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スラムの孤児は慎ましく生きたい~大賢者の遺産を継いだけど、救世主にはなりません~  作者: 鳥助
第四章

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32.交流の日々

「よぉ、リマ! もう帰ってきたのか?」


 換金を済ませてカウンターを離れると、今帰ってきた顔見知りの子供冒険者たちに出会った。


「はい。順調に行っていたので、早く帰ってこれたんです」


「へー、凄いな! でも、一人のようだけど? あの姉妹は?」


「今日は用事があるとかで、一緒にはいけませんでした」


「まー、俺たちは専門の冒険者じゃないしな。毎日は来れないだろう」


 姉妹には姉妹の生活がある。だから、一緒にダンジョンへ行く日は、お互いに予定が被った時だ。でも、それも中々合わない時がある。


「リマは明日も行くのか?」


「はい。思ったよりも薬草が取れなかったので、明日も行ってから、調合をしようかなって思って」


「だったら、明日は俺たちと一緒にダンジョンへ潜らないか?」


 突然の誘いに緊張した。姉妹以外の人とダンジョンに行くのは初めてだ。だから、いつも通りにはいかないだろう。


 だけど、誰かと一緒にダンジョンに潜る良さを知ってしまった私には、とても魅力的な誘いだった。


「はい。一緒に潜ってもいいですか?」


「じゃあ、明日はダンジョンの建物に集合な!」


「それから一緒に潜ろう!」


 約束をすると、ドキドキする。守れるかどうか不安になるのと、誰かと一緒だということが確定しているから。


 こんなことスラムではなかったから、普通に出来ていると感じるから嬉しい。


 明日は絶対に遅れないようにしないと。


 ◇


 翌日、建物で待ち合わせをした、私と子供冒険者は初心者の森へと入って行った。私はみんなのために、すぐに探索魔法を使う。


「あっちとあっちに魔物がいるみたいです」


「えっ!? そんなことが分かるのか!?」


「リマの魔法ってすげーな!」


「それが分かったら、探す手間も省けるな!」


 探索魔法に子供冒険者は驚き、喜んだ。その様子に役に立ったと思って、充実した気持ちになった。


 一人でダンジョンに潜っていたら、知らなかった気持ちだ。この気持ちのためなら、もっと役に立ちたいと思えるようになった。


 魔物を探し、襲い、倒す。みんなで協力して成し遂げると、達成感で心がいっぱいになった。一人でいる時よりも、ずっと強い気持ちだ。


「リマの探索魔法のお陰で助かったよ。魔物に突然襲われることもなくなったし、こっちから奇襲をかけられるようになったし」


「私も、誰かがいてくれるから自分の魔法に集中できます。そうすると、いい結果になるんです」


「だったら、俺たちがリマを守るから! リマは自分の事をしてくれ!」


 そう言われて、胸の奥がじんわりと温かくなった。


 守る。今までの私の人生で、ほとんど縁のなかった言葉だ。


 スラムでは、自分のことは自分で守るのが当たり前だった。誰かを頼れば、その分だけ裏切られる可能性が増える。食べ物だって寝床だって、自分で確保しなければならない。


 だから私は、いつも一人だった。一人で考え、一人で行動し、一人で生き残ってきた。


 けれど――。


「ありがとうございます」


 自然とそんな言葉が口から出ていた。みんなは少し照れたように笑う。


「おう!」


「任せろ!」


「俺たちも役に立つからな!」


 その笑顔を見ていると、不思議と安心できた。


 一人だったら、探索も戦闘も採取も全部自分でやらなければならない。だから、どうしても出来ることには限界がある。


 でも、今は違う。私が探索する、みんなが戦う。誰かが周囲を警戒する。それぞれが自分の役割を理解して動く。


 すると、一人では出せない結果が生まれる。まるで歯車が噛み合うみたいに。自分だけでは届かなかった場所へ届くことが出来る。


 そんな当たり前のことを、私は今まで知らなかった。しばらく進むと、薬草が群生している場所も見つかった。


「あっ、薬草です」


「本当だ!」


「結構あるじゃないか!」


 私は急いで採取を始める。すると、一人の男の子が周囲を見回した。


「だったら、リマが探索魔法で周囲の警戒をしてくれ。その間に、俺たちがリマの分まで採取するから」


「い、いいんですか?」


「魔物が来たら危ないだろ?」


「そうそう。リマは探索魔法に集中してくれ」


 私は少し驚いた。今まで薬草を採る時は、周囲を警戒しながら急いで採取していたからだ。


 けれど今は違う。一人が周囲を警戒して、他の人が採取に専念。


 こんなことも、一人では出来なかった。気が付けば、いつもより多くの薬草を集めることが出来ていた。


「凄い量だな」


「これならポーションもいっぱい作れるな!」


「はい」


 思わず笑みがこぼれる。誰かがいるだけで、こんなにも違うんだ。


 その後も探索は順調に進み、気付けば帰る時間になっていた。ダンジョンの出口へ向かいながら、私はみんなの後ろ姿を眺める。


 以前の私なら、きっと考えもしなかっただろう。


 誰かと一緒に笑いながら歩くことを。誰かの役に立ちたいと思うことを。誰かに役立ってもらうことを。


 自分の力は、自分が生きるためだけに使うものだと思っていた。


 でも違った。誰かのために力を使う。その誰かもまた、自分のために力を使ってくれる。


 そうして支え合うことで、一人では見られなかった景色が見える。その積み重ねが信頼になり、絆になっていくのだろう。


 スラムで生きていた頃には知らなかったもの。誰かと協力する喜び。そして、人と人との繋がりの尊さだった。


 私はみんなの背中を見ながら、小さく笑う。


 また、一緒に潜れたらいいな。そんな願いが、自然と胸に浮かんでいた。

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