第十三話「救世」
※この物語はフィクションです。登場人物、団体名、設定などは架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
前回からの、あらすじ。
魔物増加バーン! 調査決定ドーン!
調査隊壊滅バーン!作戦開始ドーン!
全て壊滅ドーン!
宗教黎明バーン!!宗教中興ドーン!!
現代描写バーン!!宗教分裂ドーン!!
国家乱立バーン!!断片開示ドーン!!
聖戦会戦バーン!!
視界が眩む。玉虫色に輝く膜を破り、眼下に丸い都が広がる。
居並ぶ鐘楼、白く輝く壁面は、眩い陽の光と共に、多くの群衆を映し出す。
騒々しい中で開かれる朝市では、スープの、串焼きの、パンの芳ばしい香りが漂い、それを貫く様に店先では客寄せが声を張り上げていた。
一人の茶髪の男が、吸い寄せられる様に屋台に近付いていく。
「そのパンを一つ、あぁ、木苺のジャムも付けてくれ。」
「おいおい、朝からそんなもん食ってたら、病気になっちまうぞ!」
「なぁに、そうなったら教会で治してもらうさ。」
そんな軽口を叩く声が、喧騒に消える中で、彼はジャム付きのパンに串焼きまで買って、鼻歌交じりに噴水に腰掛けるのだ。
美しい光景、当たり前の、それでいて素晴らしき日常。壊されるは最早必然であった。
彼等は紅い光を掲げ、他方は蒼く染まる。日々の喧騒は塗り潰されて、そして舐め取られるように消えていった。
ある日あの時あの場所で、蒼い閃光に白き軍勢は焼かれ、紅く照らされた白い城壁は破られた。
後に広がるは瓦礫の山。
其処はネルキア教の総本山。土埃に塗れた群衆が、眼前に翻る、アルガリアの、イスパニョーラの旗を、静かに見つめていた。
見つめ、そして逸らす者もいる先で、黒い集団が進み続ける。
蹄と軍靴の乾いた音、その先頭には、蒼い甲冑を着込んだ、二人の男の姿があった。
男達は、瓦礫の中に建立された祭壇に登り、ヘルムを外して脇に持つ。
アルガリア王カール、イスパニョーラ王ルイ。
其々の旗が、祭壇の両端に翻り、傍らを黒衣騎士団が固めている。
途端に、群衆から一様に歓声が上がる。拍手する彼等の手には、かつてはロサーリオが握られていた。
今は蒼い布切れが握られ、その意識は目の前の軍団に、蒼い穂先を持つ兵士達に向けられている。
両雄が片手を上げると、群衆の歓声が収まり、何処からか安堵の息が吐かれた。
その時、頬のコケた茶髪の男が、足元を蹌踉めかせて、丸まるようにして兵士達の側へと転がる。
どよめきが広がり、何処からか押し殺したような悲鳴も耳朶を叩く。
刹那、蒼い煌めきが場を満たし、血飛沫が弾けた。凍る空気、蒼い静電気が穂先から上がり、何が起きたかを知らしめている。
ルイ王は、微かに目を向けた。そして、横に立つカール王に、眉を顰めて、冷えた視線を送る。
木苺の甘さも、串焼きの香ばしさも。
全ては、蒼く消えた。
カール王は美しい微笑みを浮かべて、口を開く。
「諸君、神格派の圧政に苦しんだ、哀れな者たちよ。
我が名はカール。アルガリアの王にして、人格派アルガリア国教会の主である。」
言葉を切り、顔を強張らせる群衆を睥睨する。
そうして、声を発した。
「何、恐れることはない。余は、我が盟友ルイ王と共に、君たちを救いに来たのだ。
偽りの信仰に惑わされ、悪魔に愛すべき者を人質とされた、罪なき子羊達、哀れな者達を。」
無音が浸透し、その言葉は群衆を通り過ぎていく。それを見るカール王は、大袈裟に続けた。
「君達は神都の民だ、この世の中心に立ち、かつては清き信仰に従いて、正しき秩序を打ち立てし功労者の末裔。そんな諸君らが、今や泥に塗れ、無残な様を晒さねばならぬのは誰のせいか!?」
カール王は右手を振り上げ、固く握りしめる。
上空に亀裂が走り、蒼い閃光が空を満たす。夕焼けに染まろうとしていた世界が、地の果てまで蒼く染まる。
耳鳴りのするような轟音、迫る爆風に煽られ、金糸のようなカール王の髪がなびく。
砂埃が舞い上がり、群衆の蒼白となった顔面には、蒼い光がよく映えた。
「…余は信じよう。勇猛なる末裔よ、我等こそが救世主である。全てを忘れ、四王に従うがよい。まさしく天命、それこそが神の御意志なのだから。」
アルガリアの調べの中で、其の声は静かに響き渡っていた。
光が霧散し、蒼く染まった視界が開ける中で、地面が迫り、地下に潜る。
広がる空間、燭台の灯りが僅かに照らす中で、湿った水音が微かに響く。
地上の喧騒、『覇王』の鳴動すら響かない、深い、深い地下。
石造りの支柱に囲まれる中で、教王が跪いていた。
「おぉ、神よ、我等が主にして父よ。分かっています。背教者への天罰を、真の救世を、哀れな子羊に与えてみせましょう。」
空気は振動し、聖杖を握る手は枯れ枝のよう。
震える身体を支えている。
その周囲は赤黒く染まり、法衣を着込んだものたちが、幾人も倒れ伏している。
血は浮き上がり、そして地面の法陣へと吸い込まれている。
「我等は間違えてなどいない、我等は神に愛されている。我等は共に、この世に救済を齎す。終末の末に楽園は訪れる。今がその時なのだ…。」
血に塗れていた筈の法衣は白く還り、一雫の血の染みもない。法陣は紅く輝き始め、魔素が鳴動する。
「あぁ…紅き大海、その荒波のようだ…。」
教王は、聖杖を音が出るほどに握りしめる。そして叫んだ。
「我等の救済、大いなる神よ、万物の父よ、全ての魂あるものの主よ!
今や地には異端が満ち、悍ましい教義は悪魔の明瞭なる声として人々を絡め取っている。
望まぬ世界を献上する事をお赦しください。満ちぬ贄をお赦しください。
世界に終焉を、この世に楽園を、森羅万象を糾合せしめたその時には、大いなる我等の神が顕現する!!
神よ…我等を救い給え、スペーロ!!!」
喉を掻っ切る。赤い雫が法陣に滴ると、紅い波動が吹き上がり、地下に満ちて、そして溢れた。
全てが飲み込まれる。パルメリオンの山脈、アルボルンの都、四王の地、アルガリア、イスパニョーラ、エトルリア、ノルデンラント。
蒼い閃光が紅い波動に掻き消され、地には紫色の魔素が生まれ出。
その中心には、余りにも悍ましく、そして嘗て見た存在がある。
醜い肉塊、それが覆う皮膚には、怨嗟の声を上げるかのような、人間の顔がところ狭しと張り付いている。
小川のうえに寝そべるソレは、眠り続けていた。
襤褸を身に纏う集団。色は同じ、言の葉は通じず、彼等は多くが死に絶えた。
何もかもを失った。しかし、希望はあった。
魔物多き地、教王も四王も興味を示さぬ化外の地、ネルキアの向こう側、その境界。
ロイエンベルクが、彼らの最後の揺りかごであったのだ。
本日も、ご読了頂きありがとうございます。初めましての方は初めまして。チャデンシスと申します。大体2週間に1話で投稿しています。
前後作も読んだ方が、時系列が分かりやすくなると思うので、オススメです。




