第二十話「沈泥」
※この物語はフィクションです。登場人物、団体名、設定などは架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
用語説明∶王室司書官…王室の禁書や王室の書物を管理する役職。名目上は中央図書館の所属だが、事実上国王直属の司書官である。
前回からの、あらすじ。
魔物増加バーン! 調査決定ドーン!
調査隊壊滅バーン!作戦開始ドーン!
全て壊滅ドーン!
宗教黎明バーン!!宗教中興ドーン!!
現代描写バーン!!宗教分裂ドーン!!
国家乱立バーン!!断片開示ドーン!!
聖戦会戦バーン!!救世発生ドーン!!
大公発見バーン!!王国黎明ドーン!!
大公昏睡バーン!!大公覚醒ドーン!!
前線状況バーン!!!研究停滞ドーン!!!
『ロイエンベルク王立中央研究所臨時古今合同室』
そんなネームプレートをただ見つめる、一人の男が居た。
茶髪を整え、少しの間栗皮色の眼を瞑ると、一つ息を吸い込み、扉を軽く叩く。
しばしの間、返事は無い。彼は、訝しげにネームプレートと手元の書類に視線を往復させる。
片手でメガネを直し、更に数分、彼は無表情で扉を開き、声を上げた。
「本日より、中央図書館からロイエンベルク王立中央研究所臨時古今合同室に出向となりました、王室司書官のグラハムと申します。
ノックをしても返事がない故、このように押し入る形となったことを謝罪致します。」
そうしてぎこちなく敬礼するグラハムに、直ぐに声が掛けられる。
「あぁ、君か。よろしく頼むよ。それと、これからはノック無しで入ってもらって構わない。皆そうしている。」
グラハムの眼前、そこには白衣の麗人が居た。彼は少し目を見開き、直ぐに真顔に戻り言う。
「分かりました。次からはそうさせて頂きます。クリスティアーネ所長。」
麗人…クリスティアーネは、微笑みながら告げた。
「そうすると良い、グラハム司書官。さて、これから忙しくなるぞ!
精々、過労死しないようにしてくれたまえ、コーヒーならポッドにある。
君には、古書の分析をしてもらう。早速取り掛かってくれたまえ。」
グラハムは、再びぎこちなく敬礼して答えた。
そんなグラハムに、クリスティアーネは少し笑みを零しながら、去り際に言う。
「あぁ、そうそう。ここでは敬礼は要らん。研究に儀礼なぞ邪魔なだけだ、そうだろう?」
彼は若干顔を赤らめる。しかし、直ぐにデスクへ向かう。古書を手に取ると、彼の世界から、音が消えていった。
代わりに踊るは、文字の群れ。螺旋状の其れ等は、神と魔法の世界、白い時代、蒼と紅がすべてを突き崩す様を艶やかに描き出した。
どれほど経っただろうか、次の紙面を取ろうとする彼の手は、軽やかな音を立ててデスクに衝突する。
ふと彼は意識を浮かばせると、耳朶を喧騒が叩いた。
手元のメモは黒く染まっている。
グラハムはメガネを取ると、目頭を揉む。いつの間にやら砂漠のように乾いた口腔は、コーヒーで満たされていった。
伸びをすると、肩や腰から軽く折れるような音がする。密やかな快感を噛みしめる彼に、声が振ってきた。
「随分と集中していたようですね。まぁ、我々が言えたことではありませんが。進捗は如何です?何か分かりましたか?」
声の主は、茶髪の女性研究員。グラハムは胸元のネームプレートを見やり、答える。
「えぇ、様々なことが分かりました。しかし、纏めるには3日は頂きたいですね。なにか御用ですか?エリス研究員。」
エリスは肩をすくめ、淡々と言った。
「いえ、ただ気になっただけです。その古書は私が送付したものですからね、その程度の資格はあるかと思いました。お邪魔でしたか?」
グラハムは手を振り、言う。
「いいえ?古書は一通り読み終えたところですから、一休みしようと思っていたので、大丈夫ですよ。
そうですね…断片的な情報でしたら、現段階でも共有可能かと思います。
ですが…一つ、条件があります。」
エリスは、躊躇うように尋ねた。
「条件…ですか?」
