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アンブロシアの種  作者: でれ
第1章
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7/19

1-6 魔法と発動

「うわぁーーー!!」

「タカラくん、今、今使って」

「そう言われても!!」


 遡ること1時間。

 その日は町外れにある小さなダンジョンへノアはタカラと一緒に向かった。

 町から数十分、小石だらけの録に手入れもされていない道なりを何度も転びそうになりながら青年は小さな少年の背中を追いかける。朝早くに出たため朝食のパンを食べながら歩いていたが、途中でノアは小鳥にパンを分け与え、自然豊かすぎる穏やかな光景を目にしたせいでその先に待ち受ける試練なんて考えも寄らなかった。

 道中はけもの道へと姿を徐々に変え、むせ返るほど葉の匂いに当てられていく中、とある洞窟の前に立つ2人。小さな洞窟のはずなのにノアが入口の前へ立っているせいで大きく見える闇色の口。臆することなく少年は肩に着いた葉っぱを払い、既に息を切らしているタカラの手を取った。


「ここは外れの洞窟と言われていて、弱い魔物などが住んでいるんだ。ここで少し自分の持っている今の能力を試してみようじゃないか」

「え、え、」

「なに、そんなに心配しなくても。魔法なんてなくても倒せるような小さな洞窟魔物しかいないから安心しなさい。」


 安心と申されても、とタカラは思う。初めての実践で早速魔物を撃つなんてできる気がしなかった。

 ノアはさくさく洞窟へと入っていき、両手で小さく円を描いた。内側から淡い光が浮かび上がり、湿った暗い洞窟内に小さな太陽を作り出して見せた。初めて見るその魔法に感動しつつ、足場の悪い道を進む。

 奥へと進むにつれ暗闇が深くなり、ノアの魔法がタカラを安心させたが、なんとも言えない獣特有の野性的な匂いが立ち込める。どこからかなにかが這う音、コウモリの声が聞こえてきて両者は辺りを警戒する。

 少し開けた空間へ出るとノアは後ろでビクビクしている頼りなさげな青年にいつもより控えめな声で言葉を流す。


「タカラくん、ここで魔法をつかってみよう。僕が使っているのは光属性の魔法、初歩的なものだから簡単だよ。」

「そうか、属性があったね。確か使える人と使えない人がいるんだよね。」

「そうだよ。タカラくんはおそらく使えるだろうからやってみようか。」

「うん、やってみる。」


 魔法の適性について少し学んだタカラは、昨晩教えてもらった魔法について思いを浮かべながら両手を前へ広げる。無詠唱が基本のこの世界は魔力と想像力、適性があれば初級魔法は扱える。

 外で浴びた太陽の光を思い浮かべ、身体に流れる魔力を小さく絞り出すように力を加減させた。魔力の感覚なんて今まで味わったことないはずなのに、くすぐったい様な熱気が身体を這っていく。じんわりとした優しい温かさが溢れ、弱い光が小さな点となって現れる。


「だ、出せた!」

「いい調子。そのまま少し大きくしてみようか。」


 タカラは頷くと、点に意識を集中させる。くるくる回る点は徐々に大きくなり、小さな真珠から小さい頃に遊んだボールの大きさへ形が変わる。


「上手に出来たね。その調子で魔力を込めれば込めるほど光は大きくなるよ」

「やった!」


 初めての魔法にはしゃぐと魔力もご機嫌になったのか、不規則に動いていく。手の領域から離れてはね回るように大きさを膨らませていき、意志を持っているかのように踊り出す。

 笑顔になった二人のすぐ影で小さな生き物が、光の刺激を受けて目を覚ます。惰眠を邪魔したその先を赤黒い目で睨みつけて、筋肉質な後ろ足で地面を叩く。知らない音に気がついた二人は音のする方へと目線を向けると、見慣れない生き物はしゃがり声を上げ一層鋭く射抜いてくる。


「あ、あれって!」

「ちょうどいい。低級モンスターだ。」


 一見、その生き物はウサギがと勘違いする。だが身体を覆う毛は長く薄汚れており、異様に大きい眼に違和感を覚えた。不揃いで鋭い歯は剥き出しになっていて首と目が辺りを窺うように蠢いている。

