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スラムの孤児は慎ましく生きたい~大賢者の遺産を継いだけど、救世主にはなりません~  作者: 鳥助
第三章

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24/30

24.しつこい勧誘

「ねぇ、断ってよかったの? せっかく、一緒に行動できるかもしれなかったのに」


 森を出ると、心配そうな声でエルリカが話しかけてきた。私は少しだけ考えてから、小さく頷く。


「……うん。ああいう人たちとは、あまり関わらない方がいいと思う」


「そうなの?」


「うん」


 視線を落としながら答える。


「あの人たちは私を見ていなかったから」


「リマを見ていなかった?」


「見ていたのは私じゃなくて、私の力」


 今日の出来事を思い返す。助けた直後から話題になったのは、私自身のことではなかった。


 どんな人間なのか。何が好きなのか。どうして一人で冒険者をしているのか。そんなことには興味を示さなかった。


 聞いてきたのは魔法のことばかりだった。どれくらい強いのか。どこまで戦えるのか。


「力を見て近づいてくる人はね、その力がなくなったら離れていくんだよ」


 スラムで何度も見てきた光景だった。腕力のある人。お金を持っている人。権力のある人。


 そういう人の周りにはいつも人が集まる。でも、それは本人を慕っているわけじゃない。その人が持っているものが欲しいだけ。


「利用できるうちは優しい。でも、利用できなくなったら簡単に捨てる」


 そういう人たちを私はたくさん見てきた、だから分かる。あの少年たちが絶対にそうだとは言わない。だけど、同じ匂いを感じた。


「私は、そういう人は信用できない」


 ぽつりと呟く。エルリカは何も言わずに聞いてくれていた。


「もちろん、力を評価してもらえるのは嬉しいよ」


 冒険者なのだから、実力を認められるのは悪いことじゃない。誰だって褒められれば嬉しい。私だってそうだ。


 だけど――。


「私が欲しいのは、力だけを見てくれる人じゃない。強くなくても。お金を持ってなくても。役に立たなくなっても」


 そんな私を見てくれる人、そんな私と一緒にいてくれる人。


「そういう人と繋がりたい」


 世の中はそんなに甘くない。みんな生きるのに必死だ。損得で動くことだってある。それは仕方のないことだと思う。


 だけど、それでも。それでも私は信じたい。力やお金じゃなくて、人を見てくれる人がいることを。そんな人と出会いたいと思う。


 エルリカはしばらく黙っていたが、やがてふわりと微笑んだ。


「……そっか。望んでいる限り、絶対で会えるよ。だから、諦めずに行こう」


「うん」


 エルリカの前向きな言葉が私の心を後押しする。大丈夫、今度は良い人に出会えるはず。


 ◇


 翌日。私はいつものようにダンジョンに続く建物へ足を踏み入れた。いつも通り薬草採取をしよう、そう思っていたのだが――。


「いたっ!」


 聞き覚えのある声に肩が跳ねる。振り向くと、昨日の少年たちがこちらを見ていた。


「あっ……」


 嫌な予感がした。そして、その予感は外れない。少年たちは嬉しそうな顔で駆け寄ってきた。


「昨日の話なんだけどさ!」


「もう一回考えてくれないか?」


「俺たち、本気なんだ!」


 開口一番、それだった。私は内心でため息をつく。


「ごめんなさい。昨日も言ったけど、入るつもりはないです」


「そんなこと言わないでさ!」


「一人より絶対いいって!」


「俺たちだって真面目にやってるんだぞ!」


 昨日よりも距離が近い。そして、熱量も増している。ちょっと強引なところがあって、少し怖くなって私は一歩下がった。


「今日はやることがあるので」


 それだけ言って足早にダンジョンに入ろうとする。だが――。


「待って待って!」


「話だけでも!」


「歩きながらでいいから!」


 ……付いてきた。まさか追いかけてくるとは思わなかった。それでも無視して逃げるようにダンジョンへ向かう。


 しかし少年たちは諦めない。


「俺たちと組めばもっと稼げるぞ!」


「その実力なら絶対活躍できる!」


「もったいないって!」


 後ろから次々と言葉が飛んでくる。周囲の冒険者たちも何事かとこちらを見ていた。恥ずかしい。そして何より疲れる。


 断っているのに全然聞いてくれない。ようやくダンジョンに入った時には、すでにぐったりしていた。それでも少年たちは付いてくる。


「なあ!」


「少し考えてみてくれよ!」


「絶対後悔しないから!」


 しつこい。本当にしつこい。断っているのに。嫌だと言っているのに。どうして分かってくれないんだろう。


 私の意思なんてどうでもいいのだろうか。自分たちが欲しいものを手に入れる方が大事なのだろうか。


「…………」


 足を止めると、少年たちが期待したような顔をした。けれど、私は言葉で伝える前に魔力を練り上げる。


「え?」


 次の瞬間。


 ボフッ!


 大量の煙が周囲へ広がった。


「うわっ!?」


「な、なんだ!?」


「前が見えねぇ!」


 視界を覆う白煙を蔓延させた。その隙に私は走り出した。探索魔法で位置を把握している私には問題ない。


 煙の中を抜け、森の中に入り、木の陰に隠れる。十分に距離を取ったところでようやく立ち止まった。


「はぁ……」


 思わず息を吐く。ようやく静かになった。胸の中に溜まっていた重苦しさも少し軽くなる。


「本当に困ったな……」


 悪い人たちではないと思う。でも、だからこそ厄介だった。


 私の話を聞いてくれない。私の気持ちを考えてくれない。ただ自分たちの望みだけを押し付けてくる。それは私にとって十分に辛いことだった。


 その後は気持ちを切り替え、いつものように薬草を探した。薬草を採取し、魔物を倒し、素材を集める。慣れた作業をしているうちに、嫌な気持ちも少しずつ薄れていった。


 その二日後、私は少し警戒しながらダンジョンへ続く建物へ入った。もしかしたら、またいるかもしれない。そんな予感がしていたからだ。


 そして。


「あっ! いたぞ!」


 聞こえてきた声に、私は思わず顔をしかめた。やっぱりいた、あの時の少年たちだ。


「……え?」


 私は足を止める。少年たちの後ろには、一人の青年が立っていた。二十代前半くらいだろうか。腰には立派な剣、身に着けている装備も少年たちよりずっと上質だ。


 一目見ただけで分かる。私たちより経験豊富な冒険者だ。


「この人が話を聞いてくれるって!」


「きっと誤解が解けるぞ!」


「今日はちゃんと話そう!」


 少年たちはどこか得意げだった。私は思わず眉をひそめる。


 まさか。断られたから、今度は別の人を連れてきたの?


 胸の奥に、じわりと嫌な予感が広がっていった。

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