第三十七話 転生の条件
羽尾アワネside
アラームの音で目が覚める。時刻を見ると午前十時。昨日の夜はゲーム配信をしてて寝るのは午前五時だったけど、それを考えると結構早く起きられたんじゃないだろうか。
月光を浴びるためにカーテンを開く。
「眩しっ」
カーテンを閉じた。
……顔でも洗いましょうか。
「あ」
洗面台にて、頭頂部を見たワタシは声を出す。髪が伸びてきて、黒色が目に見えて判るようになってる。
「そろそろ染め直さないとかぁ……めんど」
ワタシの地毛は黒色で、今の赤髪は配信をするにあたってのキャラ作りのためなんだけど……やっぱり手入れとか、そういうのが面倒くさくて「もういっそのこと地毛に戻してやろうかな」とか考えることも少なくない。というか、一回地毛に戻したことがあるんだけど……。
「やっぱり、この髪色が一番好きなんだよなぁ」
ワタシの友人__心春チャンと同じ髪の色。関わりがあった時間は短いけど、綺麗な赤色はワタシの心にずっと残り続けてたから。面倒くさいと思うけれど、この髪色から変えることは今後一生ないだろう。というか、できるなら転生後は赤髪で生まれたい。
顔を洗い、髪を染め直し、今日の予定を確認する。今日は昼からゲーム配信をすることになっている。最近公開されたRPGなんだけど、完成することができないまま事故で死んでしまった作者がリベンジで作った作品らしく、完成度が高いことや作者の裏話がバズったことで人気になったゲームだ。リクエストが多かったからやることにしたんだけど、雰囲気が結構好みだったから楽しみなんすよね。
朝食を取りながらスマホで昨日の配信をチェックする。
「昨日の配信の評判はどうだろ。結構初見コメが多かったんだよな~」
まずコメントから。十六個ある。見てみると、いつも見てくれるリスナーたちのコメントだった。全体のタイムスタンプを作ってくれている人や、ゲームのストーリーの感想、好きなシーンのタイムスタンプなど、いつも通りの、嬉しいコメントが多かった。
こういったコメントを見ていると、ワタシの配信はちゃんと面白いんだと思えて自信が持てるんですよね。活動を始めたばかりの時なんて、全然見てくれる人が居ないから病みに病みまくってたもんなぁ……。
「そう考えると、着々と目標には近づいていってるんすかね〜」
ワタシの目標はチャンネル登録者数百万人__ではあるのだけど、それ以上に大切なことがある。
それは、配信を通じて、理想の自分を目指すこと。
幼い頃から失敗ばかりしていたワタシは、どうせ何をしても失敗するんだからと挑戦することもせずに諦めてばかりだった。
でも、ネットに触れて、色んなことに挑戦している人達を見て思ったんだ。
ワタシもこういう風になりたいって。
そう思ったワタシはお母さんに「動画投稿を始めたい」って言って、高校生になったら始めても良いと許可をもらった。
ワタシは喜び勇んで動画編集や炎上しないためのコンプラ、SNSの運用方法を調べたり、投稿者になったらやりたいリストを作ったり、それはもう、やれることはやれるだけやった。成績が下がったら約束を取り消されるかもしれないと勉強も頑張った。
そして高校生となり、晴れて動画投稿者となったワタシはゲームの実況動画を作って投稿した。結果は、まぁ、全然見てもらえなかったんだけど……最初なんだからこんなもんかと、ワタシはめげずに毎日投稿を続けた。
でも全然見てもらえなくて、高校二年生の春……投稿を始めてから一年くらいで、ワタシは交通事故に遭って死んだ。
意識が途切れる直前に、ワタシはこう思った。
「あぁ、結局ワタシは変わることができなかったんだな」って。
ワタシは生前の後悔をチャンネル登録者数百万人になるまで活動できなかったことだと思ってずっと行動してきました。でも、最近SNSでバズった投稿を見て考えを改めた……というか、こっちの方がしっくりくるなと思ったんです。
その投稿は転生に関する考察で、簡単に言えば「死ぬ直前に悔やんだことが生前の後悔として登録される」というものでした。
まぁただの憶測で実際は間違っているかもしれませんけど、何となく信憑性があると思い、自分が死ぬ直前悔やんだことを思い返してみたんです。
結果、ワタシの生前の後悔は「引っ込み思案な自分から変わることができなかったこと」なんじゃないかと思ったんです。
「そう考えると、ワタシの後悔ってどう解消すればいいんですかね」
配信のチャット欄を眺めながら独り言つ。自分が心の底から「変わることができたんだ!」と思えばそれで解消されるのか、あるいは何か特別な行動をしないと解消されないのか……。
「あ~~~も~~~~~! 転生に条件をつけるならどうすれば解消するのか教えてくれたらいいのに!」
考えすぎて頭痛がして、頭を抱える。マジで転生の条件が本人に秘匿されている理由が謎すぎる!
「転生条件達成したらすぐに転生させるくせにこういうところで不親切なの意味不明なんすけど!」
一通り愚痴ったところで落ち着き、再びチャット欄を眺め始める。コアなファンが居るタイプのゲームだからか普段よりチャットの流れが速い。この中からどれくらいの人が自分のファンになってくれるのか、楽しみでもあり、不安でもある。
「とりあえず、配信準備を始めないとっすね」
頬を軽く叩き、気持ちを切り替える。
今日も、ファンを楽しませないと!




