17.交渉
あれからめげずに何軒かの道具屋を訪ねた。ポーションを見る前に追い払われたり、ポーションを見て子供だと舐められて低い買い取り価格を提示されたり。色んな事があった。
中々、良い人に巡り合えなかったけど、私はまだ諦めていない。
「よし、次はここの道具屋だね」
「頑張れ、リマ!」
何十回目のエルリカの応援を聞きながら、私は道具屋に入って行った。ここも普通の道具屋と変わらない。だけど、今まで見た中で一番清潔感のある店内だった。
こんなに綺麗な道具屋なんてあるんだ。そう関心しながら、奥のカウンターに行く。
「いらっしゃい。何か用かしら?」
店頭に座っていたのは、若い女性だった。凄く話しかけやすそうだけど、気を抜いたらダメだ。
「あの、突然すいません。ポーションを作ったので、ここで買い取ってくれませんか?」
「ポーションを? もしかして、あなたが作ったの?」
「……はい」
女性は驚くように問いかけてきて、私は遠慮がちに頷いた。すると、女性は難しい顔をする。やっぱり、そこで引っかかっちゃうよね。不安になりながらも、次の言葉を待った。
「じゃあ、少し見せてもらおうかしら」
「はい、ありがとうございます」
良かった! まずは見てもらうことが出来た!
リュックから一つのポーションを取り出すと、それを目の前に出す。
「こちらです」
「……へー、良い瓶をしているわね。これだけで価値がありそう」
お姉さんが手に取ると、まずは瓶の検分をした。満足そうに笑うと、今度は中身に視線を向ける。
「このポーションは低級ポーションね。……綺麗に仕上がっているわ。品質が高そう。これはかなりの腕だと見たわ」
どうやら、このお姉さんはポーションを見極める目を持っているようだ。とても嬉しそうにポーションを見ていた。
「これ、一本ずつ作ったの?」
「いえ、十五本まとめて作りました」
「まとめて作って、これだけの品質を? ……これは驚いたわ。普通ではこんな品質は出来ないわよ」
ほ、褒められている? どうしよう、素直に喜んだ方がいいのかな。でも、営業トークかもしれないし、気を付けておかないと。
「今日持ってきたポーションを全部出してみて」
その言葉に私はリュックに入っていたポーションを全て出してみた。すると、お姉さんは一本ずつ検分を始めた。
「へー……どれも同じ高品質なのが分かるわ。これを一度で作り出せるなんて、あなたは結構良い腕をしているわね」
「あ、ありがとうございます」
「もしかして、アイテムを売り込むのは初めて?」
「……何度も断られました」
「まぁ、これだけ小さいもの……信用がないから仕方ないわね」
やっぱり、見た目だけで忌避され、あわよくば騙そうとしていた人たちがいた。だけど、この人は違うようだ。
「新人さんのアイテムってなかなか買い取ってもらえないのよ。保障がないからね。まずは師匠のところでアイテムを作成して、その伝手を使って売るっていうことをしないとだめなの。あなたに師匠は?」
「えっと、亡くなりました……」
おじいさんから力を受け継いだ形だけど、ここは少しだけ嘘をつく。そうじゃないと、私の力を説明できないから。まだ、信用していない人に自分の力を正直に話すのは難しい。
「なるほど、だから一人で活動していたのね。本来なら新人さんのアイテムは買わないんだけど、これだけ品質がいいから、きっと冒険者にウケると思うわ。だから、このお店で売ってもいいわよ」
「ほ、本当ですか?」
「ただし、こちらの条件を飲んでくれるっていうだったらね」
じょ、条件? まさか、低価格で売ってくれっていうんじゃないだろうか?
身構えていると、お姉さんが話し出す。
「うちはね、ポーション瓶の回収をしているの。使い終わったポーション瓶を再利用して、少しでも価格を抑えて販売しているわ」
そんな話し初めて聞いた。驚いていると、お姉さんが笑って説明をする。
「ポーション瓶を持ってきた冒険者には瓶の代金を返金する。ポーション瓶を再利用するから、錬金術師は瓶の用意をする作業が減る。瓶代が掛からないからその分、他店と比べて安く売ることが出来る。この仕組みを利用しているわ」
瓶の回収だけでこんなにもメリットがあるなんて驚きだ。どの人にもメリットはあるし、少しでも良い部分があれば他店との差別化にもなる。
「その仕組みを理解してくれた冒険者はウチでポーションを買ってくれるわ。そして、ずっとリピーターになってくれる。これで安定した収入に繋がるのよ」
「良い仕組みですね」
「えぇ。これで、リピーターがたくさんいて儲かっているわ。だから、この仕組みを理解してポーションを売ってくれないかしら、っていう話」
これだと、普通よりは安くポーションを売ることになるだろう。肝心なのは値段だ。
「あの、いくらくらいになりますか?」
「うちでは正規のポーションは3300デルで販売しているよ。瓶を持ってきたら、一瓶300デルを値引きしているわ。錬金術師さんには一瓶1900デルで買い取らせてもらっているわよ」
なるほど、店頭価格の半分とちょっとってところか。あっ、でも……売り続けると瓶代が浮くのか。それだったら、良い値なのかな? 他のところと比べることが出来ないけれど、悪くはないと思う。
「でも、あなたは新人だからね。始めはちょっと安くさせてもらうわ。3000デルで売って、1600デルで買い取りってことね。あっ、最初だから瓶代を含まなきゃね。最初だけ1900デルで買い取って、その後に瓶代を引かせてもらうわ」
だまし取ろうとした所よりも、圧倒的に価格が高い。それだけじゃない。もし、ここで認めてもらえれば、定期的にアイテムを卸すことが出来る。ということは、定期収入になるということだ。
他のところで売り込みをせず、ここで地位を確立させて、定期的に売れた方が安定するんじゃないかな?
「どう? この値段で売ってくれないかしら」
「……はい。その値段で売りたいです」
「ふふっ、ありがとう。じゃあ、これからの商品納入の期間とか含めて色々説明するわね」
そう言って、お姉さんは私に必要なことを教えてくれた。そのお陰で、ポーションを売ることの不安は消え、とても気持ちよく決断出来た。




