第17話「大公」
※この物語はフィクションです。登場人物、団体名、設定などは架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
前回からの、あらすじ。
魔物増加バーン! 調査決定ドーン!
調査隊壊滅バーン!作戦開始ドーン!
全て壊滅ドーン!
宗教黎明バーン!!宗教中興ドーン!!
現代描写バーン!!宗教分裂ドーン!!
国家乱立バーン!!断片開示ドーン!!
聖戦会戦バーン!!救世発生ドーン!!
大公発見バーン!!王国黎明ドーン!!
大公昏睡バーン!!
揺らめく空間、破断した魔力は、一時の均衡の末に弾け飛んだ。
彼の者の意識は浮かんでいく。紅に染め上げられた歴史、蒼は隷属し、そうして歩んだ道は大逆へと導かれた。
蒼と紅はぶつかり交わり、そうして紫は粉々となりて吹き飛んでいく。
そこにあったのは圧倒的な歪み、狂信が生み出した怪物。
それは夢幻のような数百年間であり、そうして足掻いた先には、よくよく見知った鉄と血の王国があった。
臣民はもがき続け、王家がそれを導いている。
かつての火縄は始祖王の知恵により火打石に変わり、後に雷管となって、そうして撃鉄は連射を為した。
手工業は水車に置き換わり、それは蒸気機関を生み出していく。
蒼を集めて人智となす炉は、今や全ての根幹。
全ては臣民の努力、それを正しく導いた王家、手足となった貴族の三位一体によるもの。そこに神などなく、故に王家が立たねばならない。
声は聞こえない、意思も感じない、始祖王は疾うの昔に塵と消えた。
彼は夢現と知れず、内省は言葉として溢れ出す。
「それがどうした、それこそがロイエンベルクである。
なれば立つが責務であろう。
私は、フリードリヒ・フォン・ロイエンベルク・ミッテルランデ…王国大公にして、王国軍元帥である。」
眼前に広がるは、純白の天井、周囲は騒がしくも、ただ一つ、耳朶を叩く声があった。
「よくぞ戻られました、大公閣下…。いえ、フリードリヒ。」
フリードリヒは、ゆっくりと、それでいて己の力で起き上がり、側に跪く男に話し掛ける。
「公共の場でそう呼ぶとは、随分と感極まったようだな、ミハイル。」
彼は微かに目を細めながら、微笑を浮かべる。ミハイルは頭を上げ、立ち上がった。
そんなミハイルに、彼は問いかける。
「…何人生き残った?私以外で、だ。」
ミハイルは、しっかりとフリードリヒを見つめ、静かに答えた。
「A軍集団は、私を含めて約5万。
B軍集団は…閣下だけであります。」
フリードリヒはそれを聞くと、暫し目を閉じる。それは束の間で、直ぐに目を見開いて言った。
「そうか、よくやった、ミハイル…中将。
兵力の補充の進捗は?」
ミハイルは、一つ頷き口を開く。
「順調です、閣下が行方不明となっていた8カ月間で、既に練成が完了すると共に、さらなる兵力拡充に動いております。
連合軍司令官は、実戦司令官と共に陛下が総覧なさっておいでですが、閣下が復帰次第、実戦司令官の任は閣下に預けられるよう、勅命が出ております。」
フリードリヒは一つ溜息を吐く、それが安堵からくるものかは、判然と知れなかった。
そうして、彼は静かに言う。
「そうか…ならば、まだ救いがあろうというもの。」
それから、周囲を見渡すと、場にはミハイルの他にも、多くの者が居ることが見て取れた。
それは看護婦であったり、また医師であったりしたが、連絡将校らしき者も居り、それを見やった彼は、医療従事者に退出を命じる。
何事かと、少し落ち着かない様子で懐中時計を見遣る連絡将校。対照的に微動だにしないミハイル。そんな両者に向けて、彼は少し声を抑えて語り始めた。
それは己の見てきた軌跡そのものであり、大凡信憑性の薄いものであった。
一通り話し終えた後に、彼は告げる。
「…コレが、私の見たものの全てだ。出来うる限り迅速に陛下に謁見したい、そうフリードリヒが言っていたと、然るべき者に伝えてくれ。」
連絡将校は、事務的な敬礼を示し、すぐに退室した。ミハイルは、怪訝そうな様子でフリードリヒに問う。
「私ならば兎も角、あの将校にまで言う必要はあったのですか?
