19.評判
それから私は、ミレナお姉さんのお店《銀奏の屋根》へ定期的にポーションを納品するようになった。
納品へ行くたびに、「もう売り切れたわよ」と言われる。最初は信じられなかったけれど、何度も聞くうちに、本当に私のポーションが売れているんだと実感出来るようになってきた。
私の作った物を待ってくれている人がいる。認めてもらえている。そう思えるだけで、自然と力が湧いてきた。
このまま安定して納品を続ければ、いずれは通常価格で取引してくれる。そう聞かされていた私は、以前にも増して薬草採取と調合に打ち込むようになった。
少しでも良い品質を。少しでも期待に応えられるように。
そんな日々が、一週間ほど過ぎた頃だった。私はいつものように、ポーションを詰めたリュックを背負い、銀奏の屋根へ向かって歩いていた。
いつもは何気なく進んでいた道だけど、こんな話し声が聞こえてきた。
「いやー、まだ納入されていなかったな。あのポーション。思わず、予約しちまった」
「銀奏の屋根も良い錬金術師を雇えたんだな。あのポーションのお陰で、怪我の予後がいいんだわ」
「だよなー。飲み口も良いし、怪我の治りも早いし、回復量も他のと比べれば高いし。低級ポーションでこれだけの効果があると、言うことないわ」
「あれを知ったら、他の使えないよなー」
ミレナお姉さんのお店の事だ。そんなに良いポーションがあったなんて知らなかった。
「ねぇねぇ、リマ。今の話のポーションってリマのポーションの事じゃない?」
「えっ、私の? いや、まさかそんな……」
「私がお店のポーションを鑑定した中で、リマのポーションが一番品質高かったし。絶対にリマのポーションの事だよ」
エルリカはそういうけれど、私はそうは思わなかった。きっと、他に良い錬金術師が作ったポーションを売っているのだろう。そんな風に軽く考えていた。
そうしていると、銀奏の屋根の前にたどり着いた。中からはたくさんの冒険者が出てきて、いつもとはちょっと様子が違う。
落ち着くのを待って、私は店の中へと入って行った。店の中はもうお客さんはおらず、納品しやすい時間になっていた。
「こんにちは、ミレナお姉さん」
「あっ、リマちゃん! リマちゃんのポーションを使ったっていう冒険者から聞いたんだけど、凄い効果だっていうじゃない!」
挨拶をすると、まくし立てるようにミレナお姉さんが話し出した。
「冒険者たちが大騒ぎしているのよ。『あのポーションは本当に低級ポーションなのか』って」
「えっ?」
突然そんなことを言われて、私は目を瞬かせた。ミレナお姉さんは興奮した様子のまま話を続ける。
「低級ポーションにしては回復量が多いし、怪我の予後も良い、治りも早いって評判なの。そこら辺で売っている低級ポーションとは全然違うらしいわ」
「そ、そうなんですか……?」
正直、あまり実感が湧かなかった。
だって、私は比較したことがない。私にとってポーション作りはこれが普通だったから。だから、自分のポーションがそんなに特別だなんて思えなかった。
「特に前衛の冒険者から人気ね。『回復量が高いから安心感が違う』とか、『傷の塞がりが早くて次の日が楽だ』とか、そんな話ばっかりよ」
ミレナお姉さんは嬉しそうに笑う。
「一度使った冒険者たちから、『またあのポーションを買いたい』って話がたくさん来ているわ。次の入荷日はいつだって、聞かれるくらいよ」
「……え?」
その言葉を聞いた瞬間、思考が止まった。また買いたいって思ってくれた。
それはつまり、私の作ったポーションが誰かに必要とされたってことだ。
物乞いだった頃の私は、誰かの役に立てるなんて思ったこともなかった。毎日を生き延びることに必死で、必要とされるどころか、邪魔者みたいに扱われることの方が多かった。
だけど今は違う。私が作った物を求めてくれる人がいる。また欲しいって言ってくれる人がいる。
まるで、一人の職人として認めてもらえたみたいで――。
「……っ」
嬉しくて、胸がいっぱいになる。気持ちが追い付かないまま立ち尽くしていると、ミレナお姉さんが笑みを浮かべた。
「リマちゃんのポーションは、今後も定期的に売れる算段が出来たわ」
「えっ?」
「だから、銀奏の屋根と専属契約しない?」
「せ、専属契約……?」
聞き慣れない言葉に、私は戸惑う。
「それって、私の作ったアイテムを買ってくれるってことですか?」
「そういうこと。あれだけのポーションが作れるのなら、他のアイテムだって売れるわ。だから、リマちゃんが作ったアイテムを、ここだけで売って欲しいの」
じわじわと喜びが込み上げてくる。私の作った物を、これからも必要としてくれる。しかも、専属で。
そんなこと、少し前までの私なら想像も出来なかった。
「それとね」
ミレナお姉さんは、にこっと笑った。
「リマちゃんのポーションは今まで一本1600デルで買い取っていたけれど、次からは2200デルで買い取ることにするわ。これで、どう?」
「に、2200デル!?」
思わず大きな声が出た。買い取り価格が一気に上がっている。それだけ、私のポーションを評価してくれたってことだ。
こんな好条件、逃したら二度と来ないかもしれない。
「……それでお願いします!」
勢いよく頭を下げると、ミレナお姉さんは嬉しそうに笑った。
「良かった。じゃあ、これからよろしくね、リマちゃん」
「はい……!」
返事をしながら、胸の奥が熱くなる。物乞いだった私が、今はポーションを作って生きている。しかも、誰かに必要とされながら。
その事実が、夢みたいに嬉しかった。私、普通に生きていけるかもしれない。




