1-3 世界と神
「タカラくんは神を信じるかい?」
最初にいた場所から少し歩くと小さな川が見えた。反射する水面がキラキラしていて、風も爽やかで気持ちがいい。
少年は履いていた靴を脱いで、浅い川へと足を踏み入れる。その後に俺へ問い掛けた。
「神?見たことないものは正直信じないけど、人の宗教は否定しないよ」
「うーん、そう来たか。まぁ無理もない。君が今いる世界は、神が作った数ある世界の1つなんだ」
「せかい…」
「神は沢山存在していてね、ここにある生物、無生物は神が気まぐれで作ったものが多くあるんだ。君も創造された人間の1人なのだよ」
「まぁ、うん…なんというか、日本もそういう教えの宗教があったりするから、なんとなくわかるよ」
「まだあまり信じてないね。では君が居た世界の話をしようか。」
とりあえず君もおいでよ、と少年は手招きをして川へと誘ってくれた。断る理由、意味もないなら見慣れない靴を脱いで足を水に入れる。冷たい優しい波が足を刺激して擽ったい気分だ。
「君が居た世界は地球だね。場所は日本という。その世界は平凡で基本人間任せに動いている。人は色々な神を信じているみたいだが、神は干渉してこない。ひたすら繁栄と終焉を繰り返す小さな世界だ。」
「え、そうなの?」
「人と神は時間の流れがまるで違う。神々は終わりなんてない。だが生きるものは終わりがある。終わりと言ってもそれは人間次第で、明日になるか数百年先、数千年先かもな。」
「それは一理あるね」
「うーん、君は冷静で話しやすくて助かるなぁ。賢い子なんだね」
「小さい子にそう言われるとなんだか複雑だけど、訳分からない状況だし、夢見てる感覚も抜けてないというか。」
「よろしい。続けようか。」
少年はしゃがみ、足元にある石をいくつか拾った。川から出ると地面に石を幾つか並べる。
「いいかい。今現在タカラくんと僕がいるのはこの世界、この石だとしよう。それで、他に並べたこの石達はこことはまた別の世界になる。つまり世界はいくつかに別れていて、君が元いた場所とは違う文明が進んでいるんだ。この世界もそのひとつさ。」
「へぇ、パラレルワールドかな」
「パラレルワールドの定義は曖昧で人によるから当てはまるか分からないけどね。」
「ちなみにこの石の数だけ世界があるの?」
「それは私にも分からないんだ。もしかしたらあの川の中にある数だけ存在するかもね」
「膨大な話だね」
「私もそう思うよ。」
時間がどれくらい経っているかなんて分からなかった。幸いお腹も空いてこないしトイレに行きたい気分でもない。俺たちは川のすぐ側で寝そべって、太陽の光を思う存分味わう。
「俺たちがいるこの世界はどんな世界なの?」
「おぉ、本題だね。ここは魔法が存在する世界だ。君の世界には科学があって便利だけど、ここはそれの代わり魔法があってね。」
「おお!すごい!」
「私からしたら君の世界の方が恐ろしくすごいと思うけど、まぁ違う世界だしね」
少年は寝そべりながら腕を上げた。両手で円を作ると小さな青白い光が淡い光を放ち宙に浮かぶ。
「えー!なにそれすごい!!」
「これはこの身体の魔力だ。幼いゆえこの程度だが、魔力は成長する。ただし、人生において獲得出来る魔力は決められている。人生100年と例えれば100MPが限度というところだな。もちろん100が限度じゃないぞ。人、魔族それぞれだ」
「え!魔族もいるの!」
宙に浮かんでいた光は形を変えて、見知らぬ生き物を象っていく。少年は指先を動かして、器用に光を操った。耳の生えた人のようなもの、大きくてゴツゴツした身体をもつ男、4枚の羽をもつ小さな妖精、蛇の下半身で上半身が人間の得体の知れないなにか。見たことない生き物達が少年の手によって象られていき、目が離せなかった。
「いるさ。理性があり、人と対等に喋れるものは魔族という。魔族でも様々な種類がある。君の世界で有色人種が存在するようにね。あと魔物は理性のない動物で、人や魔族の魔力に反応して襲いかかってる生き物だ。彼らとは戦うことになるだろう。なにせこの世界は魔法が存在するが、その力と同じくらい危険なことが存在している。」
「人、魔族に魔物、魔法…ファンタジーだね。」
「ふふ。君にとってそうかもしれないね。ここの世界の人からしたら君がいた世界こそファンタジーになるんだよ」
「そ、そっか。なんだかまだ実感が湧かなくて。」
「無理もないさ。なに、これから長い時間をこの世界で過ごすことになるんだ。ゆっくり進めばいい。」
「そういや大事なこと聞いてない」
「なにかな。」
「俺は死んだってことかな。」
「そんなの君が1番自覚しているんじゃないか?私には死の概念がよくわからないんだ。私が言えるのは君が居た世界から君は生命を終えて、神の決定によりこの世界に生まれた、その事だ。」
「ま、待って。神の決定ってなに?なんで俺?」
摩訶不思議な世界に来たのは分かった。俺が死んだということも理解した。異世界…なんて受け入れ難いけどもし夢じゃないなら飲み込むしかない。でも何故、どうして俺が。その理由だけは何も分からないままだ。
上半身を起こして少年を見下ろした。少年はにっこり笑って同じように身体を起こす。
「君がこの世界に来たのはただの偶然。って言えば楽だが、ほんの少しだけ神の目に留まった何かがあるんだ。」




