15.調合、そして売り込み
箱庭の家に帰ってくると、さっそく調合室へと向かった。
「今日の調合はまとめてやるから、昨日のようなビーカーは使わない方がいい。異空間棚にしまってある、中型の釜を使うといいよ」
「へー。色々な道具があるんだね」
言われた通りに壁際にある棚の前に行く。その棚を開けると、異空間に繋がっているような不思議な光の膜が現れた。そこに手を突っ込み、欲しい物を思い浮かべると、物が取り出せた。
他にも中型のコンロが必要らしく、それも取り出してくぼみに釜と一緒にセットした。
「じゃあ、後はケンジの知識を使って、記憶通りに調合すればいいよ」
「初めての大量の調合……。上手くいくかな」
「大丈夫。要領は変わらないから。あとは集中してやるだけだよ」
エルリカの応援に自然と力が入る。一度目に作ったポーションを思い出して、釜に水を入れ、コンロに火をつける。
そうして煮立ってくると、薬草を入れた。
「よし、ここで錬金術」
「リマ、頑張れー!」
立てかけてあった長めの錬金棒を手にすると、釜に入れてかき混ぜる。そして、錬金術を発動させた。
すると、水に薬草の成分が溶けだしていき、色が変わっていく。慎重に、間違いなく、あの時のやり方を思い出しながら調合していく。
そして、錬金術の手ごたえが無くなった。
「ちゃんと出来たかな?」
「……うん、ちゃんと出来ているよ。そうだ、リマも鑑定すればいいよ。ケンジは鑑定魔法も使ってたよ」
「どんなのが作れたのか見れるの? だったら、見ちゃおうかな」
私は意識をして鑑定の魔法を発動させた。すると、作ったポーションの仕上がりが見えてくる。
【低級ポーション】
・軽い怪我、打撲を治す効果のある薬
・品質:最高品質
「わっ……さ、最高品質?」
私、そんなの作っていたの?
「リマは手際が良いし、理解力も高いから、ケンジの知識を十分に発揮出来ていると思うよ」
「そ、そうなんだ……。自分では分からないや……」
「まぁ、これくらい出来て当たり前だよ。だから、卑下をしないで」
卑下はしてないけれど、なんだか信じられない。
「私がこれを売って大丈夫かな?」
「低級ポーションならこれくらいは当たり前だよ。だって、調合が簡単だからね。難しい調合だと品質を一苦労だと思うよ」
……そっか。簡単なポーションだから、これくらいは当たり前なのか。だったら、これを売って注目されるってことはないみたい。
「良かった。じゃあ、このポーションを瓶詰めしちゃおうか」
「その後は休む?」
「ううん。時間もあるし、ポーションの売り込みに言ってみようと思う」
冒険者ギルドのお姉さんが教えてくれたけど、作ったアイテムは直接店と交渉して置いてもらう形らしい。だから、この交渉を勝ち取らないと私のアイテムは売れない。
ちゃんと話せるか不安だけど、ここでめげていたら、目標が達成出来ない。だから、気合を入れていかないと。
「よし。エルリカ、私……頑張るから!」
「その調子だよ、リマ!」
◇
人通りの多い通りを歩いて行く。目的地は道具屋。そこで、アイテムを売ってもらう交渉をする。
「リマ、ポーション重くない? 空間収納に入れておけば良かったのに」
「いや、流石に人の目の前で取り出したら、能力が分かっちゃうでしょ。そうしたら、目をつけられて大変になるかもだから」
私はクラフト装置で作ったリュックにポーションを入れて持ち運んでいた。人前で能力を使う時は慎重に。私は何も力のない子供だから、目を付けられると利用されてしまうから。
重たいリュックを背負いながら歩いて行くと、道具屋の看板が見えてきた。
「……まずは一軒目」
「最高品質なポーションだから、すぐに買い取ってくれるよ!」
「応援ありがと。じゃあ、行くよ」
エルリカの応援で勇気をもらうと、扉を開けて中に入って行く。中に入ると、様々な棚に商品が置かれているのが見えた。その棚を素通りして、奥のカウンターまで歩いて行く。
そこに座っていた店主と目が合う。
「いらっしゃい。何か用ですか?」
「あの、ポーションを売りたいんですけど」
「ポーション? でも、うちは専属の錬金術師から買い取っているから、余剰分はいらないねぇ」
「少し見てくれませんか?」
「悪いけど、見ても買い取れないよ。他を当たってくれ」
店主は嫌そうな顔をして、ソッポを向いてしまった。
「分かりました。ありがとうございました」
私はお辞儀をすると、店を出ていった。そして、息をつく
「はー、緊張した。断られちゃったね」
「リマ、大丈夫?」
「うん、私は平気。それよりも、ちゃんと対応してくれた。それがちょっと嬉しい」
えへへ、と笑うとエルリカは苦笑いをする。
「もう、そんなことで喜んでいる場合じゃないよ。まずは交渉してくれる人に出会わないとね」
「うん。お店はまだあるんだし、きっと他に受けてくれるお店があるはず」
一軒断られたくらいで落ち込まない。それどころか、物乞いだとあしらわれていた過去があるから、普通に対応してくれたのが嬉しい。
普通に話してくれるなら、きっと道は開かれる。私はそこに希望を見出した。
「じゃあ、どんどんお店の人に話しかけていこう」
「その調子だよ。私も傍で応援しているからね」
エルリカの応援があれば、どんな困難でも乗り越えられそうだ。私はリュックを背負い直すと、人通りの多い通りを歩いて行った。




