38.普通の日常
「お姉さん、換金お願いします!」
冒険者ギルドのカウンターに取ってきた魔石を並べる。すると、受付のお姉さんがにこりと笑ってくれた。
「今日もたくさん取ってきたわね。偉い、偉い」
そう言って、褒めてくれる。それだけで、今日頑張ったかいがあるということだ。
「リマちゃんは魔石だけ、姉妹の方は薬草と魔石ね。ちょっと、待ってて」
お姉さんは出したものを丁寧に数え始めた。それが終わるまで、私たちはお喋りをしながら時間を潰した。
初心者狩りの一件から二週間が経った。初心者狩りをした冒険者たちは冒険者を剥奪され、町から追い出された。そんな冒険者がいる北ギルドには、冒険者ギルドの本部から業務改善命令が出され、厳しい状況に立たされたみたいだ。
弱い立場の私たちが守られたことには驚いている。こういうのはいつも強い立場の都合のいいようにされてしまうからだ。どんな場所だって強さは逆らえない権力だ。
言うことを聞かないと生きていけない、そういう社会の仕組み。そうだって、ずっと思っていたけれど、そうじゃない時もあるんだって学んだ。
ダメなことはダメだって、言ってもいいんだ。そう、教えられたような気がした。
だったら、これからはダメなことをダメと言える人になろう。そうしたら、きっと生きやすいと思う。もちろん、時と場所を選ばないといけないのはそうなんだけど……。
それだけでも、世界が違うように見えた。生きてもいいんだって、言われているように思えた。
「はい、お待たせ。こっちがリマちゃんね。こっちが姉妹の分」
「ありがとうございました」
私たちは報酬を受け取ると、すぐにカウンターを離れた。すると、先に換金が終わっていた子供冒険者に近づく。
「よぉ、リマたちも終わったか!」
「はい! これから、買い食いするんですか?」
「もちろん。リマたちも一緒に行こうぜ!」
その誘いに私たちは頷いた。そして、みんなで仲良く冒険者ギルドを出ていった。
あれから私たちはさらに仲良くなった。お互いのことをもっと気にかけるようになり、困ったらすぐに手を貸したり、借りたり出来る。
みんな、それぞれ事情があるから、上手くいかない時もある。それでも、出来るだけ協力してダンジョンに潜っていった。
私の事情はみんなに察しられているから、力があることはバレていない。みんなも私の力を当てにせず、自分たちの力でダンジョンに潜っている。
仲は良いけれど、一線は引いている。そんな関係だ。
もっと、踏み込みたい時もある。私がもっと活躍すれば、みんなだって楽になる。そう思ったことは一度や二度じゃない。
でも、それじゃダメだってみんな分かっている。結局、最後は自分の力が頼りだと知っているから。
その考え方は分かる。だけど、ちょっと寂しい。そんな矛盾した気持ちになるけれど、これが私たちの関係が壊れない最善の方法だと分かるから。
だから、今はこのままがいい。みんなに合わせるのが、普通だと思うから。
◇
出来立てのポーションを瓶に詰めて、きつく栓をする。目の前には二十本になるポーションの瓶が並ぶ。
「これで、ポーションが完成だね! もっと、作ればいいのに。そしたら、お金がたくさんもらえるよ」
隣にいるエルリカがそんなことを言ってくる。だけど、私は首を横に振った。
「そんなにたくさん作ったら、可笑しいって思われちゃうでしょ。だから、ほどほどが良いんだよ」
「少しずつ増やしていけば、バレないよ。リマもだんだんと手際よくなっているって思われるだけかも」
「うーん……。でも、どれだけ増やしたら怪しまれないか分からないしな。ここは慎重に見極めないと」
まだまだ、ポーションは作れる。それこそ、薬草を買い取って、ポーションだけを作り続けるっていう手もある。
でも、それをやって過剰に供給して売れ残ったら、損をしてしまう。ようは、バランスが大切だ。
多すぎず、少なすぎず。丁度いい量を定期的に卸すのが一番重要だ。そのためにも自分で採取に行って、素材を買うお金をゼロにして、少しでも利益を上げた方がましだ。
「今が丁度いいんだよ。無理に偏ったら、傾いちゃうかもしれないから」
「まぁ、そうか……。だったら、ここは何か新しいアイテムを作り出して、売り出すとか……」
「そうだね。いずれ、初心者の森を出なくちゃいけないから、その時に新しいアイテムを作り出せたらいいね」
まぁ、それも当分先の話だ。今は定期的に卸す、低級ポーションで十分だ。私はポーションをリュックに入れると、それを背負う。
「そのポーションも空間収納に入れたら、楽なのに……」
「人前では使えないでしょ。いつもは見られないところで使っているんだから、それで十分だよ。さっ、エルリカ、行こう」
ブツブツとエルリカが文句をいうと、思わず苦笑いが出てしまう。そのエルリカを誘って、私は家を出ていった。




