットみたいなモノって言ったら分かるかな?」


「ロボット……、ですか?」


 言ってから、ジンタも、ああ~っと思った。


 このリリフォリアではあまりそういったモノは存在していない。多少の機械はあるが、ロボットやアンドロイドといった超高度な代物はジンタも見たことがない。ただ一箇所、アンドロイドやロボットとは意味合いが違うが階層を行き来するための施設とも言える『天翔る橋』以外。


「ああ~~なんと言えば良いかなあ……」


 まだ分からないといった表情のみんなにどう説明すれば良いのか考えあぐねているジンタの肩を叩き、水連が前に出る。


「ここは私にお任せ下さい。私が、この知能皆無の下民共に分かり易く説明致しますから」


 挑発とも取れる言葉もいくらか混じっているが、そこはみんなスルーしてくれたようだった。


「では、私の正面に立って下さい」


 水連の言葉に、全員が水連の正面に立つ。


 ジンタも行こうとしたが、水連にジンタだけは後ろにいて下さいと言われたので、従った。


「アンドロイドというのはこういうのを言うのです。行きますよ」


 水連の言葉で全員が凝視しゴクリと息を飲む。


「パカッ」


「「「「「「お、おぉ~~~~‼‼‼」」」」」」


 水連が口で言った言葉ではあるが、それと同時に前に立つ全員が一人も例外なく目を見開き感嘆の声を上げた。


 それもそのはず、ジンタからは見えない方向のはずの、正面側の水連の顔や腕がジンタの方に向いていたのだから。


 分かりづらいかも知れないが、水連は正面に立つみんなに向け、体の表面を全部ぱかりと一部を起点に広げ、その内部を見せたのだ。


「ちょっ、おい、水連。それ俺にも――――」


「マスターには二人っきりのときに、お見せしますよぉ~~」


 体の表面を全部広げ、逆さになったヘルメットの頭部分から水連はそう言った。


「では、一応精密機械ですのでもう終わりです。パカリ」


 そう言うと、広げていた表面部分が元に戻った。


「どうですか、分かりましたか?」


 サラリと言う水連に対し、全員の表情は驚いたまま固まっていた。


「あ、やっぱり下民には刺激が強すぎましたかね? マスター」


 しょうがないですよねえ、とばかりにジンタに向け肩を上げてみせる。


「いや、普通に俺でもいきなりあんなことされたら思考が止まるぞ……」


 ジンタが呆れたように言う。


「ほほう、ではマスターの黒歴史の語り部足るこの私が、今度その方法でマスターの動きを止めてあれやこれやをやってみましょう」


「させるか!」


 ゴチンと、水連の頭を小突いた。


「あ、あのジンタさんに水連さん」


 やっぱり今回も、一番最初に我に返ったのはロンシャンだった。


「い、今のは、本当に水連さんの体の中はそんなので動いているんですか?」


「んん……、まあアンドロイドだしな。なんというか――――」


 言い掛けたジンタの言葉をミリアが止めた。


「すっっっっご~~~い、一杯のお菓子が体の中に入っていたよ~~~~」


「あーちゃんもみたよ~~~。いっぱいあったよ~~~」


「リゼットも、リゼットも見たよ! リゼット水連の中に行きたいよっ!」


「おいおい、マジかよ。お菓子で動いているって一体どんな奴なんだよ……」


「世の中……、ほんとに分かりませんわね」


「あんな動くお菓子一体どうやって作るのかしら? 今度教えて欲しいわ」


「お、おお、おおおお菓子が動くなんて……」


「わっちも驚きだす、お菓子が体の中で体を動かしてるだなんて……」


「う、うまそうっていっていいのかな? ベンジャミン」


「ど、どうなんでしょう……」


「ええ、ベンジャミンってば、あれ食べたいの?」


「なんて……、なんて精巧な作りだったんだ……」


「芸術、ですよねぇ~~~~」


 ミリアを口火に、全員がほぼ同時にそれぞれの感想を述べた。


「…………………………は? お菓子? 動く?」


 それを聞いていたジンタが一番困惑した。


 そしてゆっくりとヘルメット女である水連を見ると、ヘルメットのちょうど口部分が左右にスライドして、んべ、と舌らしきモノが出た。


「お、おまえ……」


 ガシリとジンタがヘルメット頭を鷲掴む。