エリスを横目に立ち上がったグラハムは、もう一度伸びをすると、欠伸を噛み殺しながら口を開く。
「休憩室の場所が分からないんです。そこまで案内してくれたら、今持ち得る情報をお教えしましょう。
最も、そうでなくとも3日後には、資料が行き届くはずですけれどね。」
エリスは暫し考え込み、そして言った。
「分かりました。休憩室は此方です。早く行きましょう。」
早々と歩き出す彼女に、またたく間にグラハムは追い付く。
2人の歩調が合うことはなく、しかし距離が離れることもなかったのである。
72の時を超えて、喧騒は静まった。クリスティアーネは研究員を見渡し、少し声を張り上げた。
「さて、これより、ロイエンベルク王立中央研究所臨時古今合同室の定例会議を行う。
の、前に…誰だこんな長い名前を決めたのは?これからは古今合同室と略称する。日が暮れてしまうからな。
諸君の手元にある資料、まずはそれに関する説明を、グラハム司書官に担ってもらう。
もう把握している者も居るだろうが、彼は王立中央図書館の、王室司書官だ。その資料も彼が作成した。」
クリスティアーネは端により、黙する。
グラハムは立ち上がり、そうして彼の視界には数多の研究員の姿が広がった。
彼は暫し、手元の資料を確認し、口を開く。
「先ずは、お集まり頂きありがとうございます…と、言いたいところですが、どうにも此処では拙速のほうが好まれるようで、そちらに合わせることと致します。
結論から言いますと、今回解読、整理した古書において、以下のことの概略が判明いたしました。
一つ、旧宗教国家群の大まかな技術体系。
一つ、特級怪物の身体構造。
ただし、これらの詳細に関しては依然として不明です。」
そこまで彼は一息で言い切ると、研究員達の顔を密かに見渡す。
ある者は資料を巡り、ある者は目を見開いている。
ふと、1人の研究員が手を挙げる。
発言の許可の後、齧り付くように研究員は聞いた。
「その、概略とやらはどのようなものなのでしょうか?
何が分かったんです?」
少しざわめきが広がる。鼻息荒い研究員に、グラハムは静かに答える。
「それを、これから話すのです。質疑応答は説明を終えてから設けますので、それまでお待ちください。」
研究員は、若干の赤面の後に、咳払いし、軽い謝罪の後に座る。
グラハムは資料を捲り、再び声を発した。
「では、旧宗教国家群の技術体系からです。
旧宗教国家群は、個人の魔力を基礎とした文明を構築していたと見られています。
魔力に現実改変力が存在することは重々承知の上でしょうが、それを個人の思念により用いていたと見られています。
それでも足りない部分は、群衆より漏れ出た魔力や、『信仰』、そして『殉教』という行為により集められた魔素を活用していたと見られています。
この『信仰』、『殉教』という2つの行為には、『魂』と呼ばれる個人に帰する存在が大きく関わっており、この『魂』というのは、現代で言うところの魔力波長であると見られます。」
彼は少しの間黙し、そうして再び話し出す。
「次に、特級怪物の身体構造についてとなります。
特級怪物は前述した技術体系に基づく存在である為、非常に大規模な儀式を中核とし、多くの魔力波長を取り込んでいると見られます。
古書には特級怪物に関する記載は一切ありませんが、王家の禁書と今回得られた情報を総合し、上記の結論へと至りました。
これは『救済』という事象が大きく関わっていると見られます。
以上が、今回発見された古書及び、王家の禁書を複合し分析した資料の要約となります。
では、質疑応答に移りたいと思います。」
研究員達は次々と手を挙げる。多くは顔が火照り、ある者は資料を狂ったように捲っていた。
喧騒は続く。古今合同室の明かりが消えることはなく、闇夜は更けていった。
本日も、ご読了頂きありがとうございます。初めましての方は初めまして。チャデンシスと申します。大体2週間に1話で投稿しています。
前後作も読んだ方が、時系列が分かりやすくなると思うので、オススメです。




