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第三十五話 幼馴染の再会物語

鬱之憂病(うつのゆうや)side


 クラヤミタウンのうつろ花畑。


「憂病チャンってタイヤンくんのこと好きなんすか?」

「えっ!?」


 私とアワネちゃんが一緒にうつろ花の駆除をやっていた時のことだった。あまりに唐突すぎて毟っていた花が地面に落ちる。


「きゅ、急に何!?」

「いやぁ、ちょ~っと気になっちゃって! 幼馴染なんすよね、タイヤンくんとは」

「そ、そうだよ……」


 びっくりしたけど、どうやら普通の雑談として出した話題らしい。それなら別に動揺する必要はないかと短く息を吐く。


「まぁ、幼馴染って言っても小さい頃に遊んだだけだけどね」

「あ~、そうなんすね」

「うん」


 アワネちゃんはしばらく考えるように目を瞑っていたが、ぱちりと目を開き私の目を見た。金色の瞳が私を写す。


「それじゃあ、ここで再会できたときどう思ったか聞かせてもらっても良いっすか!?」

「こ、ここで再会できたとき、かぁ……」


 思い出す。数百年の時が経っているけれど、あの時のことは今でも鮮明に思い出せる。


「あの時はね__」


 ・


 数百年前。十五歳で死んだ私は村……今はクラヤミタウンって言われてる村で日々を過ごしていた。

 黄泉の国を統率していたヒトから「次の生を歩むには生前の後悔をなくすこと」と言われて、その後悔が何なのか悩んでいた時のことだ。


「ねぇ、ねぇ! ユエ!」


 あばら家の隅で体育座りをしていたとき、そんな明るい声が私の思考を遮った。顔を上げると、茶髪の女性が私を見ていた。双丫髻(シュアンヤージー)……判りやすく言うとお団子ヘアの、愛嬌のある人。

 ユエ、というのは私の生前の名前で、紗夢(さゆめ)ちゃんと出会ってから鬱之憂病(うつのゆうや)って名前にしたんだよね。


「シンイェ姉、どうしたの?」

「どうしたの? じゃないわよ~!」


 シンイェ姉は私を抱きしめてワンワンと泣き始めた。


「また振られちゃったの! 私、ちゃんとあの人の好み通りになるように頑張ったのにぃ!」

「よ、よしよし。泣かないで……」


 シンイェ姉……私のお姉ちゃんは、生前悪い人に騙されて無惨に殺されちゃったんだけど、良い人と添い遂げれば生前の後悔がなくなって転生できると思ってたみたいで、仕事の傍らでいろんな男の人に告白しては断られるのを繰り返していた。


「今回はどんな人だったの?」

「農民よ。美丈夫でね、優しい人なの!」


 優しくされたことを思い出しているのか、シンイェ姉は両手を頬にあて「きゃあ!」と笑顔を浮かべた。


「でね、でね。この人となら幸せに暮らせると思ったの! だけど……」


 彼女はまたワンワンと泣き出す。


「すでに奥さんが居たのよぉ! まだ生きてるみたいで、ここには居ないんだけどね? 私の好きになる人、みぃんなこんなのばっかりなの! どうしてだと思う?」

「う、うーん……好きになったらすぐに突撃して、どんな人かとかそういうのを知ろうとしてないから、かなぁ……」

「……やっぱり、ちゃんと知ったほうが良い?」

「うん……あと、どんなに優しそうな人でも、本当は怖い人の可能性もあるから、慎重になったほうが……」

「う、うぅう……だって、だってぇ! 好きになったらすぐに想いを言わないと誰かに盗られちゃうかもしれないじゃない……だって素敵な人なんだもの!」


 唇を尖らせ、人差し指をつつくシンイェ姉。

 しばらくお姉ちゃんの愚痴を聴いていると、外が騒がしいことに気づいた。二人で外を見ると、村の大人たちが、子供を囲んでいる。そのうちの1人が怒鳴っていた。


「うちは半獣を受け入れる余裕はねぇ! さっさと森にけぇれ!」


 おじさんがしっしっと手を振る。それでも子供は動かず、大人たちを睨みつけていた。


「半獣だって……!」


 シンイェ姉が好奇心を隠せない声で私を見た。半獣……もう言われてないけど、昔は罪人のことを半獣と言って忌み嫌っていた。今は「罪を犯したけれど改心した人」や「情状酌量の余地がある人」だという認識があるから排他されるとかそういうことはないんだけど。昔はそんな認識もなかったから。

 半獣は村とは違う、森に住居を構えていた。カンゴクチョウの前身と言える場所だね。大半の半獣は森に暮らしてたんだけど、たまにこうやって村に出てくるときがある。そうなったときは村の大人が総出で追い出していたんだ。


「! あれって……」


 私たち姉妹は半獣を見たのは初めてだったから、珍しくてよく見てたんだ。そしたら、すぐに気づいた。あの子は、私が小さい頃に一緒に遊んだ子だって。……うん、そうだね。タイヤンだったんだ、その子は。


