6 おかしな四人組
星たちは今のところ毎夜楽しそうに、しゃらしゃらとおしゃべりしているが、その合間で時折、謎かけのように大事なことを伝えてくることもあるので侮れない。
「なぁなぁ、星はなんて言ってるんだ?」
テラスのベンチに腰掛けて夜空を見上げていると、ジョシュアがやってきた。
「もう夜遅い時間だけど」
「おまえだって起きてるだろ。それでなんて?」
エスター家の人々のことは、星たちもある程度信用しているようなので、ニレは星の声について特に隠してはいなかった。
夜に外へ出たり窓を開けたりしているニレを見て、義兄弟たちはそれぞれに何をしているのかと聞いてきたが、星々の声を聴いているのだと答えれば、ユマ族特有の習慣か儀式なんだろうと、さして詮索することもなく受け入れていた。
中でも三男のジョシュアは、子ども特有の好奇心ゆえか、自分も聴いてみたい!と思うようで、夜の庭でニレを見かけるたびに、こうして声をかけてくる。
「助けてあげて、って」
「えっ、誰を?」
鳶色の瞳をまんまるくして、ジョシュアがニレを見た。
「さぁ、誰だろう」
「なんだそれ」
「なんだろねぇ」
《可哀そうな子》
《叩かれてる》
《閉じ込められてる》
《誰も、気づいてない》
《北天のぬしの子、助けてあげて》
いや、閉じ込められてるならどうやって見つけるというのか、もう少しヒントをくれないものか、と思うが、気ままな星たちはたいていこんな感じで、一方的にメッセージを投げかけてくるばかりなのである。
そこへ、庭師のベンが鍬を担いでやってきた。
「子どもは寝る時間ですぞ」
チョコレート色の髪と眉毛と、もじゃ髭に頭部を覆われて、鼻以外はほぼ見えないベンじいさんであるが、実は髭を剃ったらイケメンかも疑惑がある。
というのも、たまに孫娘を連れてくることがあって、この子が天使のような美少女なのだ。
ちなみに本人はなかなか認めないのだが、この美少女がジョシュアの初恋の君である。
ベンは住み込みの一人暮らしだが、近所に息子夫婦とその娘が住んでいるらしい。
きっと、昔はイケメンだったのにだんだんベンが髭もじゃになっていくから、奥さんが浮気をして出て行ったのではないか、と言われている。
なお、噂の出所はおしゃべりメイドのジェンなので、あまり信用できる情報源ではないのだが。
「ベンじいさん。最近姿を見かけなくなったような子、近くでいるかな」
ニレはダメ元で聞いてみた。
タミは常々語っていた。
偶然に思えるような出来事もすべては必然であって、何かが起こったとき、そのタイミングで出会う人には何かしら意味があるのだと。
「うむ。そういえば、『楡の木酒場』のシェリーちゃんが、最近ロナが来ないと言っておりましたかな」
楡の木酒場のシェリーちゃんが誰だか知らないが、ロナというのは酒場に缶詰などを卸している食料品店の娘さんらしい。
通常の納品は下男が荷馬車で運んでくるのだが、集金やちょっとした届け物などは、これまでたいていロナが来ていたのだという。
ところが最近では、ロナの妹を名乗るベスという少女が来るのだとか。
それを聞いたジョシュアが、あっと声を上げた。
「ちょっと待って、食料品屋のベス?もしかして、うちの学校に最近来るようになった子かも」
なんでも、食料品屋の主人は最近後添えをもらったらしく、ベスという少女はその連れ子のようだ。
ジョシュアは、明日学校へ行ったらベスが何か知らないか聞いてみる!と意気込んで、部屋へ戻って行った。
「ロナ・アーウッドだったか。同学年だから名前くらいは知っているが、あまり関わりがないからな」
食堂でお昼を食べながらロナの話を出すと、どうやら彼女も学院生だったらしいが、イーライはほとんど知らないと首を横に振った。
選択科目がかぶらなければ授業で会うことも少なく、まして午後は馬術や裁縫など、ほぼ男女で分かれる科目ばかりなので、イーライや入ったばかりのニレが知らないのも無理はない。
「ブルネットの大人しそうな女の子よ。たしか一昨日あたりから体調不良でお休みしてた気がするわ」
亜麻色の髪に黒ベルベットのカチューシャをさしたアウロラが、隣の席から身を乗り出した。
あなた、もっと食べないと大きくなれないわよ、と言いながら、ニレの皿に肉の塊を載せてくる。
ここの学食は、好きなものを好きなだけとってくるセルフ形式なので、わざわざ分けてもらう必要もないのだが。
先日のバーソロミュー事件がきっかけでニレに好感を持ったらしく、あれ以来何かと世話を焼いてくる姉御肌の少女である。
「ロナ嬢は、優秀な僕とは違って成績は中の上といったところだけれど、真面目だし直前まで健康上の問題はなかったはずさ。ちなみに、僕の独自情報ネットワークによれば、アーウッド家の後妻についてはあまり良い噂を聞かないね」
相変わらず気障ったらしい口調のバーソロミュー。
そう、ニレの天然毒舌に灰と散ったかと思いきや、不死鳥のごとく復活し、むしろ開き直ったのか逆にニレたちにつきまとって来るようになっていた。
結果、おかしな四人組が誕生してしまったわけである。
「なんでこうなったんだ…」
イーライがぼやくが、開き直ったバーソロミューは聞いちゃいない。
「というわけで、どうだい?みんなでアーウッド家に忍び込むってのは」
「いやそれ、犯罪だから」
ニレが冷静に突っ込む。
「君、若いのに夢がないねぇ」
ちっちっ、と舌打ちつきで人差し指を振られると、ひらひらした襟で覆われた首を締め上げたくなってくるのは、まぁ人情だろうとニレは思う。
「夢でお縄にはなりたくない。というか、そもそも人の家に忍び込みたい夢ってなに」
「右に同じく」
ニレとアウロラ、バーソロミューで、ああだこうだと言い合っているところへ、いつの間にか席を外していたらしいイーライが戻ってきた。
「アーウッド家に今日の放課後、訪問する約束を取り付けてきたよ」
学校の電話を借りに行っていたようだ。
アウロラのほか周囲で話を聞いていた数人も含めて、スマートな対応に感嘆をもらす。
「中身の伴わない男はかっこ悪い」
ニレに一刀両断されたバーソロミューが、半笑いのまま固まって崩れ落ちた。