「ま、待ってくださいマスター、よく考えて下さい。普通に初対面の人にマスターは自分の体の中を見せますか?」


 言われていることをよく考えると意味が分からなくなるが、確かに、初対面の人に裸を見せると考えると、やっぱりそれは恥ずかしいし、変態チックな気もしてくる。


「まあ、確かに……それは恥ずかしいかも知れないな……」


「ですよね。どうせ初めて見せるなのならやっぱり最愛の人でないと」


 つつつと寄ってくる水連を、ジンタは押し退ける。


「それでも嘘は良くないだろ」


「う……、そうですね、ちゃんと言います」


「おう、そしてくれ」


 水連は渋々と全員に向き直り説明した。


「私はマスターの愛玩具水連です。一応マスターとの間柄で言えば、黒歴史担当となっていますので以後お見知りおきを」


「愛玩具?」「黒歴史?」と各方面から戸惑いの声が上がる中、


「おいいいい!!!」


 一番慌てたのは、当然ジンタだった。


 両手でガッシリと背を向けているヘルメット頭をロックし、一切の手加減もなく自分の方へとグリッと捻って向かせる。 


「だからお前は何を言ってるんだ!」


「いえ、私的には至極当たり前にして、崇高なことを言ったんですが」


 それが何か? っと一八〇度回ったままの頭で、水連が首を傾げた。


「だから――――」


 そこまで言って思い出す。


 こいつが、こういう奴だからこそ存在そのものを亡き者にしようとしたのだと。


 そして、もう一度封印しようと決める。


「なあ、水連」


「なんですかマスター?」


「お前さ、ちょっともう一度次元の扉開けてみ」


 ジンタは言った。


 どういうわけかこの自称ジンタの黒歴史であるアンドロイドは、次元の扉を開けられるのだ。


 それがどういった次元なのかは、正直ジンタはもう知りたくない。

 前回喚んだ時、ジンタ自身がそこに入り、結果とんでもなく酷い目(迷子)になったのだ。


「いいですけど?」


 困惑するみんなの前で、水連が何もない空間に向けコンコンとノックする素振りをすると、そこに扉が現れた。


 そしてカチャリと扉を開け、


「開けま――ゴブッ!」


 扉を開け、どや声で振り向こうとする水連に、ジンタが全力のタックルをかます。

 扉の中へと勢い良く倒れ込んだ水連を確認して、ジンタは全力で扉を閉める。


「釘と板と金槌を!」


 扉を押さえ込んだままジンタが叫ぶ。


「は、はい!」


 イヨリが、必死なジンタの叫びに反応して急ぎ道具をとりに行く。


 数十秒後、トンカントンカンと必死に板を扉に打ち付けるジンタ。


 その背後から声がする。


「マスター手伝いましょうか?」


「いや、これは俺の使命だからっ!」


「そうなんですか、大変な使命なんですね」


「ああ、つい興味本位であんな化け物を喚んじまった俺が――――」


 言い掛けたジンタの手が止まった。


 ゆっくりと振り返ったジンタの目の前に、両腕を組んでうんうんと頷いている水連が居た。


「お、お前どうやって……」


「え? どうって、普通に向こう側からコンコンってノックして、ここに来ましたけど?」


 自分の後ろを指差す水連、その背後に今ジンタが打ち付けている扉と同じような扉がある。


「え? 普通に二つ出せるの? じゃあどうして今まで現れなかったんだ?」


「それはマスターが、私を呼ぶまで待ってたんですけど?」


「待ってた?」


「はい」


「それだけ?」


「ええ、それだけですけど?」


「別に帰ってこられなかったとかじゃなく?」


「え? いやだなぁ~~自分で行き来が出来る次元ですよ? 普通にどこでも行けますし開けられますよ~~」


 あっはっはと笑い飛ばす水連を見て、ジンタは疲れ切ったようにガックリと膝を付いた。


「まあ向こうにいると、声は聞こえても姿が見えないから寂しいですけどね」


「え? 声は聞こえる……?」


「ええ、聞こえますよ? マスターがいつもあれだけ昼間しごかれて、お風呂に入るのも食事をするのも億劫になるほど疲れて果てているのに、夜な夜な「はぁ、はぁ、イヨリ~~、うっ」と何かをしながら言っていたのも聞こえていたんですが、ナニをしているのかまでは――――」


