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スラムの孤児は慎ましく生きたい~大賢者の遺産を継いだけど、救世主にはなりません~  作者: 鳥助
第五章

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39.提案

 ポーションを入れたリュックを背負い、銀奏の屋根に向かう。慣れた通りを歩いて行くと、お店が見えてきた。


 まずはこっそりと扉を開けて中を確認する。すると、数人の冒険者がいた。出来れば取引現場を見られなくない。だから、しばらく店の前で待つことにした。


 待っていると扉が開き、中にいた冒険者が全員出てきた。これで、店内には誰もいないはずだ。


 今度は堂々と店内に入ると、誰もいないのを確認してカウンターに近寄った。


「ミレナお姉さん、こんにちは」


「あら、いらっしゃい。今日はポーションの納品に?」


「はい。すいません、お願いできますか?」


「もちろん、大丈夫よ。こっちに来て」


 椅子から立ち上がったミレナお姉さんはお店の奥へ私を誘導してくれる。ポーションを取引している現場を見られなくないと相談すると、ミレナお姉さんは店の奥で交渉をしてくれるようになった。これで、安心してポーションを渡せる。


 店の奥の部屋へと入り、ソファーへと座る。リュックを下すと、中からポーションを取り出して、テーブルに並べた。


「はい、今回のポーションです」


「ありがとう。じゃあ、検品するわね」


 そう言って、ミレナお姉さんは一本ずつ検品していった。その時間が緊張する。ドキドキしながら待っていると、検品を終わらせたミレナお姉さんが笑顔になった。


「どれも、いつも通りの最高品質よ。今回も品質を整えてくれてありがとう」


 良かった……問題がなかった。するとミレナお姉さんがお金を渡してきて、それを受け取って袋に入れる。


 いつもはこれから普通の雑談が始まるんだけど、ミレナお姉さんの顔が暗い。


「……何かあったんですか?」


「えぇ、ちょっとね……リマちゃんのポーションのことで相談があるんだけど」


 私のポーションのこと? 一体、どんな相談なんだろうか?


「お話を聞かせてもらってもいいですか?」


「リマちゃんのポーションが有名になったでしょ? その話しが町に広がってね、銀奏の屋根が凄腕の錬金術師と専属雇用したって」


 その話にドキッとした。私のポーションが有名になったことで、何か良からぬことが起きようとしている?


「そんな凄いポーションを作れる錬金術師がいるなら、ウチにも紹介してくれっていうお店が交渉に来たのよ。本当は専属雇用した人を違う所でも雇おうとするのは、ご法度なんだけどね……」


「……それでも強硬してきたお店があったっていうことですね」


「えぇ。迷宮都市で一番の商会、ベルネルゼ商会っていうところからね。物凄い圧力を加えられたわ」


 専属雇用した錬金術師を奪うような事はご法度なのに、圧力までかけてきている。これは、あまりいい予感がしない。


「それで、話しだけはしておいてくれって言われたの」


「だから、私に話してくれたんですね」


「えぇ。本当はこんな話をするのは嫌なんだけど、リマちゃんはベルネルゼ商会に行きたいって思う? 話によると、私のところよりも高くポーションを買い取ってくれるらしいわ」


 ポーションを高く買い取ってくれるのは嬉しい。だけど、その前に不安なことだらけだ。


 ご法度なことまでしてきたベルネルゼ商会。そんな場所にポーションを卸して、自分の身が守れるのか不安で仕方がない。


 これは、安易に頷かない方がいい案件だ。どうせなら、そのベルネルゼ商会っていうところを見ておきたい。


「すぐには返答できません。高く買い取ってくれるのは嬉しいですが、私にとって待遇が悪くなる方が嫌なんです。ミレナお姉さんはとても良くしてくれるので、正直言って離れたくないのですが……」


「そう言ってくれて嬉しいわ。返答の期限は数日あるから、ちょっと考えてみてくれる?」


 ミレナお姉さんが明るくそういうが、顔は暗いままだ。相当、ベルネルゼ商会からの圧が強いらしい。


 どうにかしてあげたいけれど、自分に出来ることはあるだろうか? とりあえず今は、ベルネルゼ商会の事をもっとよく知りたい。


 ◇


「今の話、どうする? 高く買い取ってくれるなら、そっちの方がいいんじゃない?」


 お店を出ると、エルリカがそう言った。


「お金は大事、それは分かるよ。だけど、印象が悪くて……踏み出せないよ」


「あー、確かにそれはあるね。本当はダメなことをやって、ミレナに圧をかけてきたんだから。相当、性格が悪いらしいね」


「ミレナお姉さんも、迷宮都市一番の商会に睨まれたら、大変だと思う……」


 そんな凄い商会に凄まれたら、ミレナお姉さんは折れるしかない。それでも、すぐには私のことを話さなかった。


 それに少し好感を持った。本当ならすぐにでも情報を渡すと思うけれど、それをしなかったのは――少しでも私を守ろうとしてくれたんじゃないだろうか。


 私が目立つのが嫌で、普通に暮らしたいって知っているから、それを守りたくて言わなかった。……まぁ、もしかしたら私の勘違いかもしれないけれど、そうだったら嬉しい。


「とにかく、ベルネルゼ商会がどんなところか調べないと」


「なるほど、調べ物だね。だったら、良い魔法があるよ。透過の魔法」


「透過の魔法?」


「その名の通り、体を透明にする魔法だよ。これさえあれば、どんなところでも気づかれずに入りたい放題!」


 そ、そんな凄い魔法があるんだ。でも、それがあればお店の事、裏の事も詳しく知れそうだ。


「だったら、その透過の魔法を使ってベルネルゼ商会を調べるよ」


「それがいいよ! 自分の身を守るためにも、徹底的に調べよう!」


 こうして私たちはベルネルゼ商会に姿を消して実情を調べることにした。

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― 新着の感想 ―
エルリカが、短慮というか、目先しか見えてないかというか。 いざとなれば、島に逃げればいい。 いざとなれば。魔法で吹き飛ばせばいい。 ある意味で、間違ってはいないんだけど。 それは、人間の考えじゃなくて…
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