12.引き継いだ力
「あのお姉さんが教えてくれた、初心者の森っていうところに行こう」
「うん、多分見えているあれだよね」
入り口付近から見える、一番近い森が初心者の森と言われているところだ。初心者はまずこの場所で素材採取や魔物討伐を覚えるという。
私も初心者だから、その場所を勧められた。この場所でしばらく鍛えれば、一人前の冒険者になるっていう話しだ。
「じゃあ、あの森でやることと言ったら、素材採取に魔物討伐だね。心の準備は出来ている?」
「……ちょっと怖いけど、頑張る」
素材採取は箱庭の森でもやったことがあるから大丈夫。だけど、魔物討伐は初めてだ。
おじいさんの力を受け継いだと言っても、まだその力を使っていない。……ちょっと待って。森に入る前に少し練習した方がいいんじゃないだろうか。
「ねぇ、エルリカ。少し、魔法の練習がしたいんだけど……いいかな?」
「魔法の練習? そんなことしなくても、魔法は使えるよ。自分の体を乾燥させた時も出来たでしょ?」
「あれは危険な魔法じゃなかったから良かったけど、これから使う魔法は危険なものでしょ? 少し、練習した方がいいと思って」
「不安なんだね。よし、分かった。人のいないところで、少し練習しようか」
良かった。これで本番になる前に、使うことが出来る。今の私はどれくらいの魔法が使えるのか分からない。それを知ってからでも、冒険は遅くないはずだ。
他の冒険者がいない場所へ移動する。この場所なら練習しても周りに迷惑がかからないはずだ。
「よし。どんな魔法を使おうかな」
「やっぱり、派手な火魔法がいいよ。爆発させる感じで放つと、魔物は一発で仕留められるよ」
「爆発か……ちょっと怖いけど、やってみる」
その魔法なら一発で魔物を倒せそうだ。戦闘経験のない私には、その方が安全に敵を倒せる。
手を構えて、意識を集中させる。すると、手に力が集まってきた。
「普通に打てばいいよ」
普通ってどれくらい? 良く分からないけれど、少し力を抑えて溜めた。そして、一気に解き放つ。すると――放たれた瞬間、赤い光が一直線に地面へ突き刺さった。
次の瞬間、凄まじい爆発が巻き起こる。
ズガァァァァァンッ!!
耳をつんざく轟音。衝撃波が辺りへ吹き荒れ、草木が激しく揺れた。
「っ!?」
私は思わずその場にしゃがみ込む。熱風が頬を叩き、砂と土が舞い上がった。爆発した場所から黒煙が立ち昇っている。
「えっ……えっ……?」
あまりの威力に頭が追いつかない。恐る恐る顔を上げると、数十メートル先の地面が大きく抉れていた。
そこだけ草原が消え失せ、巨大なクレーターみたいになっている。
「うんうん、流石大賢者の力。この威力があれば、どんな魔物も一撃で倒せるね」
その光景を見て、エルリカは満足そうに頷いた。だけど、私は――。
「い、いや……こんな力、使えないよ……」
「えっ、どうして!? めちゃくちゃ役に立つよ! それこそ、強い魔物を討伐して、高い素材を入手するとかさ!」
私の言葉にエルリカは戸惑っている様子だった。エルリカにしてみれば、この力があればどんなことでも可能だと思っているのだろう。だけど、私にはあまりいい予感がしなかった。
「こんな力を持ってるって知られたら、絶対に目をつけられるよ……」
クレーターを見つめながら、私は小さく呟いた。
「目をつけられる?」
「だって、こんなの普通じゃないもん。もし誰かに見られてたら、『あの子を仲間にしたい』とか、『囲い込みたい』とか……そういう人が絶対に出てくる」
大人の世界は、そんなに優しくない。物乞いをしていた時に嫌というほど見てきた。力のない子供は利用される。逆に、力のある子供だって、結局は大人に使われるだけだ。
「それに、悪い人だって寄ってくるかもしれない。捕まえて、自分たちのために魔法を使わせようって考える人もいると思う」
「うーん……確かに、そういうのはありそうかも」
エルリカもようやく納得したみたいに頷いた。
「注目されるのって、良いことばっかりじゃないんだよ。私はまだ子供だし、戦いにも慣れてない。そんな状態で強すぎる力を見せたら、危ないと思う」
今の爆発を見れば、きっと誰だって放っておかない。冒険者ギルドも、貴族も、悪い人たちも。色んな人が集まってくる。
でも、私はそんなことをしたいわけじゃない。普通に暮らしたい。普通に冒険して、普通に生きたいんだ。
「だから、今後は自分に合った力の使い方をする。初心者には初心者に合った戦い方があるはずだから」
いきなり最強みたいなことをする必要はない。まずは、少しずつ覚えていけばいい。
素材採取をして、お金を稼いで、ちゃんと生活する。今の私には、その方がずっと大事だった。
「リマって結構慎重だねぇ」
「怖がりなだけかも……」
「でも、悪くない考えだと思うよ。力を隠しておくのも、生き残るためには大事だしね」
エルリカはそう言って笑った。
私はもう一度、巨大なクレーターを見る。こんなのを気軽に使うのは、やっぱり危険すぎる。
そう思いながら、私は静かに拳を握った。




