37.信頼出来る仲間
「お姉さん! 犯人捕まえてきたよ!」
そう言って、私たちは冒険者ギルドに駆けこんでいった。犯人たちにはしっかりと縄で拘束し、抵抗できないようにした。
お姉さんはすぐさま、偉い人を呼んできて、犯人たちの尋問を始めた。すると、出てきたのは身勝手な話しだった。
きっかけは姉妹がギルド変更について文句を言い、私が断ったから。
元々、彼らは南ギルドのことを良く思っていなかったらしい。勝手な対抗意識を抱いていたようだ。南ギルドの温和な雰囲気が面白くなく、不満を募らせていたという。
そんな中で優秀な人に出会って仲間にしたい。そんな後輩を助けるつもりで誘ったのだが、自分の誘いを断られたことで感情的になったようだ。
少しくらい懲らしめてやろう。そんな軽い気持ちから始まったのが今回の事件だった。
しかし、彼らは思った以上に簡単な金稼ぎの方法を見つけてしまった。実力が低く、経験も浅い。人脈も少ないため、被害を受けても泣き寝入りする者が多い。
採取した素材や魔石を奪い取る。抵抗されれば脅し、力で従わせる。そうして奪った素材や魔石を換金したところ、予想以上の金額になったらしい。
最初は腹いせのつもりだった行為は、いつしか金儲けへと変わっていった。一人から奪える量は多くなくても、何人もの初心者を狙えばまとまった金になる。
彼らは味を占めた。被害者が増えても罪悪感を抱くことはなく、むしろ効率の良い稼ぎ方を見つけたと考えていたようだ。
そして今後も同じことを続けるつもりだった、と話していた。
だけど、その野望はここで終わる。犯人たちは全員拘束され、冒険者ギルドに突き出された。
ギルド職員たちの表情は厳しく、周囲で話を聞いていた冒険者たちからも軽蔑の視線が向けられていた。
新人を狙った卑劣な犯行。冒険者としての信用は完全に失われていた。
やがて責任者によって今後の調査と冒険者剥奪の処分が告げられ、男たちは連行されていく。もう二度と好き勝手な真似はできないだろう。
◇
「みんな、凄いわね。本当に犯人を捕まえてきて」
お姉さんは私たちを集めてそんなことを言ってきた。
「でも、子供たちのあなたたちがどうして大人の冒険者に勝てたの?」
その言葉にドキリとした。私が力を発揮したから、そう言った方がいいのだろうか? でも、あんまり目立ちたくない……。
そう思っていると――。
「みんなでしかりと協力したからね。だから、大人にも勝てたんだよ」
「そうそう! みんな必死だったからね! 遊び半分の大人には負けないよ!」
「みんなの友情の勝利だ!」
子供冒険者たちのその言葉に驚いた。ここにいるみんなは私が力を使ったことを知っているのに、誰一人としてそのことを話さなかった。
そのことで驚いていると、後ろでメイルスがこっそりと耳打ちしてくれる。
「ルイの事は内緒にしてあるんだよ。だって、ルイ……自分の力の事を知られるのが嫌だったんでしょ?」
まさに図星を付かれて驚いた。みんな、私のために口をつぐんでくれていたの? 驚いてみんなを見てみると、笑いかけてくれる。
その気遣いにこれ以上にないってくらいに安心した。みんな、私の事情を察してくれて、何も言わないでくれている。それがどれだけ助かっていることか。
「ふふっ、そう言うことにしておきましょう。また、何かあったら教えてね」
そういって、私たちはお姉さんと別れた。そして、みんなから肩を叩かれる。
「これで良かったか?」
「うん、ありがとう。でも、どうして庇ってくれたの?」
「そりゃあ、仲間だからね。それぞれに事情があるっていうのは知っているし、それを守りたいっていう気持ちもあるから」
「みんなで支え合っているから、生きていけるからな。だから、それが当たり前なんだよ」
その言葉に心がジンとした。仲間になるってことはいうこうことなんだ、とその心強さを感じた。
「みんな、ありがとう」
「こっちこそだよ! これからもよろしくな、リマ!」
「また一緒にダンジョンに潜ろうね!」
「みんなが居れば怖くないから!」
笑いかけてくれるみんながとても心強い。きっと、みんながいればこれからもやっていけそうだ。
◇
「リマ、箱庭に帰ってきてから、ずっと嬉しそうだったね」
夜。いつものようにベッドへ潜り込むと、エルリカが隣に座った。
「うん……」
私は毛布を胸元まで引き上げながら、小さく頷く。
「仲間が出来たんだなって思ったら、嬉しくて……。こんなこと、スラムではなかったから」
今日の出来事を思い返す。みんなが自然に協力してくれたこと。私のために動いてくれたこと。誰かを助けるのが当たり前みたいに手を差し伸べてくれたこと。
それは私にとって、とても新鮮なものだった。スラムでは、自分のことで精一杯だった。
誰かを助ける余裕なんてない。助け合いよりも、生き残ることが優先される世界だった。
だからこそ、今の環境が眩しく見える。ただ一緒に行動するだけじゃない。相手を気遣い、支え合い、困った時には力を貸す。
そんな関係が、本当に存在するのだと知った。
「だから、私もみんなみたいになりたい」
自然とそんな言葉が口から零れる。
「誰かを思いやって、支え合える人になりたい」
エルリカは優しく微笑んだ。
「リマならなれるよ。だって、それを願える時点で、もうその一歩を踏み出しているんだから」
その言葉に胸が少し温かくなる。
「私に出来るかな……」
不安がないわけじゃない。今までそんな生き方をしてこなかった。人との距離感も、まだよく分からない。
だけど――。
「ううん。やってみる」
私は首を横に振った。
「せっかく普通の生活が見えてきたんだから。ここで諦めたくない」
物乞いとして生きていた頃の私。毎日を生き延びるだけで精一杯だった私。そんな自分から少しずつ変わっている。
冒険者になった。仲間も出来た。そして今、普通に生きるという夢が、手の届かない場所ではなくなっていた。
まだ道の途中だ。失敗することもあるだろう。迷うこともあるだろう。それでも、一歩ずつ前へ進んでいきたい。
いつか胸を張って、普通に生きていると言えるように。そんな未来を思い描きながら、私は静かに目を閉じた。
温かな布団の感触に包まれながら、穏やかな眠りへと落ちていく。
明日もまた、新しい一日が始まる。その日が少しだけ楽しみに思えた。




