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スラムの孤児は慎ましく生きたい~大賢者の遺産を継いだけど、救世主にはなりません~  作者: 鳥助
第二章

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16.見極める

 それから私たちは色んな道具屋に立ち寄った。ポーションを買い取って欲しい。その言葉を言うと、どの店主も良い顔はしなかった。


 どの店も定期的に納品してくれる錬金術師を大切にしているらしく、縁が切れることを恐れて新しい納品を断っているようだ。


「悪いな嬢ちゃん。うちも長年付き合ってる錬金術師がいるんだ」


「今さら仕入れ先は変えられないよ」


「専属契約ってやつでね。簡単には増やせないんだ」


 どのお店でも似たような返事だった。


「うぅ……難しいね」


 店を出た私は、背負ったリュックを持ち直す。ポーションが入っているせいで肩が少し重い。


「少しはポーションを見て欲しいものだね! そしたら、きっと考えも変わるだろうに」


 隣にいるエルリカは怒っているようで、尻尾を逆立ててた。


 だけど、断られているのに、物乞いをしていた時のように心が痛くならない。追い払われたり、汚いものを見る目で見られたりしないだけで、昔とは全然違った。


 ちゃんと話をしてくれる。理由も説明してくれる。それだけで、自分が普通の人として扱われている気がする。だったら、私にもチャンスがあるはず。


 諦めずに次の道具屋に入って行った。


「いらっしゃい。今日は何用で?」


「ポーションを売りたいのですが……」


「ふーん。じゃあ、ちょっと見せてもらおうか」


 ここにきて、ようやくポーションを見てくれる人が出た。私とエルリカは顔を見合わせて驚く。そして、すぐにリュックからポーションを取り出した。


「これなんですが……」


「どれどれ……なっ!?」


 そのポーションを見た店主は驚きの顔になった。だけど、すぐに平静を装うように真顔になる。


「これ、作ったのはお嬢ちゃん?」


「はい、そうです」


「ふ、ふーん……。まぁ、まだ錬金術師の見習いってところだな。品質は低い」


 その店主の話に疑問を持った。そして、店主は続ける。


「まぁ、ウチで買い取ってもいいけれど、値段は安くなるよ。一本500デルってところだなぁ」


 そう言って、棚に並べられたポーションを見てみると、一本3500デルで売られていた。


 これは、私たちを騙そうとしている。


「それ以上はまけらないよ。どうする?」


 その言葉に少し心が揺れた。


 500デルでも、私にとっては大金だ。スラムにいた頃なら、絶対に飛びついていたと思う。


 だけど――私はもう、ただ生き延びるためだけに頭を下げる生活をしたくない。ここで安易に頷けば、きっとずっと足元を見られる。


「では、売らないでおきます」


 私はそう言って、ポーションへ手を伸ばした。


「お、おい待て。まだ話は――」


「返してください」


 しっかりとした声で言うと、店主は嫌そうな顔をしながら瓶を返してきた。


 私はそれをすぐに受け取って、リュックへしまう。すると、店主が急に慌てた様子になった。


「い、いや……まぁ、少しは良い品質かな? 800デルで買い取ろうか?」


 さっきまで品質が低いと言っていたのに。その変わりようを見て、逆に確信した。やっぱり、この人は私たちを騙そうとしていたんだ。


 エルリカもジト目で店主を見ている。


「他を当たります」


 私は頭を下げることもせず、そのまま踵を返した。


「ちょ、ちょっと待て! 相場を知らない子供が――」


 後ろから声が飛んでくる。だけど、私は止まらなかった。急いで店を出て、通りまで出る。


 そして、人通りの中まで来たところで、ようやく息を吐いた。


「はぁ……っ」


「リマ、大丈夫?」


「……うん」


 心臓がドキドキしている。怖くなかったと言えば嘘になる。大人に睨まれるのは、今でも怖い。


 でも――。


「ちゃんと断れた……」


 小さく呟くと、エルリカが目を丸くした。


「えっ?」


「前の私だったら、きっと売っちゃってたと思う」


 安い値段でも、お金が欲しくて。相手の顔色を窺って、逆らえなくて。


 でも、今は違う。おじいさんの知識がある。エルリカがいる。自分の作ったものにも、自信を持ち始めている。


 だから、おかしいって思えた。


「リマ、ちゃんと成長してるねぇ」


「そう、なのかな」


「そうだよ。利用されそうになっても、自分で考えて断れたんだから」


 エルリカは嬉しそうに笑った。その言葉に、胸の奥が少し温かくなる。


 私はまだ子供で、知らないことばかりだ。だけど、何も分からないまま騙されるだけじゃない。ちゃんと考えて、自分で選べるようになってきている。


 それが少し嬉しかった。


「……よし、次のお店に行こう」


「おっ、まだ諦めない?」


「うん。ちゃんとしたお店、きっとあるはずだから」


 私はリュックを背負い直す。悔しさはある。でも、それ以上に、不思議と前向きな気持ちの方が大きかった。


 失敗してもいい。断られてもいい。少しずつ経験して、ちゃんとこの町で生きていけるようになればいいんだ。


 そう思いながら、私は再び迷宮都市の通りを歩き始めた。

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