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スラムの孤児は慎ましく生きたい~大賢者の遺産を継いだけど、救世主にはなりません~  作者: 鳥助
第二章

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11.異世界迷宮

「リマちゃん、いってらっしゃい」


 お姉さんが手を振って、見送ってくれる。私はお辞儀をして、その場から離れた。そして、息をつく。


「はー……緊張した」


「そう? 普通に対応出来たと思うけど」


「そう見えたなら嬉しい。でも、あのお姉さん……普通に対応してくれた」


 こんなに他人に優しくされたのは、おじいさんとエルリカ以来だ。いつもは物乞いのリマっていうだけで、蔑まされてきた。


 だけど、ここなら誰も物乞いのリマって言うことを知らない。普通に話して、普通に対応してくれている。それが、とても嬉しい。


「えへへ。普通の子供に見えるかな?」


「うん、見えるよ。普通どころか、良い子供に見えるよ。ちゃんと対応出来たしね」


 ここにきて、なんだか生まれ変わった気分だ。もう、物乞いのリマはいない。普通の子供として生きるリマに生まれ変わったんだ。


 ここでなら、普通の生活が出来るかもしれない。そんな期待が胸に芽生えて、どんどんやる気が出てきた。


 冒険者ギルドを出て、ファルムズの中心へと向かっていく。また一つ、城壁を越えてどんどん進んでいく。そして、見えてきた。とてつもなく、大きな建物が。


「あれが、異世界迷宮の入口……」


「大きいねぇ!」


 目の前にそびえ立っていたのは、お城と見間違えるほど巨大な建物だった。


 白い石で造られた外壁は何十メートルも高く、幾つもの塔が空へ向かって伸びている。壁には魔法陣のような紋様が刻まれ、陽の光を受けて淡く輝いていた。


 その威圧感に、思わず足が止まる。


「おっきぃ……」


 口から自然と声が漏れた。冒険者ギルドも大きかったけれど、これは比べ物にならない。まるで一つの城塞だ。


 建物の正面には、巨大な門のような出入口が開かれていた。何台もの荷馬車が行き来できそうなほど大きい。


 その中を、大勢の冒険者たちが出入りしている。武器を背負って入っていく人。大きな袋を抱えて戻ってくる人。怪我をして肩を貸されている人までいた。


 活気があるのに、どこか緊張感も混ざっている。ここが本当に命懸けの場所なんだと、嫌でも伝わってきた。


「……行こう」


「うん」


 私は小さく息を吸い込み、エルリカと一緒に中へ入る。すると、中は巨大なホールになっていた。


「わぁ……っ」


 高い天井。広々とした空間。磨かれた石床の上を、大勢の人が忙しなく歩いている。


 壁には大きな地図や注意書きが貼られ、何かを説明する声があちこちから聞こえてくる。


 私は圧倒されながら、きょろきょろと周囲を見回した。


「ど、どこに行けばいいんだろう……」


「初めてだと迷うよねぇ」


 エルリカも辺りを見回していると、近くの壁に大きな案内板が立っているのが見えた。


 『探索者入口→』矢印付きでそう書かれている。


「あっ、あれかな」


「みたいだね」


 私たちは案内に従って進み始めた。ホールの奥へ向かうにつれて、人の流れも一方向にまとまっていく。どうやら、みんなダンジョンへ向かっているらしい。


 やがて、広い通路に出た。天井は高く、壁には一定間隔で魔導灯が埋め込まれている。その淡い光が通路全体を照らし、不思議な雰囲気を作り出していた。


 石造りの長い通路を進む。足音が反響し、周囲のざわめきが少しずつ遠くなっていく。


 そして――。


「……あれ」


 通路の奥。そこに、巨大な光る扉があった。


 青白い光を放つそれは、空間そのものが揺らいでいるように見える。扉の向こう側は何も見えない。ただ、淡い光だけがゆらゆらと揺れていた。


 まるで世界と世界を繋ぐ入口みたいだった。私は思わず息を呑む。


「あれが……異世界迷宮……?」


 まるで、箱庭に行く時みたいな光の扉だ。呆然として見ていると、冒険者たちが次々と中に入って行く。


 私も遅れないように、光の扉に入って行った。光を抜けると、目の前に広大な景色が広がっていた。


「…………え?」


 思わず立ち尽くす。そこには、どこまでも続く大草原があった。


 風に揺れる緑の草原。青く澄み切った空。遠くには巨大な山々が連なり、その麓には深い森まで見える。


 白い雲がゆっくりと流れ、暖かな風が頬を撫でていく。草の匂いと土の匂いが混ざり合い、本当に外の世界に来たみたいだった。


「うそ……」


 建物の中だったのに、そこに広がっていたのは空のある世界。太陽まで浮かんでいる。


「な、なにこれ……!?」


 驚きのあまり声が裏返る。後ろを振り返ると、さっきまでの光る扉がそこに浮かんでいた。まるで空間に穴が開いているみたいに、不自然に存在している。


 その扉から、次々と冒険者たちが出てきていた。でも、それ以外は完全に別世界だ。


「本当に異世界みたい……」


「異世界迷宮って呼ばれてる理由がこれだねぇ」


 エルリカが楽しそうに笑う。私は呆然と周囲を見回した。


 草原のあちこちには岩場があり、小川まで流れている。空を見上げれば、鳥のような魔物が羽ばたいていた。


 遠くでは何か巨大な生き物が歩いているのも見える。しかも、そこら中に冒険者たちがいた。


 草を掻き分けて素材を採取している人。魔物と戦っているパーティー。まるで一つの世界が、そのまま存在しているみたいだった。


「ダンジョンって、もっと暗い洞窟みたいなのを想像してた……」


「そういう場所もあるらしいよ。でも異世界迷宮は階層ごとに世界が違うんだって。砂漠だったり、雪原だったり、海の世界まであるって話」


「海まで!?」


 思わず目を丸くする。そんな場所が、本当に存在するんだろうか。でも、目の前の景色を見れば信じるしかない。


 ここは常識の通じない場所なんだ。私は胸の前でぎゅっと手を握る。怖い。でも、それ以上にワクワクしていた。


「じゃあ、素材探しを始めよう。それがリマの第一歩さ」


「うん!」


 普通の生活を送るための一歩を踏み出した。

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