「ユエ? どこ行くの?」


 そう気づいたとき、私は駆け出していた。


「ま、待って……きゃあっ!」

「ユエ!?」


 タイヤンを殴ろうと腕を振り上げた大人たちの間に入って、私はそのまま殴られた。皆驚いていた。タイヤンも。


「何してんだ! 危ねぇだろ!」


 他の人達が動揺する中、私を殴った人……私たち姉妹を可愛がってくれたおじさんが怒鳴る。私はおじさんたちを見て、こう言ったんだ。


「この子は私の友達なの。だから、少しだけ話をさせて」


 って。

 最初は何言ってるんだ! って怒られたけど、梃子でも動かないと理解した大人たちは私とタイヤンが話すことを許可してくれた。

 私たちが住んでいるあばら家で、私とタイヤンは向かい合って座っていた。シンイェ姉は気を遣ってくれたのか、村の人たちの手伝いに出向いたから家に居るのは私たちだけだった。彼は俯いて何も言わない。薄汚くて、着物はぼろぼろで……一緒に遊んでた時よりも身なりが酷くなってて心が痛んだのを覚えてる。


「私、ユエって言います。小さい頃に遊んでたんだけど……覚えてる?」

「………………、あの時の令嬢だろ。忘れるわけない」

「良かった、覚えててくれたんだ」


 タイヤンが私のことを覚えてくれていたのが嬉しくて笑顔を浮かべる。その表情が気に食わなかったのか、タイヤンは私を睨みつけた。


「それで? 何が欲しいんだよ」


 あの時タイヤンは、私が自分を助けた理由は何かを奪い取るために助けたんだと思ってたみたい。全然そんなこと考えてなかったから、言われた私はビックリして首を横に振った。


「何も欲しくないよ! あ、それよりさ。ご飯食べる? おじさんからもらった握り飯が残ってるんだ。一緒に食べよ?」

「は? なんで……」

「良いから!」


 立ち上がって玄関の近くにある台所に行く。おにぎりはその上にあって、私はそれをタイヤンの口に押し付けた。


「たぶん、だけど……お腹空いてたんでしょ? おじさんたちが言ってたよ。半獣が村に来る理由の大半はご飯が無いからだって」


 タイヤンがおにぎりを食べ終わるのを待ってから、二つ目を口に押し付ける。よほどお腹が空いてたのか、もったいない精神だったのか判らないけど、二つ目もすぐに食べてくれた。三つ目を手に取ったとき__。


「ちょ、ちょっと待て! もういい! もういいから!」

「え? でも……」

「それで最後だろ。他人のメシを全部奪うほど俺は落ちぶれてねぇ」

「そう? ……お腹、いっぱいになった?」

「なったなった。なったからもう帰__」

「待って!」

「ぐぇ!」


 家を去ろうとするタイヤンの首襟をつかんで引き留める。彼はむせていたけれど、すぐに私を睨みつけた。


「なんだよ! もう用は終わったろうが!」

「終わってないよ!」

「あぁ!?」

「わた、わたし__私たちと一緒に暮らそうよ!」

「…………」


 タイヤンはポカンとした顔で私の顔を見た。言っていることが判らないのだろう。


「はぁ!? お前正気か!?」


 そのあと、私はタイヤンと、村の人たちを説得した。半獣を受け入れたところでなんの得もないと最初は渋い顔をしていたんだけど、タイヤンが農作業を手伝ったことで人柄を知られて、監視付きで村で住むことを受け入れてくれたんだ。


 ・


「__これが、私とタイヤンが再会したときの話だよ」

「結構苦労してたんすね、タイヤンくん……」


 アワネちゃんが思いを馳せるように空を見上げる。


「それにしても、シンイェ……さんは、今どうしてるんすか?」

「そのあと、百年くらいかけて良い人と出会って、未練が解消されたから転生したよ」

「百年! ほぼ一生! はぇ~……そんなにかかるもんなんすねぇ」

「あはは! シンイェ姉も転生するときそう言ってたんだよね。良い人と添い遂げることがこんなに難しいことだったなんて~! って」


 久しぶりに姉さんのことを思い出したからだろうか。少し、寂しい気持ちになる。

 アワネちゃんも未練が解消出来たら、すぐに転生する。黄泉の国も受け入れる人数が決まっているから、解消できたら本人の意思関係なく転生しなければならないんだ。

 今までいろんな人を見送ってきたけれど、こうして一緒に話すことができなくなることが、どうしようもなく寂しい。


「……そうだ」


 アワネちゃんが口を開く。


「憂病チャンの未練って、何すか?」

「未練……」


 私の未練。それは、たぶん……。


「タイヤンに、想いを伝えられなかったこと」


 恋愛でも、友愛でも、どちらでもいいけれど。

 私はタイヤンのことが好きだったから。

 その想いを伝えられないまま会わなくなって、死んでしまったことに、私は後悔してたんだと思う。


「だから、言わないんだ。自分の想いを」


 私は彼の懲役期間が終わるまで、この気持ちを隠し続ける。そして、転生できるようになった時に言うんだ。

 私はタイヤンのことが好きでした、って。

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