24.しつこい勧誘
「ねぇ、断ってよかったの? せっかく、一緒に行動できるかもしれなかったのに」
森を出ると、心配そうな声でエルリカが話しかけてきた。私は少しだけ考えてから、小さく頷く。
「……うん。ああいう人たちとは、あまり関わらない方がいいと思う」
「そうなの?」
「うん」
視線を落としながら答える。
「あの人たちは私を見ていなかったから」
「リマを見ていなかった?」
「見ていたのは私じゃなくて、私の力」
今日の出来事を思い返す。助けた直後から話題になったのは、私自身のことではなかった。
どんな人間なのか。何が好きなのか。どうして一人で冒険者をしているのか。そんなことには興味を示さなかった。
聞いてきたのは魔法のことばかりだった。どれくらい強いのか。どこまで戦えるのか。
「力を見て近づいてくる人はね、その力がなくなったら離れていくんだよ」
スラムで何度も見てきた光景だった。腕力のある人。お金を持っている人。権力のある人。
そういう人の周りにはいつも人が集まる。でも、それは本人を慕っているわけじゃない。その人が持っているものが欲しいだけ。
「利用できるうちは優しい。でも、利用できなくなったら簡単に捨てる」
そういう人たちを私はたくさん見てきた、だから分かる。あの少年たちが絶対にそうだとは言わない。だけど、同じ匂いを感じた。
「私は、そういう人は信用できない」
ぽつりと呟く。エルリカは何も言わずに聞いてくれていた。
「もちろん、力を評価してもらえるのは嬉しいよ」
冒険者なのだから、実力を認められるのは悪いことじゃない。誰だって褒められれば嬉しい。私だってそうだ。
だけど――。
「私が欲しいのは、力だけを見てくれる人じゃない。強くなくても。お金を持ってなくても。役に立たなくなっても」
そんな私を見てくれる人、そんな私と一緒にいてくれる人。
「そういう人と繋がりたい」
世の中はそんなに甘くない。みんな生きるのに必死だ。損得で動くことだってある。それは仕方のないことだと思う。
だけど、それでも。それでも私は信じたい。力やお金じゃなくて、人を見てくれる人がいることを。そんな人と出会いたいと思う。
エルリカはしばらく黙っていたが、やがてふわりと微笑んだ。
「……そっか。望んでいる限り、絶対で会えるよ。だから、諦めずに行こう」
「うん」
エルリカの前向きな言葉が私の心を後押しする。大丈夫、今度は良い人に出会えるはず。
◇
翌日。私はいつものようにダンジョンに続く建物へ足を踏み入れた。いつも通り薬草採取をしよう、そう思っていたのだが――。
「いたっ!」
聞き覚えのある声に肩が跳ねる。振り向くと、昨日の少年たちがこちらを見ていた。
「あっ……」
嫌な予感がした。そして、その予感は外れない。少年たちは嬉しそうな顔で駆け寄ってきた。
「昨日の話なんだけどさ!」
「もう一回考えてくれないか?」
「俺たち、本気なんだ!」
開口一番、それだった。私は内心でため息をつく。
「ごめんなさい。昨日も言ったけど、入るつもりはないです」
「そんなこと言わないでさ!」
「一人より絶対いいって!」
「俺たちだって真面目にやってるんだぞ!」
昨日よりも距離が近い。そして、熱量も増している。ちょっと強引なところがあって、少し怖くなって私は一歩下がった。
「今日はやることがあるので」
それだけ言って足早にダンジョンに入ろうとする。だが――。
「待って待って!」
「話だけでも!」
「歩きながらでいいから!」
……付いてきた。まさか追いかけてくるとは思わなかった。それでも無視して逃げるようにダンジョンへ向かう。
しかし少年たちは諦めない。
「俺たちと組めばもっと稼げるぞ!」
「その実力なら絶対活躍できる!」
「もったいないって!」
後ろから次々と言葉が飛んでくる。周囲の冒険者たちも何事かとこちらを見ていた。恥ずかしい。そして何より疲れる。
断っているのに全然聞いてくれない。ようやくダンジョンに入った時には、すでにぐったりしていた。それでも少年たちは付いてくる。
「なあ!」
「少し考えてみてくれよ!」
「絶対後悔しないから!」
しつこい。本当にしつこい。断っているのに。嫌だと言っているのに。どうして分かってくれないんだろう。
私の意思なんてどうでもいいのだろうか。自分たちが欲しいものを手に入れる方が大事なのだろうか。
「…………」
足を止めると、少年たちが期待したような顔をした。けれど、私は言葉で伝える前に魔力を練り上げる。
「え?」
次の瞬間。
ボフッ!
大量の煙が周囲へ広がった。
「うわっ!?」
「な、なんだ!?」
「前が見えねぇ!」
視界を覆う白煙を蔓延させた。その隙に私は走り出した。探索魔法で位置を把握している私には問題ない。
煙の中を抜け、森の中に入り、木の陰に隠れる。十分に距離を取ったところでようやく立ち止まった。
「はぁ……」
思わず息を吐く。ようやく静かになった。胸の中に溜まっていた重苦しさも少し軽くなる。
「本当に困ったな……」
悪い人たちではないと思う。でも、だからこそ厄介だった。
私の話を聞いてくれない。私の気持ちを考えてくれない。ただ自分たちの望みだけを押し付けてくる。それは私にとって十分に辛いことだった。
その後は気持ちを切り替え、いつものように薬草を探した。薬草を採取し、魔物を倒し、素材を集める。慣れた作業をしているうちに、嫌な気持ちも少しずつ薄れていった。
その二日後、私は少し警戒しながらダンジョンへ続く建物へ入った。もしかしたら、またいるかもしれない。そんな予感がしていたからだ。
そして。
「あっ! いたぞ!」
聞こえてきた声に、私は思わず顔をしかめた。やっぱりいた、あの時の少年たちだ。
「……え?」
私は足を止める。少年たちの後ろには、一人の青年が立っていた。二十代前半くらいだろうか。腰には立派な剣、身に着けている装備も少年たちよりずっと上質だ。
一目見ただけで分かる。私たちより経験豊富な冒険者だ。
「この人が話を聞いてくれるって!」
「きっと誤解が解けるぞ!」
「今日はちゃんと話そう!」
少年たちはどこか得意げだった。私は思わず眉をひそめる。
まさか。断られたから、今度は別の人を連れてきたの?
胸の奥に、じわりと嫌な予感が広がっていった。




