23.救出したけど……
探索魔法で位置を確認しながら森を駆ける。木々の隙間を抜けた先に、人影と魔物の群れが見えた。
「うわぁぁっ! 来るなっ!」
「くそっ……こんなことになるなんて!」
「ど、どうする!? 囲まれたぞ!」
悲鳴に近い叫び声が響く。魔物たちは今にも飛びかかろうとしていた。間に合わなければ誰かが死ぬ。
「――っ!」
私は走りながら魔力を練り上げる。指先に集まった熱が一気に解放され、一本の火線となって空気を裂いた。
直後――ドォォンッ!!
先頭の魔物に着弾した火球が激しく炸裂する。爆風が土を巻き上げ、衝撃で魔物の身体が吹き飛んだ。
だが、それで終わらない。次々と標的を捉え、魔法を連射する。
ドンッ!
ドォンッ!!
ドガァァンッ!!
立て続けに爆発が起こり、魔物たちが悲鳴を上げる暇もなく吹き飛ばされていく。土煙が舞い、木々が揺れ、衝撃音が森中に響き渡った。
ほんの数秒。それだけで魔物の群れは壊滅した。
さっきまで必死に抵抗していた冒険者たちは武器を構えたまま固まり、呆然とその光景を見つめている。目の前には、爆発によって倒れ伏した魔物たちだけが残されていた。
そこへようやく、私が到着した。
「あの、大丈夫でしたか?」
すぐに声をかけると、冒険者たちはこちらを向く。そして、力なくその場に座り込んだ。
「た、助かった……」
「もう駄目かと思った……」
「生きてる……」
緊張が解けて、気が緩んでしまったらしい。それぞれは安心した顔をして呆けていた。
そのパーティーは私よりも年上の少年たちで、冒険者ギルドでは見たことのない顔だった。きっと、他のギルドに登録している子たちのだろう。
そんなことを思っていると、少年たちが立ち上がり、こちらに近づいてきた。
「お陰で助かったよ、ありがとう」
「それにしても、凄い魔法だったな。初心者の森にいる冒険者とは思えない」
「他のパーティーメンバーはどうしたんだ?」
「……どういたしまして。えっと、私一人だから……」
「えっ、一人なの!? あんなに強い魔法を使えて!?」
遠慮気味に答えると、少年たちは驚いた様子だった。
「でも、あれだけの魔法が使えるんなら、一人で行動するのも頷ける」
「あれくらいの強さなら初心者の森よりも上の所にいけるんじゃないか?」
「うんうん、それくらいの実力はあったと思う」
助かったことよりも、私の力の方を気にし始めた。ちょっと、力の制御が甘かったせいで、いつもよりは強く出てしまったかもしれない。
……しまった、目立ってしまった? でも、力を使った後だから、嘘を言えない。でも、興味は持ってもらえたからいいのかな?
すると、少年たちは顔を見合わせたあと、一斉に笑顔を浮かべた。
「いや、本当に凄かったよ!」
「あんな魔法、初めて見たぞ」
「正直、上級冒険者かと思ったくらいだ」
次々と褒め言葉を投げかけられる。凄い。強い。才能がある。
そんな言葉を向けられることは滅多にない。だから最初は、素直に嬉しかった。
「そ、そうかな……」
照れながら答える。けれど、話を聞いているうちに、胸の奥に小さな違和感が生まれた。
なんだろう。上手く説明出来ないけれど、どこかおかしい。
「君みたいな子が初心者の森にいるなんて信じられないよ」
「そうそう。俺たちなんて束になっても敵わない」
「いや、本当に凄い。絶対に将来は有名な冒険者になるって」
褒める言葉は止まらない。だけど、その言葉は私自身に向けられているようでいて、どこか違った。
私を見ているようで、見ていない。そんな感覚。彼らの視線が向いているのは、私ではなく――私の力。
そのことに気づいた瞬間、背筋が冷たくなった。この感覚を私は知っている、スラムで何度も見た目だ。
強い人に取り入ろうとする人。利用価値のある相手に媚びる人。そして、利用出来なくなったら離れていく人。
目の前の少年たちが全員そうだとは言わない。でも、その気配を私は感じ取ってしまった。
自然と一歩後ろへ下がる。すると、少年たちは気づかないふりをするように、さらに一歩近づいてきた。
「そうだ」
中心にいた少年が明るい声を上げる。
「俺たちのパーティーに入らないか?」
「えっ……?」
「その実力なら大歓迎だよ」
「むしろ入ってくれたら助かる」
「みんなで組めばもっと稼げるし、安全だぞ」
次々と言葉を重ねてくる。普通なら嬉しい誘いだった。一人でいる私にとって、本来なら飛び上がるほど喜ぶべき話なのかもしれない。
だけど、胸は少しも弾まなかった。彼らの言葉の端々から感じる。仲間が欲しいのではない、私の力が欲しいのだ。
魔物を倒せる力。稼げる力。危険を押し付けられる力。それらが欲しいだけ。
だからこそ、助けてもらった直後から力の話ばかりしていたのだろう。私は小さく首を振った。
「ごめんなさい」
「え?」
「パーティーに入るつもりはないです」
少年たちの笑顔が少し固まる。
「いやいや、そんな遠慮しなくていいって」
「俺たちも悪い話をしてるわけじゃないぞ?」
「一人より絶対に楽になるって」
食い下がってくる。けれど、私はもう決めていた。
「ごめんなさい」
今度ははっきりと言うと、少年たちの表情がわずかに曇った。その変化を見て、私は確信する。
もし本当に私自身を仲間として迎えたいのなら、ここまで露骨に残念そうな顔はしない。期待していたものを失った、そんな顔だった。
胸の奥が少しだけ痛んだ。仲間になろうと誘われたことは嬉しかった。だけど、仲間として見られていたわけじゃない。
それが分かってしまったから。私は軽く頭を下げる。
「それじゃあ、私はこれで失礼します」
そう言って踵を返した。背後から何か言いたそうな声が聞こえたけれど、振り返らない。
スラムで学んだことがある。本当に信頼出来る人は、こちらを急かさない。無理に引き留めたりもしない。相手の意思を尊重してくれる。
だから私は、自分の直感を信じて歩き出した。まだ少し寂しかったけれど、不思議と後悔はなかった。




