第十四話「発見」
※この物語はフィクションです。登場人物、団体名、設定などは架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
前回からの、あらすじ。
魔物増加バーン! 調査決定ドーン!
調査隊壊滅バーン!作戦開始ドーン!
全て壊滅ドーン!
宗教黎明バーン!!宗教中興ドーン!!
現代描写バーン!!宗教分裂ドーン!!
国家乱立バーン!!断片開示ドーン!!
聖戦会戦バーン!!救世発生ドーン!!
湿気た空気、黒い軍服はジットリと肌に纏わりついている。
軍靴の水音、抱えられる歩兵小銃から、微かに響く金属音の群れは、森林の音に混ざって消えた。
小休止のハンドサインが掲げられ、周囲が森に飲まれる。
気怠い心地に包まれた彼らは、各々が座り込んでいる。
ある者は小腹を満たし、ある者は水を口に含んだ。
湿気た煙草を食みながら、一人の隊員が口を開く。
「…全く、なんたって、こんな蒸し暑い時期に、魔の森に入らなきゃあイケないんです?
病気になっちまいますよ。ねぇ、隊長?」
ボンヤリと水を飲んでいた隊長は、一口水を飲み下すと、その言葉に静かに答える。
「それが命令だからだ。連合参謀本部からの、な。」
煙草を吐き捨て、隊員は苦々しげに言う。
「連合参謀本部…ねぇ。全く、俺たちはランデールの軍隊であって、中央の言うことに従う謂れは無いでしょう。
そもそも、捜索対象が生きてるかどうかだって…!」
「それ以上は辞めておけ、リベルト軍曹。」
リベルトを冷ややかに見つめ、隊長が制止する。
思わず押し黙るリベルトに対して、彼は淡々と告げる。
「我々は確かに領邦軍だ。しかし、その統帥権は国王陛下が総攬なされる。
それ以上の発言は、王家への反乱と見做されるぞ?」
表情を硬くするリベルトに対して、隊長は語気を緩める。
「そう固くなるな、リベルト。
貴様の言いたいことも分かる。私だって若い頃はそうだった。」
ため息を吐くと、彼は続けた。
「まぁ、貴族でなくて良かったな?貴様が貴族なんぞになるほど酔狂とも思えんが…貴族であれば、あんな事、考えただけで…。」
彼は人差し指で胸を二度叩く。
『息の根が止まる。』
そんなスラングであった。
冗談めかした仕草、それを見たリベルトの肩から力が抜ける。
リベルトは力なく笑う。隊長はリベルトから視線を外すと、声を張り上げた。
それを聞いた隊員達は、天を仰ぎ、そして嘆息、再び歩みを進めるのだった。
「「「女房 死んで そこに あるのは 花畑さ
帰れば あった 其処には あった 城壁崩れ
丸ごと 魔物が 喰らい 尽くす
俺等は 無敵の 領邦軍 栄光ある ランデール
俺等は 負けて 王国が来る
いざと なりゃあ 王家にすがれ 王国が来る
そうさ そんなの どうだって 良い
またお前に 会いたいな あぁ 花畑が見える」」」
調子外れの歌が、休憩地点から消えてから暫く、隊長は一時停止を命令する。
彼は落ち葉を踏みしめ、地面から土埃に塗れた布切れを拾い上げた。
「それは…!?」
リベルトは彼の手元を見やり、息を呑む。
彼は一つ頷き、力強く言い放つ。
「…軍装だ。それも、王国軍の…な。」
隊長は緩やかに前方を見渡す。
注視すれば、そこかしこに軍装の破片があることが見て取れた。
彼は口を開き、命令を発する。
「…調査隊、前へ。仕事の時間だ!
