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【相愛・二人の物語】  作者: motomaru
第三章

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雛子の訪問

「あの、すみません」

 沢村雛子は紫苑の校門から出て来た生徒に声を掛けた。

その生徒は偶然にも佐理と同じクラスの村上という生徒だった。

「何か?」

 彼は制服の違う雛子を見て丁寧な口振りで尋ねた。

「あの、篠宮君知ってます?、まだ居るかどうか分かりませんか?」

「えっ、篠宮……さぁ……」

 村上は佐理の名前を聞くと、急にキョロキョロと辺りを見回し始めた。

誰か他にタッチ出来そうな奴が居ないか探しているのだ。

そこへ希恭が充と連れ立ってやって来たものだから

「星河!」

村上は渡りに船とばかりに希恭を呼び止めた。

 雛子は星河と呼ばれた生徒の方へ目を遣った。

彼はスラリと背が高く端正な顔立ちで、タイプは違うが佐理に引けを取らないほどの容貌をしていた。

「篠宮の事ならあいつに聞いてみれば?」

村上が愛想笑いしながら希恭を指差して言った。

「何か用か?村上」

 希恭は村上の所まで来てから、南原の制服を着た雛子に気付いて不思議そうに彼の顔を見返した。

「何かこの子篠宮に用が有るらしいから、後よろしくな、じゃ」

 村上は軽く手を挙げると、まるで関わりたくないとでも言うようにそそくさと立ち去って行った。

「失礼だけど、あなた星河希恭君?」

 雛子は帰っていく村上を目で追うようによそ見している希恭に向って尋ねた。

「え、そうだけど……君は?」

希恭は雛子の方へ向き直って少し怪訝な面持ちで聞き返した。

どう考えても雛子の顔に見覚えが無いのだ。

「私、南原校の沢村雛子です。よろしく!」

雛子はニッコリ笑って答えたが、その名前も希恭には覚えが無い。

「はあ……あの……」

 希恭は何か言いたげに雛子を見ている。

「ああ、あなたの事は篠宮君に聞いてたから……」

雛子は希恭の様子からピンときたのかそう答えた。

「佐理から?そうなんだ、それで……」

希恭はそれでもまだ半信半疑のようだ。

「あの、篠宮君まだ居るかしら?」

 雛子が改めて尋ねた。

「佐理なら多分校長室じゃないかな……?放課後呼ばれてるって言ってたから」

「校長室!? 彼、何か悪い事でもしたの?」

雛子は苦笑するように言った。

「いや、そうじゃ無くて、創立記念の事で教頭が何か話しが有るとかで……」

「創立記念?そっか、じゃあ遅くなるのかな……?」

彼女は少し考え込むように呟いた。

「あの、不躾だけど佐理とはどういう……?」

 佐理の事なら大抵知っているつもりの希恭は、自分の知らない雛子の出現に戸惑ってつい余計な質問をしてしまった。

「キスまで行った仲」

雛子はニッコリ笑って答えた。

「えっ……」

彼女の返事に希恭は驚きを隠せず、大きく目を見開いている。

充などはビックリし過ぎて、手持ち無沙汰に膝で揺らしていた鞄を危うく落としそうになって慌てて抱き抱えた

くらいだ。

「だったら良いな……なんて……アハハ、ちょっと冗談がキツかったかしら……」

 希恭達の驚きようが余りにも酷かったので、雛子の言葉は申し訳無さそうに尻窄みになる。

「あ、ああそう……」

希恭は今のショックが抜け切らず、強張ったままの顔に引きつるような笑顔を作っていた。

 雛子は希恭の様子に却って困惑してしまった。

彼女が困ったような顔で立っていると

「あの、ちょっと見てくるよ。ここで待ってて、充も」

希恭は二人にそう言って、校舎へ引き返して行った。

 そこへ希恭と入れ代わるように重い足取りの綾が現れて

「充君、恭は?一緒じゃないの?」

校門の前に立っている充に少し笑って声を掛けた。

「今、校長室へ篠宮先輩を呼びに行ってます」

充はそう答えると顔を顰めて視線を落とした。

「篠宮君を……?」

綾の顔も曇りがちだ。

「この方が篠宮先輩を訪ねてみえたから……」

充は雛子の方を掌で示して綾に教えた。

「あ、こんにちは……」

 綾は横に立っている自分より少し背の高い雛子に遠慮気味な挨拶をした。

「こんにちは。私、南原校の沢村雛子です、よろしくね」

雛子もさっきとは違った落ち着いた態度で挨拶を返した。


〔コンコン〕

 希恭は校長室のドアをノックした。

「誰だね?」

中から神経質そうな声が返ってきた。

「あの、三年の星河です。お邪魔してもよろしいでしょうか?」

「入りたまえ」

希恭がドア越しに返事をすると、中から再度返事が返ってきた。

「失礼します」

希恭は声を掛けてからドアを開け、中に入って後ろ手にドアを閉めて一礼した。

だがそこに佐理の姿は見あたらなかった。

「何か用かね?」

 正面の大きな机に向って書類をめくっていた教頭は、俯いたまま眼鏡を少しずらした上部から希恭を見て愛想の無い顔で尋ねた。 