「ウギャアア――――――――ッ! ワ――――――――――ッ!」


 しれっと語る水連に対し、顔を真っ赤にしたジンタは両手を左右に大きく振った。


「…………………………も、もう許してくれ、勘弁してくれ~~」


 ジンタは涙を浮かべて、水連に頭を下げた。


「何を許すのか分かりませんが、マスターがそう言うのであれば私は許しましょう」


 困惑したような仕草をしながらも水連が頷いた。


「さて、それでは今日はもう遅いですし、私も少し疲れました。そろそろ休むとしましょう」


「お、おう、そうか? それは色々と俺も助かるよ……」


 心底ホッとしたジンタ。


「それで、マスターの部屋はどこですか?」


「え? 俺の部屋? 俺の部屋は……」


 ジンタがチラリとイヨリを見る。

 自身も一年ぶりの我が家、そして一年ぶりの我が部屋となる訳で、前のままかどうかもまだ確認していない。


「ジンタさんの部屋は、あの時のままになってますよ」


 まだ良く状況の理解が追いついていないのだろう無表情に近い顔で、イヨリが教えてくれた。


 あの時のまま、というイヨリの言葉に、何となく安堵し再度ほっとしてジンタはそれを水連に伝えた。


「俺の部屋はそこの廊下の三番目だ」


「分かりました。では私は先にベッドで待ってますね」


 さも当たり前のように水連が言った。


「え?」


 心底ホッとする安堵が二回あったせいか、まだその言葉の意味が理解出来ないジンタだったが、それがどこか変だとは気付いた。


「いえ、ですから、私が先に言ってベッドを温めておきますねと言ったんですが?」


 おかしなことを言いましたか? と小首を傾げてみせる水連。


「え? あれ? ベッドを温める?」


 それでもまだ良く分かっていないジンタだったが、違和感より背に刺さる殺気に気付いて振り返った。

 そこには、無表情過ぎるイヨリの顔があった。

 そう無表情に目が死んだ状態のイヨリの顔が……。


「あ!」


 約一年ぶりの危機感を本能的に察したジンタが何かを言おうとしたが、それより早くイヨリがテーブルに置きっぱなしだったビールジョッキを煽った。


「「「「「「「あっ!」」」」」」」」


 全員が声を揃えた。


「ひっく!」


 煽ったジョッキが微かに傾きを戻しかけたとき、イヨリからそんなしゃっくりが聞こえた。


「や、やべええっ!」


 ミトがエルファスを抱き抱え、


「そろそろ帰りましょう」


 竹がベンジャミンを出口に向け押し、


「ささ、ロンシャン様、そろそろお部屋へ」


 リカがロンシャンを庇う。


「い、イヨリ?」


「い、いおり大丈夫か~?」


「だ、ダメだ二人共!」


 近づこうとするミリアとあーちゃんを、ジンタは叱咤し止める。


 イヨリのジョッキを持つ手が一気にだらりと垂れた。


 誰かの生唾を飲む音が聞こえる。


 桜色に頬を染めたイヨリの顔。

 しかし、その目は完全に据わっている。


 ――――ど、どうする……。どうする、どうする――――


 混乱する頭、動けないジンタの元へ、イヨリが一歩を踏み出してくる。


 ゴクリと、今度はジンタがツバを飲む。


 あの地獄のようなしごきに耐え、やっと帰ってきて初日、それで死ぬことになろうとは、そう覚悟を決めたとき、


「おやおや、イヨリさんすっごくいい飲みっぷりでしたね」


 ジンタの横をあっはっはっと、メットの中が見えないがきっとあほ面をしているであろう水連が通り過ぎた。


「ほんと羨ましいぐらいすっごくいい飲みっぷりでしたよ」


 バシバシとイヨリの肩を叩く水連。

 そんな水連を、ジンタを始め誰も止めなかった。


 正確には、止めなかったと言うよりは、まさかこの状態のイヨリに何の考えもなく近づくお馬鹿がいるとは、誰も思わなかったのだ。


 いまだイヨリの目の前で馬鹿笑いをしている水連。

 そんな水連に向け、据わった目をしたままのイヨリの右腕が動く。


 全員が固唾を飲んで見守る中、馬鹿笑いしている水連の頭をイヨリがわし掴む。

 大きな鉄の手で。


「あ、あれ? イヨリさんそれって獣人化していません?」


 笑いを止め、水連が言う。


 ミシミシミシッ


 ジンタの耳にも、何かが軋む音が聞こえた。


「あ、イヨリさん、さすがにそれはちょっと痛い、感じなんですけど~~」


 水連が、幾分困惑と戸惑いを見せる声を発する。


 メキメキメキッ!


