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スラムの孤児は慎ましく生きたい~大賢者の遺産を継いだけど、救世主にはなりません~  作者: 鳥助
第二章

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10.冒険者ギルド

「じゃあ、早速冒険者ギルドに行こう」


「えっ? 町を見て回らないの? せっかく大都市に来たんだし、最初は観光とか……」


 エルリカが名残惜しそうに周囲を見回す。露店の匂いや賑やかな声に、私だって少し惹かれていた。


 でも――。


「そんな悠長なこと言ってられないよ。私、まだ1デルも稼いでないもん」


 ここに来たのは、お金を稼いで普通の暮らしをするためだ。まずは仕事を見つけて、ちゃんと生活の基盤を作らないといけない。


「もう、リマは真面目なんだから……。しばらく暮らせるだけの食料もあるし、少しくらい遊んでも大丈夫だよ?」


「遊ぶのは、この町に慣れてからでも出来るよ。だから、先に大事なことを済ませたいの」


 そう言うと、エルリカは困ったように笑った。


「はいはい。リマがそこまで言うなら、まずは冒険者ギルドだね」


 エルリカはため息を吐いて、大通りを歩き出す。私は慌ててその後を追いかけた。


 途中、道行く人に冒険者ギルドの場所を聞いてみる。すると、返ってきたのは意外な答えだった。


 どうやら迷宮都市ファルムズには、複数の冒険者ギルドが存在しているらしい。


 巨大な迷宮を抱える都市だけあって、所属する冒険者も膨大。そのため一つでは管理しきれず、地区ごとにギルドが分かれているのだという。


 しかも、それぞれが冒険者や依頼を取り合って競争しているらしい。


「へぇ……ギルドって一つじゃないんだ」


「迷宮都市ならでは、ってやつだねぇ」


 その中でも、私たちが勧められたのは『南ギルド』だった。


 比較的雰囲気が穏やかで、新人冒険者や流れ者にも優しいらしい。子供の私でも門前払いされにくいだろう、と教えてもらった。


 大通りをしばらく進むと、やがて一際大きな建物が見えてくる。


 石造りの五階建てで、人の出入りが激しい。武器を持った冒険者たちが次々と出入りし、そして入口の上には、大きな看板。


『ファルムズ南地区冒険者ギルド』


 その文字を見た瞬間、胸がドキリと鳴る。ここが、私がこれから仕事を探す場所。


 新しい人生の始まりになるかもしれない場所だった。ゴクリと唾を飲み込み、私は重厚な木の扉に手を掛けた。


「……行くよ?」


「うんっ」


 意を決して扉を押し開ける。すると――。


「うわっ……!?」


 中に入った瞬間、熱気と喧騒が一気に押し寄せてきた。


 広いホールの中は、人でごった返している。冒険者らしき人たちがあちこちを歩き回り、怒鳴り声のような大声や笑い声が飛び交っていた。


 鎧姿の戦士。ローブを着た魔法使い。大きな斧を背負った獣人。今まで見たこともないような人たちが、同じ空間に集まっている。


 まるで戦場前の市場みたいだ。


「す、凄い人……」


 圧倒されながら周囲を見回す。正面には長いカウンターがずらりと並び、その向こうでは受付嬢たちが忙しそうに対応していた。


 次々と冒険者がやって来ては、書類や袋を渡している。受付嬢たちも慣れた様子で次々と処理していて、その手際の良さに思わず見入ってしまった。


 ボードには大量の紙が貼り出されている。恐らく依頼書だろう。前には人だかりが出来ていて、みんな真剣な顔で内容を確認していた。


 そして横を見ると、そこには飲食店のようなスペースが広がっていた。


 木製のテーブルと椅子が大量に並べられ、昼間だというのに酒を飲んでいる人までいる。料理を運ぶ店員が忙しそうに動き回り、焼いた肉の匂いがこちらまで漂ってきた。


「ギルドの中にお店があるんだ……」


「冒険者は依頼の合間に休憩したり、情報交換したりするからね。酒場も兼ねてるんだよ」


 エルリカがそう説明する。


 確かに、テーブルでは冒険者たちが地図を広げて話し込んでいたり、大声で笑い合ったりしていた。中には傷だらけの人もいて、ここが命懸けの仕事場なのだと実感する。


 私は思わず、自分の服の裾を握った。こんな場所で、本当にやっていけるんだろうか。


 周囲を見れば、みんな強そうな大人ばかりだ。小柄な私なんて場違いに思えてしまう。


 すると、そんな私を見てエルリカが小さく笑った。


「緊張してる?」


「……ちょっと」


「大丈夫だよ。最初から堂々としてる新人なんていないって」


 その言葉に少しだけ肩の力が抜ける。私は深呼吸を一つすると、受付カウンターへ向かって歩き出した。


 空いているカウンターに並ぶと、綺麗なお姉さんがいた。


「あら、可愛い子。いらっしゃい。どうしたの?」


「あの、働きたいんですけど……」


「あなたみたいな小さな子が? 大丈夫? 親はいるの?」


「……親はいません。それでも大丈夫ですか?」


 不安になりながらも尋ねてみると、お姉さんの表情が優しい笑顔になる。


「もちろん、大丈夫よ。ここはどんな人でも受け付けるギルドだからね」


 よ、良かった……。どうやら、噂通りのギルドだったみたいだ。


「それで、お嬢ちゃんはどんなことが出来るの?」


「えっと、魔法が使えます。それに錬金術で物を作ったり、多分魔道具なんかも扱えます」


「まぁ、そんなに色々と出来るの? だったら、どんな仕事でも出来そうね。安全なのは物作りだと思うけれど、ダンジョンに入って魔物も倒せるの?」


「魔法が扱えるので、それを使えば出来ると思います」


「ちょっと心配だけど、やるって決めたなら止めないわ。だったら、ダンジョンで素材を取ってきて、それをアイテムに作り変えるのが一番稼げると思うわ」


 あっ、エルリカの言った通りだ。やっぱり、このやり方の方がお金を稼げるんだ。


「じゃあ、それでお願いします」


「はい、かしこまりました。じゃあ、まず冒険者として登録するから、この用紙に必要事項を書いてね」


 差し出された紙にペンで必要事項を記入する。それを渡すとお姉さんはニコリと笑った。


「リマちゃん、ね。今、カードを作るから待っていてね」


 そう言って、お姉さんは機械を操作した。しばらく待っていると、目の前に一枚のカードが手渡された。


「はい、これが冒険者カード。リマちゃんの冒険者としてのデータが載っているわ。素材を納品したり、魔物を倒したり、依頼をこなしたりするとランクアップが出来るわ」


「ランクアップってなんですか?」


「冒険者としての位が上がるってこと。ランクが上がると、良い依頼を受けれるし、指名依頼だって来るわ。だから、ランクアップを目指すのがおすすめよ」


 なるほど。お金を貯めるだけじゃなくて、自分の地位を向上していい仕事を取るためなのか。それだったら、ランクアップを目指した方がいい。


「登録したてだから、Fランクからね。初心者の冒険者なんだから、無理しちゃだめよ」


「は、はい」


「じゃあ、ダンジョンの場所なんだけど――」

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