軍装の位置から、方角を割り出せ。」
リベルトは早口で彼に言う。よく焼けた頬は、少し赤らんでいた。
「隊長、捜索対象が…あの方が!俺達の手で見つけられるかもしれないんですよ。
部隊を分ける事を提案します、今ちんたらするより、人海戦術で探したほうが早いでしょう!」
休憩時の気怠さが何処へやら、リベルトだけではない、部隊全体に、さざ波のように高揚が広がる。
落ち着かない雰囲気が場を支配する中で、隊長は鋭い声を発した。
「駄目だ。まだ手掛かりが見つかったにすぎん。
ここが何処だか、貴様も知っているはずだ。
分散は身を滅ぼしかねん。サイレンティアムですら崩壊したのを忘れるな!」
彼は部隊を見やり、怒号を張り上げた。
「落ち着け!ここは初等学校か!?
違うだろう!我らは栄光あるランデール領邦軍。
ハインツ司令官に指揮される、最精鋭だ!
司令官から何と言われたか、忘れたのか!?
『慌てるな、焦るな、そして急げ』
片や今の貴様らはなんだ!?」
彼は部隊員一人一人を見つめる。
場は沈み、先程迄のざわめきは吹き飛んでいた。
「我等の手で捜索対象を見つけるには、我等が浮き足立つ事は許されない。
今の貴様らは、あの方の命を背負っているのだと自覚しろ。
以上、命令があるまで休憩せよ。
今のうちに整備を済ませておけ。」
隊員達は座り込み、其々が背嚢から整備用品を取り出す。
すぐに、辺りにはボルトを開ける金属音、油を差す水音、銃剣を磨く摩擦音が響いていた。
調査隊は、頻りに鉛筆を走らせている、速度は増して、そして紙を捲る音へと続く。
少しの話し声、考えが纏まったのか、彼等の内の一人が、紙片を片手に隊長に近づいて行った。
「隊長、報告致します。」
調査隊員は隊長に幾つか話し、それを聞いた彼は暫し考え込む。
目を瞑り、何秒が経過しただろうか、彼は目を見開いて、一言呟いた。
「…よし。」
すっかり滑らかとなった銃を抱え、岩に、木に、もしくはただ座り込んで、体を休めている隊員達に、隊長は命令を告げた。
「方位北北東、行軍開始。警戒を厳となせ、金糸雀に注意せよ。」
彼等は懐より、鎖で繋がれた何かを取り出す。
それは魔素簡易探知機。本来ならば中央研究所調査団の備品、連合参謀本部の強権は、非常に高価なそれを彼等に与えていた。
道なき道を進み、調査隊が先導する。景色は暫くの間流れ続け、そうして甲高い金属音が鳴り響く。
定期的に響くそれは、探知機からのものだった。
隊長は報告を受ける。
「隊長、方角を断定、ここより東に500m地点が目的地のはずです。」
調査隊員は、少し早口で捲し立てる。それを聞くと、隊長はハンドサインを送った。
「方角、東。距離500。臨戦態勢。前進を開始せよ。」
一様に顔が引き締まる。顔を見合わせる者も居れば、拳を握りしめる者も居た。
そうして、湿った足音を響かせて、部隊は戦闘隊形へ移行、進撃を開始する。
濃い魔素は、普通ではあり得ない事を引き起こす。玉虫色の膜は婉曲し、そして包みこんだ。
多くの命が散り、それは魔素の塊により引き起こされている。
平等に訪れるはずの惨劇は、なんの因果か、たった一人を助けた。
彼等の眼前が開ける。その先には、折り重なるようにして、幾つかの屍が晒されている。
立ち止まる隊員達、隊長が1人進み出て、屍の奥へと進む。
軍装を纏う屍に囲まれたソレ、彼が首筋に触れる。
「…脈を確認。対象を確保した。」
1週間後、ランデールより派遣された捜索隊が、一つの報告を持ち帰ってきた。
その報は王国中枢を震わせる。歓喜が駆け巡り、国王オットー6世は、報告を聞くと、喜びの余りか、叫んでしまったという。
フリードリヒ・フォン・ロイエンベルク・ミッテルランデ。
ロイエンベルク王国大公にして、元帥。
「オーバーチュア作戦」にて、行方不明となっていた司令官が、生還したのである。
本日も、ご読了頂きありがとうございます。初めましての方は初めまして。チャデンシスと申します。大体2週間に1話で投稿しています。
前後作も読んだ方が、時系列が分かりやすくなると思うので、オススメです。