 可愛げのある生き物とは程遠く、2体は大きく口を開けて尚もがさついた威嚇を上げる。

 その姿を見たタカラは思わず後ろへ一歩下がると、足の音を聞きつけた生き物はひときわ高い声を上げて力強く地面を蹴り上げる。


「わぁ!!」

「んじゃ、まずは火球を出してみようか。ギギは攻撃は弱いけれど動きが素早い。うまく当ててね。」

「えええーーー!!!どうやって!?」


 まるで小さな少年には気づいておらず、ギギと呼ばれた魔物はタカラを目掛けて突き進む。

 読めない動きにただ逃げようとするがあっという間に目の前を塞がれる。

 タカラは思わず手を前にかざして、手に熱をこめてみる。焦りのせいで焦点が合わず、動きの速いギギには追いつかない。何度も出そうと試みるも発動が遅く、当たりはしない。


「タカラくん、集中して。動き早いが単調な動きだから、魔物をよく観察するんだ。」

「そんな!動きが早くて!」

「規則がある、ちゃんと見て」


 涙を浮かべた目で彼は魔物を再度見つめた。

 走って逃げようと辺りをぐるぐる回ると、魔物は真横にはあまり行くことなくその力強い脚で前へ前へと距離を詰めてくる。一見機敏に見えたその動きに単調性が見え、はっとタカラは気づいた。

 それならば、と真っ直ぐ走り出すと二頭とも正直に真っ直ぐ追いかけてくる。一定の距離を突き放し、タカラは勢いよく振り向いた。

 手を前にかざし、ぶれないよう左手で右手首を掴む。睨みつけた先は汚らしい2体の魔物。火球を絞り出す前に、2体を包む大きな炎を想像して、息を大きく吸い込んだ。


「消せ!!!火球!!!!」


 かっと熱くなる外気、手の甲に一瞬走り出した幾千の光のラインが小さな球体を大きくしたようだった。空気が膨張して辺りを割くような音がして燃える光の球は2体をすっぽりと包んで燃え出す。

 大きな鳴き声が炎で焼き殺され、数秒持たずに炎は消え焦げ臭い煙と塵だけ残して辺りの暗さは戻っていく。

「へ?できた?燃えた!?」

「よし!よくできたね!しかも詠唱もできたよ!」

 無詠唱魔法が基本のこの世界は詠唱はしない。だが、詠唱をすることによって具体的な想像と感覚が宿り、魔法を強くすることがある。その分魔力を使う上にロスタイムも出るからあまり好んで使う人はいない。

逃げ回って魔法を打ちまくった身体にだるさが一気に押し寄せる。その場で膝を折るタカラに、光の球を宙に浮かせたノアは駆け寄る。カバンに入れた水筒を取り出し、タカラに渡すと灰のついた手で受け取る。


「つ、つかれた……」

「初めての実戦だからね。詠唱魔法も出来たし、魔法の感覚も上々だからタカラ君は魔法適性が高いかも。戦士はちょっと鍛えないとあれだけど魔法なら……」

「うっ…戦士カッコイイから目指したかったけどな…でも適性あるなら魔法使いもいいよね」

「戦士になれないわけじゃないけど、こういうのはスキルとかも関わってくるから。ギルド行ってスキル見てから決めるといい」

「ん。そうだね」

 水を飲み干すとタカラは震える脚を叩いて立ち上がる。ノアは指先をくるりと回して水の球体を作り出す。そんなこともできるの!?と聞くとにっこりノアは笑って水を器用に水筒へ流し込む。

「冒険に出るから覚えておくといいよ。水は命綱だからね。さて。あといくつか実戦を重ねて、魔法も覚えようか!」

「え!今ので今日終わりじゃないの!?」

「何言ってるの。これからだよ。時間はいっぱいあるけど、それは冒険に使おう。チュートリアルは短い方が良いでしょう?」

「ええーーー」


 静かな森の中、泣き叫ぶ声と爆発音が小さな洞穴から流れ出てくる。ありがたいことにその森にいる人間はいなく、思う存分に今日ははしゃげるなぁと微笑むノアにタカラは気づく余裕すらなかった。

 

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