「あの、篠宮が伺っていないでしょうか?放課後はこちらに伺っていると聞いていましたので」

希恭は慣れない言葉で丁寧に尋ねた。

「そこは『聞いて()()()()()ので』のほうが適切でしょう。見ての通り篠宮君は来ていません」

教頭は希恭の言葉遣いを注意してから答えた。

「あ、はぁ……」

 希恭は戸惑った。

当然佐理はここに居ると思っていたからだ。

「篠宮君は急用が出来たそうで私の用は明日に回しました、もう帰ったのではないですか?」

「そうですか、分かりました、お忙しい所お邪魔をして申し訳有りませんでした。では失礼致します」

希恭は丁寧にことわりを言って頭を下げてから退室すると真っ直ぐに校門へ向かった。

 校門の所には充と雛子、それに綾と三人が待っていた。

「恭!」

綾が戻って来た希恭を目敏く見付けて呼び掛けた。

「綾、来てたのか」

希恭は駆け寄りながらニッコリ笑って言った。

それから雛子に向って

「佐理、急用が出来たらしくてもう帰ったみたいなんだ」

と説明するように言った。

「そう……残念だな……」

雛子が少し淋しそうに呟いた。

「あの、良かったら一緒に帰ろうよ、な、いいだろ綾?」

 希恭は先に雛子に尋ねてから綾にも同意を求めた。

「うん、恭がそうしたいなら……」

綾は少し俯いて答えた。

本当の所、綾は希恭と二人っ切りになりたかったのだが、屈託の無い希恭の笑顔を見ると強く拒否することは出来なかった。

「あの、お近付きのしるしに何処かでお茶でもしませんか?そのほうが落ち着いて話も聞けるし……」

雛子はごく自然に希恭達を誘った。

「ああ、そうだね、僕も聞きたいこと有るし……そうしよう」

希恭も雛子の意見に同意した。

 それから暫くして、四人は大通りから少し入った所に有るこじんまりとしたパーラーに収まっていた。

テーブルに着いた四人の前にそれぞれが注文した品が運ばれて来て、それを置いたウェイトレスが奥へ引っ込むのを待っていたように希恭が口を開く。

「沢村さん……だったよね?」

「ええ、でも堅苦しいから雛子で良いよ」

「じゃあ、雛ちゃんで良いかな?」

 希恭が気軽に聞いて、雛子が笑って頷くのを見ると、希恭は話を続ける。

「雛ちゃんは佐理と何処で知り合ったの?」

「河原よ、昨日河原で偶然知り合ったの」

「昨日!?」

希恭は少し驚いた。

「それが私……篠宮君に怪我させちゃって……」

「佐理、怪我してたのか……気付かなかった……」

希恭が呟くように言って視線を落とした。

「正確に言うと、家の犬が篠宮君の腕に噛みついちゃって……」

雛子は申し訳無さそうに肩を落とす。

「だけど佐理は何でそんな所に……」

「本を取りに行った帰りだって言ってた。河原で少し休んでたみたい」

「本を……?」

「そう、名画総監っていうとっても分厚い本。それで怪我した腕でそんな本持って帰るのは大変だろうと思って家まで送って行ったの、それから傷の手当てして……」

「それで怪我は?大丈夫なの?」

希恭は佐理のことが心配になって雛子を急かすように尋ねた。

「思ったよりは大丈夫そうだったけど、でも気になって……私のせいだし……」

雛子の答えに希恭は少し安堵した。

「それで今日訪ねて来たんだね?」

「それも有るけど、篠宮君のこと何だが気になって……変でしょ?昨日初めて会ったばかりなのに……」

「ちっとも変じゃないよ、それって……もしかして一目惚れじゃないかな……?な、綾」

 希恭はさっきから黙っている綾に何気無く言った。

「うん、私にも覚えが有るな……恭を初めて見た時ドキッとして、それから胸がキュンとなって、のぼせたみたいに顔が熱くなった……入学式の日だったな」

綾はその時の事を思い浮かべながら静かに話した。

「え、綾ってそんなに前から俺のこと思っててくれたのか?それならもっと早く言ってくれれば良かったのに……」

希恭は綾を見詰めながら悪戯っぽく微笑んだ。

 佐理とギクシャクするようになって気分的に落ち込んでいた時、時々見掛ける綾の笑顔に惹かれ始めるまで、希恭はそういった事にあまり興味が無かったのだ。

「恭ったら知らないの!? 入学式の日から恭と篠宮君は注目の的で、女子部じゃ毎日噂で持ち切りだったんだよ、もともと中等部から有名だったみたいだし、だから私なんかがって最初から諦めてた。それにあの頃恭は何時も篠宮君と一緒で、羨ましいくらい仲が良くて……何だが割り込めないような気がした……」

綾は物思いをするように目を伏せた。

 紫苑は古くから有る私立校で、中高一貫では無いが男子部は少し離れた所に中等部が有る。

二人は中等部から入学していて、その頃から目立っていたのだ。

特に佐理はその中性的な美しい容姿から高等部にまで名前が知られていたほどで、それが葉月に目を付けられる要因の一つにもなったのだった。





 


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