1-10 スキルと鑑定
「ようこそ、冒険者ギルドへ!」
首都に着くと、早々に連れていかれたのはウノーとドステが所属する冒険者ギルドの建物だった。
荷物達は隣にある宿へドステが運びに行き、ウノーと先にギルドの建物へと入って行ったが、出迎えてくれたのは笑顔が眩しい受付の女の子。
2つに分けて高く括り上げられた藍色の髪が愛らしくも跳ねていて、表情と一緒に動きを見せる。
「彼女はここの受付嬢のテレサだ。博識だから何か質問があれば彼女に聞くと良い」
「んまぁ!ウノーさんってば。照れちゃう!」
大きな目は垂れ下がり、口をにんまりとさせた少女は、照れ隠しでもするかのようにガサガサと書類をかき集めた。彼女はこちらへどうぞと言いながら、受付側にある広いテーブルへと案内してくれた。木造のテーブルはどこか使い古された様な姿をしているのになんだか温かさを感じる。
椅子へ座ると、隣にはウノーさんが座り、向かい側にはテレサが2枚の紙を差し出した。
「こちらは冒険者登録の用紙になります。必要事項を記入して頂き、登録を終えた後、スキル鑑定や試験を行います!」
インクと羽根ペンを受け取って早速紙を見遣る。少し騒がしい周りが気になり、辺りを見ると色んな人がこっちを見ていた。好奇心が込められた視線に気まずさを感じて萎縮すると、ウノーさんが苦笑いをこぼした。
「すまないな。みんな新人は気になるもんなんだ。」
「え、あ、そっか。ちょっと恥ずかしいけど」
「気にする必要はないよ。みんなが通る道さ。新人でスキルか高ければ色んなチームに声掛けられるだろう。だから気になるんだよ。」
ウノーさんの言葉に顔を振り、ペンを握り直した。登録用紙に目を向けて書き込んでいく。
この世界では貴族以外、苗字というのはない。年齢や名前などは書けたものの、住所の欄に手が止まる。気づいたウノーさんは宿屋を記載するように言って、そのほか言語や簡単な学歴もあったが、孤児院出身だということもあり、色々と書くべきところを助言してくれた。
ほとんどウノーさんの助言のおかげで登録用紙は取り敢えず埋まり、テレサも問題無いことを確認して無事仮登録は済むことができた。
この後はスキル鑑定をし、最後に試験となる。
緊張でやけに喉が渇いている気がして、先程出された来客用のコップに注がれた名も知らないハーブティーを飲み干した。視線を感じつつ、テーブルを後にすると、受付後ろにある部屋へと招かれた。部屋の中は少し薄暗くて、さっきまで明るくて活気のあった受付との違いに戸惑ってしまう。部屋には窓がなく、壁一面が本棚で埋まっており、そしてその空間の真ん中には淡い夕陽色に光を零している姿見があった。異質なその雰囲気に気を取られてしまい、思わず目的を忘れてしまったが、テレサに声を掛けられ、はっと振り返る。
「ではタカラさん!鏡の前へお立ちください。」
「へ?こ、この鏡かな」
「そうそう。全身が映る様にしっかり前へ」
腕を引かれ、されるがままに姿見の前へ立つ。テレサは離れると鏡には不安げな自分の顔が浮かんでいた。
見慣れた顔に身体。特に変化が起こることもなく数秒鏡と睨めっこをした。鏡の中の自分と目を合わせていると、鏡の中心に水面のように反射が波打つ。波は徐々に形を変えて1枚の四角い光となり、はらりと鏡の外へとはがれ落ちた。慌てて手を伸ばして受け止めると光は紙になり、ゆっくりと焦げていくような音を出しながら文字が浮かび上がっていく。
「よし、鑑定成功ですね!どれどれ」
両サイド女性に挟まれ、一瞬胸が弾んだ。クールで頼り甲斐のある美人なお姉様と、明るく献身的な可愛らしい少女に邪な感情がにやけて出てきたが、今は真面目な場面だ。深呼吸して紙へと目を向ける。やたら良い香りがするのはきっと気のせい気のせい。
「うーん、体力は平均より低めですが……おっと、これは珍しいですね」
「やはり、思っていた通りだったか。」
体力・運動能力はどうやら平均以下のようだ。心当たりは痛いほどあるが、改めて確認すると泣きそうになってしまう。屈強な戦士になりたかったが、到底無理だと自覚するしかない。