 声とは裏腹に、軋む音がヘコむ音へと変わる。


「い、いたい、痛いですよ、イヨリさん」


 さすがに痛いのだろう水連が、イヨリの鉄の太い手を掴む。


 ベコッ!


 凄まじい音と共に、水連の黒いヘルメットなのか頭なのか分からない頭部部分が大きくヘコんだ。


「かはっ!」


 気の抜けたような水連の音声。


 対し、


「黙りなさい、この泥棒猫」


 静かだが、ドスの効いたイヨリの声。


「ど、泥棒猫? いえ、私はそんな未来から来た手足の短い耳のないロボットではなく、一応アンドロイドでして……」


 この場にいる中で、ジンタ以外誰も知らないようなことを口走る水連。


 メコメコッ!


 水連が下らないことを言っている間も、その頭部がヘコんでいく。


「い、いや、ちょっとさすがにそれ以上は、私の頭がスプラッタ的にスクラップになっちゃいます」


「私は黙りなさいと言ったんです。分かりませんか?」


 完全に目を据わらせたままのイヨリが言う。


 ミシミシミシッと軋む音が響き、二人の動きが止まる。


「さ、さすがに、このままそれを受け入れるのは私的にも色々問題がありますの抵抗させて頂きます」


 水連が言う。


 同時に、圧倒的チカラで押さえ込んでいたはずのイヨリの手が、水連の頭から徐々に持ち上がっていく。


「こ、こんな、ば、ばかなことが!」

「い、イヨリさんのチカラを押し返しているただ!」

「水連さんって、チカラもすごいんですねぇ~~~」


 ラーナ、梅、水音が、あ然とする全員に変わり、驚きを口にする。


 ついに、水連の頭からイヨリの手が遠ざかる。


「いなしますよ」


 水連の言葉。


「皆さん逃げて下さい!」


 雪目の叫ぶ声。


 同時に、水連が持ち上げたイヨリの手を横にいなした。


 っっっっっっずん!


 イヨリが水連を押し込もうとしていたチカラの勢いを、そのまま居間の地面に放つ形になる。


 木の床に大きな手形の穴が開く。

 しかもそれだけでは収まらず、大きな地震のような振動を辺りに撒き散らす。


 揺れが収まる。


 ゆっくりと立ち上がり、水連と対峙するイヨリ。


 誰かが叫ぶ。


「とりあえず外へ出ろっ!」


 叫びに体が反応する。対峙する二人を残し全員が我先にと玄関の扉に殺到する。


 必死に外に出て振り返ったジンタの目に、我が家の居間の大窓から四人が座っても余裕があるソファーが大きな音を響かせ飛び出してきた。


「おいおい……」


 何度目か、もう覚えてないツバを飲む。


「ジンさん、もう少し離れた方がいいよ」


 ミリアの声に頷きを返し、ジンタはさらに数歩下がる。


 その後、閉められた扉の向こう。

 我が家の居間から凄まじい音が飛び交い、それはイヨリが酔い潰れて寝てしまうまでの、明け方近くまで続いた。


 真っ暗な中、静まり勝った我が家の風景。


 結果だけを言えば、この件による被害は居間の全損と一部居間側にあった部屋が半壊。

 詰まるところ我が家がトータルで見て半壊する程度で済んだ。


「さて、とりあえず寝ようか」


 誰にともなくそう言いながら、ジンタはもう影も形もない玄関部分から全壊した居間へと入り、半分以上が吹き飛んで取っ手の部分がなくなった部屋へと続く扉を蹴り開けて、自分の部屋へと向かった。


 やっと帰ってきた我が家が一日も経たずして半壊。


 とりあえず今日はもう疲れたから寝る、心底疲れ果てジンタは毛布に包まり眠ったのだった。

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