第二十一話「暗雲」
※この物語はフィクションです。登場人物、団体名、設定などは架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
前回からの、あらすじ。
魔物増加バーン! 調査決定ドーン!
調査隊壊滅バーン!作戦開始ドーン!
全て壊滅ドーン!
宗教黎明バーン!!宗教中興ドーン!!
現代描写バーン!!宗教分裂ドーン!!
国家乱立バーン!!断片開示ドーン!!
聖戦会戦バーン!!救世発生ドーン!!
大公発見バーン!!王国黎明ドーン!!
大公昏睡バーン!!大公覚醒ドーン!!
前線状況バーン!!!研究停滞ドーン!!!
組織改編バーン!!!
鈍く光る歯車が唸りを発し、蒼い燐光が舞い散る。
鋼鉄の双胴、この中央には糸の姿があった。
「…400…450…500…引張を50MPaから10MPa間隔に変更…510…520…530…」
ガラスに隔たれた先、白衣の者共が群がる。ある者は機械を凝視し、ある者は手元の書類と睨み合う。
「…540…550…560…570…」
オペレーターは読み上げを続ける。額には汗が光るが、拭う者は居ない。
弾けば鳴りそうなほど張り詰めた空気は、断裂音と共に破裂した。
「…どれくらい持った?」
薄茶髪の男が、機械を見たまま、オペレーターに問いかける。
「…620MPa、です。」
薄茶髪の男は、手元の書類を見やり、溜息を吐くと、呟いた。
「足りんな。だが、更新は更新だ。暫定報奨金は決まりだな。」
彼は背後を振り返る。軽く辺りを見渡し、口を開く。
「市井が用意してくれるのは、どうやらこの程度らしい。
…これからは、我々の仕事だ。目標は引張強度2GPa…やってやろうじゃあないか、諸君。」
第4等級魔境「シュランゲシュトラーセ」
響く領邦歌、伴奏となるはレシュテンK98。機関銃とライフルの二重奏は、止むことはない。
それを見つめるは双眼、持ち主は吐き捨てるように言った。
「キリがないな。蛇人間ども、数だけ多いだけはある。
…第3山砲連隊に伝令、グリッドC標準点へ陣地転換だ。目標、シュランゲ・ツヴァイ。準備が出来次第砲撃開始。」
第3等級魔境「グロサー・ヒュゲル」
蒼い光は轟音と共に辺りを劈き、戦場の喧騒を上塗りする。
鋼の塊は大地を穿ち、周囲を魔物ごと打ちのめした。
ホイッスルの鳴る間もなく、黒い津波は辺りを覆う。
蒼い雷鳴は辺り一帯を焼き尽くし、そしてそれは、引っ切り無しに続いていた。
第2等級魔境「マギア・フォレスタル」
翻る天幕、遠雷のような砲声は、絶え間なく押し寄せる。
テーブルの上、敷かれた地図には、種々の数値が地形とともに書き込まれている。
一人の男が、声を発した。
「どう思う?アデリナ副司令。」
アデリナは、暫しの沈黙の後に答える。
「…全方面で明らかな損耗増加が続いています。既に魔物の数は、増派部隊の到着から3倍増しており、慢性的な兵力不足が常態化して居るのが現状です。
現有部隊の補充は十全になされていますが、そもそもの母数が足りません。」
男は、それを聞くと、アデリナを見つめ、続けて問うた。
「ならば、どうするべきと考える?」
アデリナは視線を返しながらも、訝しげにしつつ聞く。
「…と、言いますと?」
男は、眉一つ動かさず言った。
「そのままの意味だ。貴官の意見を聞きたい。」
アデリナは、再び沈黙し、そして口を開く。
「…理想としては、今直ぐ兵力を拡充するべきです。
しかし、それは困難でしょう。
故に、現行では現状維持が最適だと存じます。
ただし、損耗率が補充を上回り始めた場合、前線の後退と遅滞戦術への切り替えが望ましいかと。
お気に召しましたか?ハインツ司令。」
男…ハインツは、軽く頷くと答えた。
「理想を言えば、何かしらの妙案が欲しかったところだが…。概ね私も同意見だよ、アデリナ副司令。
前線は当面現状維持とする。
ただし、戦力の再配置は行わなければならない。
何よりも…。」
そうして少し押し黙るハインツに、アデリナは軽く首を傾げ口を開く。
「ハインツ司令?どうかしましたか?」
ハインツは軽く首を振り言った。
「いや、何でもない。それよりも、今直ぐレイエンス大佐を呼んでくれ。緊急会議だ、開始は1時間後。出来るな?」
アデリナは、少し目を見開きながらも、敬礼する。
「ラボール、司令。」
辺りは静寂に包まれる。束の間のそれは、微かな音すらも泥濘に吸い取られているかのようであった。
天幕の内側、空気は張り詰め、その様子にアデリナは少し身動ぎする。
見ると、向かいの男2人の片割れ、彼もまた顔面は青白かった。
ハインツは、静かに声を発する。
「よく来てくれた、レイエンス大佐、ライアン少佐。
早速本題に移りたい、構わないね?」
レイエンスは眼鏡を直すと、淡々と答えた。
「えぇ、構いませんよ。あまり時間を使い過ぎるのも望ましくありませんからね。」
ハインツは、書類をレイエンスに渡し、言う。
「これは、我が特別司令部の前線の状況が描かれている。」
レイエンスは手元の書類を凝視する。そして、ハインツの方を見やり、押し殺すように口を開いた。
「我々にこれを見せるなど…本気ですか?
我々は領邦軍、貴方方は王国軍。これは越権行為になりかねませんよ。」
ハインツは鼻を鳴らすと、肩をすくめゆっくりと答える。
「我が特別司令部には、大幅な裁量権がフリードリヒ元帥閣下から与えられている。
構わんさ。それよりも、早く読んでくれたまえ。時間が惜しいと言ったのは君だ。」
レイエンスは暫くハインツを見つめると、手元の書類への視線を移す。
紙面を捲る音が微かに響くと、暫くの後に彼は書類を机に置き、声を発した。
「特別司令部の戦況はよく分かりました。2つの計画案も。
しかし、分かりませんね。この計画案には、我がマギア・フォレスタル前線司令部は関わりませんし、何故我々に情報を公開したのです?」
ハインツは、無表情に答える。
「簡単な話だ…レイエンス大佐。
ランデール領邦軍マギア・フォレスタル前線司令部の兵力と、ランデール特別司令部の共同戦線を提案する。
なに、早い話、6年前の再来だよ。
…あの時は、君は少佐で、私は中尉だったかな?」
レイエンスは目を見開き、そして髪を掻き上げ、深いため息を吐く。
そして、重々しげに言った。
「ハインツ少将、貴方は大尉でしたよ。
…詳細をお聞かせください。そうでなくては、判断は出来ません。」
ハインツは、微笑み口を開く。
「勿論だとも、レイエンス大佐。外が静かなうちに、進めようじゃないか。」
本日も、ご読了頂きありがとうございます。初めましての方は初めまして。チャデンシスと申します。大体2週間に1話で投稿しています。
前後作も読んだ方が、時系列が分かりやすくなると思うので、オススメです。