彼、アレはきっと信じていませんよ。私だって半信半疑なのですから。」
フリードリヒは、背もたれに体を預けて、ゆっくりと答えた。
「それで良いのだ。連絡将校とは歩く伝書のようなものだからな。
ミハイル、貴様とは共有しておきたかった。にわかには信じがたいだろうが、それでも去らぬというのが、私にとっては答えに等しいからね。」
砕けた口調、その様にミハイルの強張りも消えていく。
彼等は暫しの間歓談し、終えると直ぐに、フリードリヒはリハビリに励む事となったのである。
其処はロイエンベルク陸軍省、9ヶ月前、全ての序章となった場所である。
その地、星型要塞の中心に翻る黒鷲の下に、今やかつてを超える人員が集っていた。
オーバーチュア立案時にて、その場には参謀と名のつく者全て、陸軍大臣も集まっていた。
国王は大公が代理することとなり、元帥としても参加する事態となっていた。
オットー6世その人が、場に集う者共を見渡すと、重々しく口を開く。
「諸君、今日、この場に集められた事に、戸惑う者も居るのではないかと思う。
それも当然だ…しかし、此処に諸君らが居ることには、全て意味がある事を、余が保証する。
故に、安心して会議に臨んで欲しい。」
その言葉に抱いた思いは、飄々とした様子の者、少しの緊張に身体を強張らせていた者、それぞれであろうが、オットー6世はそれを見渡すと、一拍おいて再び口を開く。
「さて、2つの知らせがある。単刀直入に言おう。
フリードリヒ・フォン・ロイエンベルク・ミッテルランデ、入室せよ。」
極一部を除き、場が騒然となる。多くが注目する中で、ほの暗く重厚な扉が、少し軋みながら開いた。
「フリードリヒ元帥、今より現職に復帰する。」
フリードリヒがそう言うと、多くが愕然とした面持ちとなる。
暫しの均衡、歓喜と戸惑いの狭間、彼は微笑みながら言った。
「先ずは感謝を…諸君、ありがとう。
貴官らの献身と協力に、心よりの感謝を捧げる。」
彼が敬礼すると、場が沸き立つ、抱き合う情報部の男女、目頭を押さえる白衣の女性、傍らには眼鏡の女性研究員も居り、片手で口を覆っている。
彼等彼女等だけではない、会議室そのものが揺れるような喧騒が現出していた。
数分の後に、自然と場が静まると、オットー6世は声を発する。
「これが、1つ目の知らせである。王国の大公は蘇った。
そして、もう一つの知らせもまた、フリードリヒより持たされたものである。
心して聞くが良い。」
傍らに立つフリードリヒが、静かに語る。己の見てきた全て、信じがたい代物を。
先程までの喧騒が嘘であるかのように、場は痛いほどの沈黙に包まれていった。
数分、数十分、幾刻の後に、彼は語り終える。
「…コレが、私が見てきたものの全てだ。」
そう言い彼は着席した。男女は目を見合わせ、白衣の女性は傍らの研究員と何事か話し合っている様子だ。
陸軍大臣は勿論、多くの参謀も険しい顔つきとなっている。
オットー6世は、その様を見て告げる。
「疑うのも無理は無い、しかし、コレは王家の歴史と照らし合わせても、整合性の取れた事実だ…最も、いくつかは王家の史書以上に詳しいがね。
その上で、諸君らの…特に、レイド情報本部局長、クリスティアーネ中央研究所所長に、その見解を聞きたい。」
研究員と話し込むのに夢中なクリスティアーネを横目に、レイドは立ち上がると、深呼吸をし、話し出す。
「申し訳ありません、陛下。我々情報本部局は、有効な見解を有しておりません。
しかし、情報本部局にある資料、そして此度の事案における、種々の事柄を勘案しますと、我々には閣下の御話を否定する材料を持たない事は確かであります。」
そう言い切り、少しの力が抜けたように着席するレイドに向け、オットー6世は静かに頷くと、クリスティアーネに目を向ける。
クリスティアーネはそれ気付くと、周囲の気付かぬ間に現れている手元の資料を少し捲り、そうして立ち上がる。
「中央研究所としての見解を話す前に、閣下にお聞きしたいことが御座います。
よろしいでしょうか?」
フリードリヒが、少し怪訝そうに頷くと、クリスティアーネは若干目を輝かせ、勢い込んで尋ねる。
「閣下が体験した記憶の中に、『救世』に関するものがあったようですが、この中に、この文章の穴埋めになるような物はありませんでしたか?」
そう言いクリスティアーネが差し出した紙切れを受け取ったフリードリヒは、しばし考え込む。
そうして口を開いた。
「救世の法陣に血を捧げよ我等の神が顕現する。
と、言ったところだろう。間違いなく、奴等の言葉だ。」
クリスティアーネは、目を見開き、少しの間目を閉じると、見開いて答えた。
「…ありがとうございます、閣下。」
そうしてクリスティアーネは、オットー6世に向き直り述べる。
「陛下、少なくとも、我が研究所の研究結果として、閣下の御話は事実であると考えます。
閣下は、我等中央研究所が総力を挙げて尚、虫食い状態であった文章を、至極簡単に言い当てました。
我が研究所の大まかな予測に合致する内容を、です。
陛下の勅命さえあれば、我が研究所は総力を挙げ、今回得た情報を元として、特級怪物の対策に動き出します…以前のような有様には致しません。」
少し胸を張り言い切ったクリスティアーネの姿に、参謀達も目を見開く。
その様を見遣ったオットー6世は、アルカイックスマイルを浮かべて言った。
「まぁ待て、議会を通さねばならぬ。
それこそが、かつての諸王が作りしロイエンベルクというものだ。」
本日も、ご読了頂きありがとうございます。初めましての方は初めまして。チャデンシスと申します。大体2週間に1話で投稿しています。
前後作も読んだ方が、時系列が分かりやすくなると思うので、オススメです。




