28.繋がり
冒険者ギルドで会う日。私は緊張した面持ちで、通りを歩いていた。
「リマ、大丈夫? 体がカチコチになってるよ?」
「ちょっと、緊張しちゃって……」
「どうして、そうなっちゃったの?」
「どう話せばいいのか分からなくて。何か、失礼な事をしたら、避けられるんじゃないかと思って……」
「もう、リマは考えすぎ。素直な気持ちが一番だよ」
エルリカはそう言ってくれるが、すぐに考えは改まらない。スラムでの子供たちは言わばライバルのようで、お互いに出し抜きつつ生きてきた。
だから、同世代の子供たちと対等に話すのはあの姉妹が初めてだったのだ。それが、一気に数が増えるとなると……緊張してお腹が痛くなってきた。
「ほら、冒険者ギルドに着いたよ」
「う、うん……」
「私が代わりに喋ろうか?」
「そ、それはいい!」
流石にエルリカには頼れない。大きな声で断ると、深呼吸をして冒険者ギルドに入った。
ホールを見渡していると――。
「リマー!」
名前を呼ばれて振り向いた。すると、ホールの端に子供の集団がいるのが見えた。す、凄い……十人近くいる……。
それを見ると余計に緊張してしまうが、意を決して近づいていった。
「お、お待たせしました……」
「はい、みんな注目! この子が噂の子供一人冒険者のリマだよ!」
な、何!? その紹介!?
驚いていると、周りにいた子供たちは特に反応することはなかった。それどころか、納得しているように見えた。
「よくやったぞ、姉妹冒険者! 俺、前から気になってたんだ」
「おぉ……本当にパーティーに興味あるの? 姉妹が無理やりしなかった?」
「なぁ、なんで一人で冒険者やってるんだ!? 一人でも大丈夫なのか!?」
すると、急に話しかけて体がすくんだ。みんな、目をキラキラさせて話しかけてくるから、なんて返したらいいか迷ってしまう。
「こらこら。リマが驚いているでしょ。あんまり、がっつかないでね、逃げちゃうから」
「わりぃ、わりぃ。お前たちが一人きりの子供冒険者を連れてくるって言ってたから、興味があって」
「そうそう。だって、一人で行ってるんだぜ? 自信がないと無理だろ」
ど、どうやら……私は目立ってしまっていたようだ。でも、力が凄いってことはバレてない?
「すんげー力があるんじゃないのかって思ってた!」
「そうそう! 時々いるよね、そういう子!」
「なぁ、どんだけ強いんだ!?」
あー、ダメだ! やっぱり、そう思われていたんだ! このままだと、利用されちゃう?
ハラハラしていると、メイルスが間に入った。
「詮索はしちゃ駄目だって言っているじゃない。この子だって事情があるんだから。私たちにだって、それぞれ事情があるでしょ?」
「あはは、そうだったな。じゃあ、改めて……同じ南ギルドの冒険者として顔合わせ出来て嬉しいよ」
「顔を合わせたから、もう友達だよな! 困ったことがあったら、何でも相談してくれ!」
「えっ……」
なんか、凄くあっさりしている……。もっと、試練とかあると思っていたけれど、そういうのもない?
「えっと……私って受け入れられました?」
「もう、この場にいる時点で、みんなは受け入れているよ」
「そ、そんなあっさりと!?」
「だって、会いたいってことは、協力できるって言っているようなものじゃないか」
……こ、これが普通? いや、スラムが特殊だったわけ? こんなにすぐに受け入れられるとは思わなかった。
呆然としていると、メイルスが仕切ってくれる。
「まぁ、みんなにはそれぞれの事情があるけど、仲間は大歓迎なんだよ。だって、子供の力って弱いから、誰かと協力しなくちゃ生きていけない」
「誰かを頼っているけれど、その人も頼ってくれている。そんな関係を築いているんだ」
「その方が、少しは生きやすいだろう?」
考えもしなかった。生きるために誰かを頼りにするなんて。誰も頼れないから、誰も信用できないから一人で生きてきた。
だけど、こういう生き方があるだなんて知らなかった。もし、それに気づいていれば、私は物乞いをしなくても済んだのだろうか?
……いや、考えるのはよそう。昔の自分があったからこそ、今の自分がいるのだから。
だったら、一歩を踏み出さなかったら進まない。顔をしっかり上げると、みんなを見渡した。
「あの……一人で活動するのは心細いので、時々でいいので、私をパーティーに加えてくれませんか?」
誰かを頼るってことはまだ慣れない。だけど、これが出来なかったら、普通ではいられない。
誰かを信じるってことを覚えなくちゃ、私はいつまでも一人のままだ。
「もちろん、いつでもいいよ」
「入りたい時になったら、いつでも入ればいいよ」
「毎日でも歓迎するぜ!」
こんな私でも受け入れてくれる子供たちがいる。それだけで、心が温かくなって嬉しい気持ちになる。
「ようこそ、南ギルドへ!」
一人だった生活に少しずつ人が増えていく。それだけで、私は普通の人生を歩んでいるように思えた。




