14話 「追」
マーチェ「それにしても、何故ケリュケイオンという最強の武器を使わなかったのですか?」
マーチェは当然であろう疑問を投げかける。あの、「共鳴の荒者」を圧倒した杖を使わない理由はない。
彼等6人?いや、4人と2獣人は表現としては6人か?一行はギーク夫妻の傭兵蔵に赴き、武器の準備をしていた。槍や弓が多い。一般兵装だ。もう水鏡の守護者も捜索に出て、居場所を捜索しに出払って討伐要請まで、水の聖域から発令されて兵器庫はガラガラだ。
ギーク「奴には効力を発揮しないからだ。あいつの攻撃が杖を掠めたが、ピクリともしなかったぜ。」
ユミ「私はギークから夫婦の合図をもらっただけー」
マーチェ「へぁ、お熱いのね?ウィンクかしら?」
ユミ「あら、分かるの?凄いわね?マーチェさん。流石は商人だけあるわー。しかし、ここまで精度の高い矢尻は最高だわ。」
ギークとユミはイミュに対して、多少苛立ちがあり、いつもの傭兵業務より念入りに、王命に従い、聖域からのイミュ討伐の依頼に胸を躍らせていた。イミュはギークにとって、命の恩人に近いが、恩を仇で返すような存在を2人は嫌う。
ギーク「ネフィルさんもジャジャ馬娘に評判落とされて、大変だろうよ!急ぐよ?グレッグド!乗り心地期待してるからな?」
王命で討伐要請まで、出てしまった。
そうなった以上、ネフィルさんとの宴で、あの酒場で祝う前から天災が起きていたとは知らずに、ギーク一行は歯を食いしばる。
グレッグド「ありがとう…ギークさんは獣人にも偏見がないのですか?」
グレッグドも不安なのか、少しばかり、怯えた声で聞く。
ギーク「ある訳ねーよ。私利私欲に塗れた戯言言ってる奴がそういう偏見を持ちやすいんだ!グレッグド!気を負うなよ!」
グレッグドの表情が少し緩む。
ユミ「ギークゥ!」
ギーク「何だ?」
ユミ「みてみて!今回は魔法陣とトラップいつものやつより作動しやすくしておいたの!」
それは不気味な笑みで用意周到に笑う。ユミはそれほどまでにギークを見つめる。
ギーク「おぉ!すげー!流石!」
ギークはそれを見て素直に感心する。今回はユミも弓矢によって発動する魔法陣を形成する道具、全員が3回まで、連絡が取れる救援信号を送る為の火の玉とその発射砲、そして、緊急治療用の油を入れた容器、ナイフ、様々な道具をマーチェや、他の自分達の道具から用意をする。
マーチェ「今回は?こんなに大金使って、私達は潤ってるけど、ギークさん達は大丈夫なの?」
ギーク「この槍には思い入れが半端じゃないからね。壊れないように祈願してるに近いな。」
矢の道具として、基本的な装備をユミが持ち運び、一本だけ、そのユミお手製の魔法陣を簡易的に発動できる弓矢をギークは装備した。2人は槍を主に使う。
グレッグドは少しギークの返答を噛み締めるように、笑顔になる。
グー「しかし、俺にもこんな高価な槍、譲ってもらってええんですか?ギークさん。」
ギークはマーチェから買い替えて、さらに自身の薬草などで強化した槍の代わりに、古い槍をゴツい体格の人、グーそして、獣人のグレンに渡す。
ギーク「あー大丈夫だろ。俺たちは傭兵だし、兵装は自作してるんだよ。余物だが、そう言ってもらうと嬉しいよ。あの祭りでの覚悟への礼だ」
グー「ありがたい」
ユミ「ずっと戦ってると、私ギークのことしか考えられなくなるから、ごめんね?」
ギーク「ユミ…嬉しいけど、グーさんには伝わってないよ?」
グー「勿論だ!」
デザンであった2人は全く分からなかったが、夫妻はわかっていた。そして、グレン、獣人の方のデザンも同じくギークから槍を貰っていた。
