第十九話「中央」
※この物語はフィクションです。登場人物、団体名、設定などは架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
※用語説明∶魔信…電信の魔導バージョン。
魔信士…こちらの世界で言うところの電信士。流れてくる電信を聞いて紙面に書き起こす仕事。
音響機…かつての有線電信は、打鍵が台を叩く音を聞いていたため、それを聞きやすく大きくする装置です。
暗号通信官…有線電信は、情報量を増やし、また機密保持の為に暗号が用いられていました。また、電信士が書き記すのはトンとツーのモールス符号なので、此等を解読するための仕事があったのです。
気送管…加圧された空気により、電信士の記した書面を送るパイプ。
メッセンジャー…気送管が普及する前、書面を運搬してた青少年。ロイエンベルク王国では、暗号通信官に認可された書面を近場の目的地まで運ぶのが、メッセンジャーの役割として残っています。
前回からの、あらすじ。
魔物増加バーン! 調査決定ドーン!
調査隊壊滅バーン!作戦開始ドーン!
全て壊滅ドーン!
宗教黎明バーン!!宗教中興ドーン!!
現代描写バーン!!宗教分裂ドーン!!
国家乱立バーン!!断片開示ドーン!!
聖戦会戦バーン!!救世発生ドーン!!
大公発見バーン!!王国黎明ドーン!!
大公昏睡バーン!!大公覚醒ドーン!!
前線状況バーン!!!
そこは中央研究所、魔信室。前面には乱雑にして巨大な魔信機が立ち並び、けたたましい打鍵音を音響機より響かせながら動き続ける。
備えられた複数の木の椅子には、魔信士が詰めかけ、それぞれの音響機から聞こえる二音を識別し、紙面に起こしていく。
紙面は気送管により運ばれ、紙面の擦れる音を鳴らしながら所定の場へと届けられる。
飛び出る紙面を受け取るは暗号通信官。複雑に暗号化されたソレは、彼等の手により滑らかに清書されていった。
文書は赤印が符され、メッセンジャーへと纏めて託されると、研究室へと届けられていく。
「所長。エリス臨時ライン研究主任より、本日の臨時報告が届きました。」
メッセンジャーより受け取ったソレは、その言葉と共に手渡される。
揺れる金髪、凛々しい顔立ちに映える紫色の双眼が、素早く紙面に目を通す。
そうしてクリスティアーネは頷き、言った。
「御苦労。測量部に伝えてくれ、周辺地図の更新が入った、とな。全く、アイツもマメなことだ。」
研究員は頷き、苦笑いしながら答える。
「了解しました。エリス臨時ライン研究主任からの臨時報告も、毎日の事ですからね…臨時の意味を、書き換えねばならないかもしれません。」
そう冗談めかして言い放つ研究員に、彼女は押し殺したように笑う。
そうして二言三言言葉を交わすと、研究員は去った。彼女は別の研究員を捕まえ、ラインへ送る書面を預けると、業務へと戻っていった。
蒼電は報を告げ、そして研究所の明かりは漏れ続ける。
研究室は喧騒に満ち、コーヒーポットの残量はいっそ悍ましい勢いで減っていく。
「ほら、矢張り言ったとおりではないか!」
「しかし、ここの定数を変えてみろ、ほら動かない。」
「そこを変えれば当然だろう!?そもそもの前提定数なのだから!」
「それがオカシイというのだ、不確定な相手に前提定数なぞ置くな!」
「そうでなければ術式なぞ作れん、貴様は何を言っているのだ、この間抜けめ!」
そう言い合いを続ける上級研究員に対し、嘆息しつつクリスティアーネが割ってはいる。
「辞めないか、子供の喧嘩でもあるまいに。それでもロイエンベルクの臣民か、貴様ら。始祖王が美徳としたのは、議論であって口論ではないのだぞ?」
上級研究員は、片や呟くように謝罪し、片や静かに頭を下げるが、決して片割れを見ようとしない。
クリスティアーネは目を瞑り、眉を寄せて額を揉む。
再び大きく嘆息すると、顔を上げて言った。
「もう一度纏め直そう。寝ている奴は居ないな?居たら叩き起こせ。多少乱暴で構わん。」
直ぐに破裂音、打突音、その他些か生々しい音が響くと、彼等彼女等はクリスティアーネに目を向けた。
彼女は、若干赤みがかった部分もある顔たちからは微かに視線をそらすと、少し大きく声を上げた。
「さて、目は覚めたか寝坊助寝不足諸君?
今回の研究、その課題が分かってきた。故にここに纏める。
一つ、特級怪物の身体構造が不明な点。
一つ、特級怪物の物理的、魔導的権能が不明な点。
一つ、彼奴の居る位置が、術式の大規模展開には不向きである点。
一つ、特級怪物が未知の、即ち旧宗教国家群の技術体系により構築されている点。
最後に、前述の要因ゆえの理論値の極大極小が不明である点。
以上の5つの点から、対象の封印術式の構築は行き詰まっている。
ここ迄で異論はあるか?」
そうして、彼女はゆっくりと研究員達を見渡す。顔を顰める者、目の光が失せている者、両手で顔を覆い、天を仰ぐ者、場は沈黙していた。
彼女は、続けて口を開く。
「無いようだな。だが諸君、我等には諦めるという選択肢は無い。そうだろう?
だが、今や我等の脳味噌は、砲弾で掘り返された泥濘のように崩れてしまっている。
そこで、所長命令だ。今日より3日間、休養を命じる。兎に角寝ろ、寝て起きて日の光を浴び給え。そうしたら、また考えようではないか。」
安堵の息を付くものも居たが、多くは訝しげにしている。
しかし、皆、反論もせずに部屋を去る。足取りは重く、例外なくふらついていた。
クリスティアーネは、研究員の後ろ姿を見やりながら、必死に欠伸を噛み殺すと、フラリと立ち上がる。
3日間、中央研究所の一室は暗がりに沈んでいた。
物事には用意というものがある。ソレは例えば勉学であったり、鍛錬であったり。起こる事柄、起こしたい事柄が大きければ大きいほどに、簡便さとは無縁となっていく。
蒼と紅が弾け、紫は結実した。眠るソレは測り知れず、知ることは蛮勇となる。
「縛らなければならない。」
硬い足音が、静けさの支配する廊下を打ち破る。
「我々では縛れない。ならばどうする?」
手元には書類の群れ。そこには黒鷲、王家の印。
「毒を持って毒を制せ。」
足音が止まる。木を叩き扉は開かれ、そして閉じた。真鍮製のプレート、光沢を放つソレには、真新しく文字が刻まれていた。
『ロイエンベルク王立中央研究所臨時古今合同室』
本日も、ご読了頂きありがとうございます。初めましての方は初めまして。チャデンシスと申します。大体2週間に1話で投稿しています。
前後作も読んだ方が、時系列が分かりやすくなると思うので、オススメです。