「タカラさん、魔力はかなり高い様です。人は生まれ持った魔力量決まっていますが、タカラさんはお若いので成長中です。基本的には歳を取るにつれ止まりますが、タカラさんはレアスキルである魔力成長があります。」
「え?そうなんですか?」
「これはギルドに戦争が起きるかもしれないな。」
「そこまで?」
「はい。魔力が高いと、それだけでパーティーメンバーに付与魔法かけられますし、高い魔力が必要で大変な治癒魔法も取得しやすいんです。まぁ体力と筋力は低いですが、自分にバフをかければカバーできますからね……可能性は無限大です!」
「あれ、タカラ、好感恩恵も持っているのか?」
「あ!!ほんとだ!すごい!」
「え、あ、えーと」
しまった、と思ったがもうすでに遅い。二人は興味深そうにスキルシートを読み上げていて、隠し通すことなんてできない。
「希少スキルの一つですよ。自身よりも魔力が低い相手に聞く先天性スキルで、人から好かれやすく信頼されるんです。神からの贈り物、ギフトとも言われています。悪人には絶対付かないと言われていますね。」
「持つべき人が持つスキルだ。悪人に絶対付かないのは、付いていたとしても悪事に利用すると神から剥奪されるかららしいぞ。せっかくのギフトだ。日頃の行いには気をつけないと。」
「は、はい!気をつけます。」
ノアが言っていた通りのスキルで、尚且つ貴重なものらしい。魔力成長も十分凄いようだけどこれもやっぱりレアだったのか。確かに信頼されたら詐欺もしやすいし、する気はないけど!ないけど気をしっかり持って善人でいないといけないな。
スキルや魔力について話し込んでいると、スキルシートから焦げるような香りがした。
好感恩恵が書かれている下の空白にジリジリと音を立てて何かが浮かび上がる。
はっと声を出すと、二人は俺の視線の先を覗き、不思議そうに指で文字をなぞる。
「テレサ、これは?」
「えぇ……なんでしょうか。読めない文字ですね……」
同じ空間にいる3人にわからない模様が浮かぶ。触って擦っても何も変化も起きず、2人はただの模様だろうと、その後特に気にすることもなくすぐ別の話をし始めた。
その模様は丸い、種のような小粒の形をしていたが、2人にも分からないなら俺が知る術もない。書類上ただの誤植と自分を納得させて、紙を2つに折り曲げた。
「あ、タカラさん。スキルシートはこの部屋で処分します。」
「え?なんで?せっかくやってもらったのに」
「あのな、タカラ。スキルシートは自分の心臓、弱点なんだ。外に出て漏れたりしたら立場も命も危なくなる。持っていっても良いがおすすめはしない。万が一無くして悪いやつに利用される可能性がある。」
「そっか……考えが足りませんでした。」
「ここにいる私とテレサはギルド直属で守秘義務の魔法がかかっている。外に言いふらそうとすると契約魔法が作動し、違法を行ったとして罪人になるんだ。」
「そこまでなんですね。」
「それぐらい人のスキルはかなりの個人情報なんだ。」
個人情報、この世界でもその言葉が存在するなんてとても意外だったが、そう言われるとかなりの説得力だ。テレサは2つに折られたスキルシートを受け取ると、そばにあった蝋燭の火にかざした。煙が上がり、弱い日の中でじわじわと消えていく紙を灰皿に移すとあっという間に情報は細かい塵に成り果てた。
「タカラ、自分のスキルの詳細は誰にも語らない方がいい。さっき説明した通り個人情報な上、お前は希少スキル二つも持っている。魔力に関してはある程度高いとだけ。魔力成長があるとは言うな。」
「わかりました……利用されるからですか?」
「そうだな。魔力成長は可能性が高すぎる。貴族や王族にすらあまりいないから、戦力や魔道具開発、政治的に取り入れようとする奴らが出て来るだろうな。」
「そ、それは冒険できなくなるから嫌です!」
「ふふ。だろうな。さて、鑑定も終わったことだし、3日後には試験がある。隣の宿にゆっくり休んで、明日は試験についてまた説明しよう。」
「はい!ありがとうございます!」