人間の方のマーチェの護衛が困惑した表情をする。
ギーク「しかし、火の聖域の矢尻って本当に大好きだよ。これからもマーチェさんに頼もうかなー」
マーチェ「日取りを予約していただければいつでも大丈夫ですよ?3ヶ月は待ってもらいますけど、」
ギーク「流石、俺の見立ては合ってるな」
ギークの言う通りであり、というより、火の聖域は最も密舞台で神事を執り行う儀式で重要になるどの国にも不可欠な聖域だ。各所に点在している彼等の槍や矢、弓は特別で、手製で武器を作成するのも困難なこの世界では、武器は高額なのだ。
何故なら、相手の魂をどう攻撃するか?が最大の争点になるからだ。魂を揺るがして、混沌とさせることにより、相手の存在を崩すのだ。
魂とはこの世界では“存在の設計図”であるというのが、一般認識である。
ギーク「この矢尻、感じる。生き物の種類がちゃんと錬金されてあって、赤子のコクーンより混濁度の高い装飾が多分奴には有効だろう。あの勇者ソラのように、剣で一振りするだけで、魔物が倒せたら俺達も楽な生業何だけどね」
ギークはマーチェから買った矢尻を褒める。
マーチェは目を輝かせて、嬉しそうに答える。
マーチェ「私共、この戦火予想してました!だから、いっぱい買い込んでおいたんですよ!えへん!」
得意げに鼻息を漏らしてマーチェは話すが、彼女の顔を見て、ギーク夫妻は微笑んで返す。
グレッグド「嘘ってバレないようにした方が後々顧客はリピートしやすいよ?マーチェ殿」
マーチェ「まぁそういわずなかれ!グレッグド!火の聖域の魔物の結晶を凝縮に凝縮した特別な黒石!それで仕立てたこの槍先には最高の品質が宿ってますからねぇ!何と言っても、火の聖域の癒しの炎で仕掛けたトラップ猟法で多くの種類の魔物を引き込んでますからねぇ、」
ギーク「流石だな、これなら何とかなりそうだ」
皆、活気があるようで表にはそう見えるが、心は震えていた。捜索隊である人々もほとんどが女性で、位置を突き止めるのも必死に行い、連絡手段として、翼を持つ伝令係の守護者も文を渡さないというのが、2回程起こり、緊迫している最中だった。しかし、皆、一様に感じている感覚は
“どういう感情か自身にもわからない”
ということだった。
水の聖域の専属兵士「今!“奴等”の居場所を特定できました!火の聖域の方面全域で暴れ回っております!火の聖域に向かって伸びるように“奴等”は…あぁ…」
バタン!と報告に来た兵士が倒れて、お腹から植物になれ果て、彼女は彼女ではなくなった。そして、その植物は彼女の下半身を上半身と二つに引き裂き、上半身の背中を蔦で持ち上げて、下半身の足をさらに右足と左足に引き裂き、後ろの傭兵蔵の入り口外に根を張り、鎮座した。
水の聖域の専属兵士「あぁ…あぁ。なぁ!せーいきが!たい…へ…」
と呻き声をあげて、兵士の女性は無惨な姿で植物に持ち上げられ、傭兵蔵にいるギーク達に触手を伸ばして襲いかかる。触手は兵士の女性にも根を張る。その女性は服が千切れて、女性の槍や武器は植物の蔦に奪われてしまった。
ギークは“ケリュケイオン”を取り出して、その植物に突進するが、兵士の女性を盾にされて、杖が彼女をなぶり、ぐちゃりと音がするだけで、効果はほぼない。ユミは傭兵蔵の中にいる人へ忍び寄る蔦をすべて槍で切った。しかし、再生してくるその植物は兵士の女性を盾にして、悍ましく身構える。
兵士の女性?「編むちゃう?編むちゃう?」
ユミ「皆下がって!こいつに情はなくていい!危険だ!」
張り詰めたユミの震える槍先をギークが杖を構えて、隙をカバーする。




