第16話『本体降臨』
地響きが止んだのは、ほんの数秒のことだった。
だが、その一瞬の静寂こそ──戦場に立つ全員の背を、ぞくりと撫でていく。
「……今の、揺れは?」
ルナリアが影を収めながら、沈むような声を漏らす。
セリオスは地面の亀裂に指を触れ、眉をひそめた。
「“誰かが”ここに降りようとしている……そんな感じだ。」
そのとき。
──空が、割れた。
正確には、空間の一点が音もなく引き裂かれた。
黒でも白でもない、色そのものの欠けたような亀裂が、ゆっくりと開いていく。
「……っ!」
リュミエルが思わず後ずさる。
彼女でさえ、癒しの神気が直感で拒絶した。
光草が一斉に萎びる。
その動きが、まるでこの世界そのものが息を呑んだようだった。
「来る……!」
ライゼルが空気を裂く雷をまとい、一歩踏み込む。
ガルザスは大地に拳をつき、構えを低くした。
「……でかいのが来る。」
そして、裂け目の向こうから“腕”が出た。
細く、長く、金属でも肉でもない。
概念のような、影のような、しかし確かに“存在している腕”。
それが、静かに空間を押し広げ──
ゆっくり、ゆっくりと“本体”が姿を現した。
「断界種……しかも神将級!」
セリオスの声が震えるほどの冷気を帯びた。
この場にいる全員が、瞬時に悟った。
──戦獣級とは別格。あれは“神の系譜”の力。
「こいつら、マジでやばいんじゃねぇの?」
ライゼルが苦笑に近い声を漏らす。
だがその目は、獲物を前にした獣のように鋭かった。
亀裂から姿を見せたのは、一体。
しかし、その後ろに“複数の影”が蠢くのが見える。
「一体じゃない……!」
ルナリアが影を広げる。
「最低三……いいえ、もっと!」
その瞬間、“声” が降ってきた。
言語ではない。
神気の圧が音の代わりに語った。
──侵食せよ。この地を奪え。命を吸え。
「……ッ!」
リュミエルが胸を押さえ、膝をつきかける。
それをセリオスが支える。
ガルザスとライゼルだけが、一歩も引かない。
いや──
彼らだけが、その声に“殴り返すほどの神気”を放った。
「上等だ……!」
ライゼルが雷を裂く。
「来い。」
ガルザスが地面を震わせる。
その挑発に応じるように、裂け目が一気に開いた。
──五つの影。五つの異質。
神将級、本体降臨。
「……負けるなよ、みんな。」
セリオスが構える。
「当然!」
ライゼルが叫ぶ。
「護る……!」
リュミエルの手が光る。
「……行く。」
ルナリアの影が伸びる。
「粉砕する。」
ガルザスが拳を握った。
そして、五つの影が大地に足をつけた瞬間──
世界の空気が、完全に“戦場”へと変貌した。




