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【相愛・二人の物語】  作者: motomaru
第三章

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26/33

言葉

 雛子は佐理の方をチラッと見た。

彼は相変わらずそのままだ。

その状態がどのくらい続いただろう、雛子はなんだかじれったくなって、我慢しきれずにまたとうとう声を掛けてしまった。

「篠宮君って無口なのね、あんまり笑わないし……」 

 そう言われた佐理は目を開けて雛子の方へ視線を流す。

「僕は必要以上の事をしたくないだけだ」

「話しをすることは必要な事よ、笑うことだってとっても大切な事だと思うけど?」 

「そうかな……」

佐理が無表情に答えた。

「そうよ、話しをすることで人は理解し合えるし、笑うということは他人ひとの心も自分の心も和ませるわ。心が穏やかだと悪い事なんて考えない……色んな意味でね」

雛子は穏やかに笑って言った。

「言葉は誤解を生む。それに僕は無理に他人と分かり合おうとは思わない、だから最低限の会話で済ませればいい」

「で、無駄口は叩かないって訳?」

「そんなもの必要無いからさ、言葉なんか無くても僕には……」

「僕には?」

 雛子は彼の言葉を促すように言葉尻を繰り返した。

「いや……何でも無い」

 佐理は話しを打ち切るようにそう言って立ち上がると、また家事室へ引っ込んでしまった。

「ふぅ〜」

 雛子は大きく深呼吸して、気分転換するように窓の外の景色に目を遣った。

もう陽が沈みかけて、東の空が暗くなり始めた街には次々と灯りがともっていく。

(もうそんな時間なんだ……)

雛子は頭の中でぼんやりと思いながらその灯りを見詰めていた。

 奥に引きこもっていた佐理が洗濯物を手にして出て来たのは、15分ほど経った時のことだった。

 彼は洗濯物の一番上に重ねておいた花柄のハンカチを雛子に差し出した。

「はい、君のハンカチ」

そのハンカチは、洗いジワが綺麗に延ばされキッチリと畳まれていた。

ハンカチだけではない、一緒に洗ったシャツも綺麗に畳まれている。

「篠宮君、アイロン掛けてたの!?」

 雛子は受け取ったハンカチと佐理の手に有るシャツを見て驚いたように言った。

佐理はそれには答えず、シャツをソファーに置きながら

「もう良いだろ?」

と雛子に言った。

「え?」

「もう気が済んだだろ?」

彼は雛子自身から答えを引き出すように遠回しに言った。

「あ、ああ……そうね、そろそろ帰るね……」

 雛子は直ぐにそれと気付いて立ち上がった。

「おかしい様だったら直ぐに病院へ行ってね、それから連絡頂戴、沢村動物病院で電話帳に載ってるから」

 雛子は玄関で靴を履くと、付き添ってきた佐理に念を押した。

 それまで静かに伏せていたマックスが途端に起き上がる。

「送って行くよ」

 佐理がそう言って靴を履こうとしたが、雛子はそれを制した。

「いいわよ、それじゃ山羊さんの手紙になっちゃうもの」

「山羊さんの手紙?」

「そう。送ったり送られたりキリが無いって事」 

「ああ、そうか……」

佐理は歌の文句を思い出して納得した。

「だけど外は直に暗くなる、女の子一人じゃ物騒だろ?」

「マックスが居るから大丈夫。大抵の人は避けて通るもの、ね?」

雛子はマックスに同意を促す。

「オンッ!」

マックスは返事をするように低い声で一声哭いた。

「でも……」

「他人の心配はしないんじゃなかったの?」 

「…………」 

「フフフッ心配しないで、本当に大丈夫だから」

雛子は返事をしない佐理を見ると苦笑して言った。

「別に心配してる訳じゃない」

佐理はぶっきらぼうに答えた。

「そう?なら別にいいじゃない」

「ああ、そうだな」

彼はそう答えながらマックスの顔を覗き込むと

「ちゃんとガードしろよ」

とマックスの鼻先を人差し指で〔チョン〕とつついた。

(本当は優しい人なんだ……)

佐理の様子に雛子はそう思ったのだった。

「マックス、行くわよ」

 雛子はドアを開けて先にマックスを外へ出してから

「じゃあ帰るね」

と佐理に別れを告げた。

「ああ、気を付けて」

佐理が軽く手を挙げて答えると、雛子はドアを閉め、小さく「クスッ」と思い出し笑いをしてから、マックスを連れてエレベーターへ向って歩き出したのだった。





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