第十五話「新天」
※この物語はフィクションです。登場人物、団体名、設定などは架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
前回からの、あらすじ。
魔物増加バーン! 調査決定ドーン!
調査隊壊滅バーン!作戦開始ドーン!
全て壊滅ドーン!
宗教黎明バーン!!宗教中興ドーン!!
現代描写バーン!!宗教分裂ドーン!!
国家乱立バーン!!断片開示ドーン!!
聖戦会戦バーン!!救世発生ドーン!!
大公発見バーン!!
軽やかで涼し気な音が響く。
微かに青く照らされる白い部屋、薄手のカーテンは閉め切られている。
その窓辺には、身体を横たえるに十分足るベッドがあった。
横たわる影、白い病人服に包まれた彼、顔立ちはよく整っているものの、頬は少しコケてしまっている。
扉一つ挟んだ外から、低い声が聞こえる。
「リロイ医師、矢張り、まだフリードリヒ閣下はお目覚めになりませんか。」
それに答えたのは、少し嗄れた声。
「えぇ、目覚める兆候はありませんな。とはいえ、自発呼吸は見られます。瞼の動きも。故に、脳死ではありません。現状は生命維持法陣で栄養を供給している状況です。
特筆すべきは、3度、魔力感応による覚醒を目指しましたが、何れも魔力の消失という結果に終わったことでしょう。
そのデータは、既に送付済みですが…。
中央研究所のクリスティアーネ所長は、なんと?」
少しの間をおいて、声色を落として低い声が応じる。
「…何か、未知の空間の歪みにより、魔力が別次元に逃げている。
ということくらいしか分からんそうで。
『これ以上仕事を投げると、ウッカリ魔導炉をオーバーロードさせるぞ。』と言っておりました。」
抑えた笑い声が響く。喉の奥を引き攣らせるようなソレの後で、嗄れた声は言った。
「いえ、失礼。クリスティアーネ所長らしいと思いましてな。
しかし、中央でそれなら、うちもお手上げです。
引続き、経過観察をするしかないでしょうな。
それとも、再び魔力感応を行いますか?」
低い声は、暫し間をおいて答えた。
「…やめておこう。これ以上は、王立病院の魔力を無益に消費することになりかねますまい。」
嗄れた声が、少し声音を上げる。
「クリスティアーネ所長も怖いですしな?」
「………」
意識は沈み、そして予感がする。これが最後である、と。
眼下には、都市が見える。白くもなければ、ロサーリオも見えない。
石造りの重厚なそれは、かつてのロイエンベルクの絵と重なった。
現代にも通ずる、何とも整然としたゾーニング。区画の一つが、視界に広がっていく。
一際大きな屋敷には、何処か見覚えのある紋章がある。
しかし、抱く。違和感、何かが足りない。
それを深掘りする間もなく、視界が切変わった。
素っ気ない木目、敷布があるだけの簡易な背もたれ付き椅子に、若い男が座っていた。
青い瞳は、手元の書類を鋭く見つめ、無造作な茶髪が、雄々しい顔を縁取っている。
嘆息、目元を抑え、目を瞑る。男は背もたれに寄りかかり、凝り固まった肩に手を置き、うめき声をあげた。
首から乾いた音が鳴る。そうして、ふと呟いた。
「…緑茶が恋しいな。昔から、コーヒーというのはどうも口に合わん。」
「贅沢はいけませんね、兄上。」
男は正面を向く。其処には、同じような青い目を、しかし優しげに細めている男の姿が有った。
「そうは言うがね、アルフォンソ。郷愁の念というのは、どうしょうもないものだよ?」
アルフォンソは、ため息をついて言う。
「兄上の故郷は、ここ、ゼンタールでしょうに。
そもそも、その緑茶?とやらも、飲んだことないでしょ、貴方。
それよりも、早く執務を進めてください。父上を処刑してまで手に入れた領主の地位、生半可な覚悟で務まるわけないでしょう?」
男は鼻で笑う。そうして書類に目を戻しながらボヤく。
「そりゃあ貴様、あの男は無能だったからな。
『リヴァイアサン』でも、無能な政府に存在意義は無いとされている。マキャベリも同様だ。
良き父であっても、良き統治者では無かったのだよ。」
アルフォンソは、肩をすくめて続ける。
「またそれですか。別に、御自分の言に酔うのも勝手ですがね、取り敢えず、この書類の山に印をして下さい。
私だって、侵攻計画を形にするので必死なんですからね。
それでは、私は参謀本部に用があるので、失礼いたします。」
そうして退出する。アルフォンソの背を見るともなしに見やり、男は直ぐに手元の書類を放り出して、背後を振り返った。
窓を明け放ち、清々しい空気を吸い込む。
広がる景色、実の父すらも処して手に入れた都市。
手に入れる前から、手塩にかけた都は、しかし、思うところしかなかった。
「…足りぬ、全く足りぬ。護国を完全とし、国体を守るためには、これだけでは足りん。
あぁ、我が愛すべき臣民よ、皇国で培いし我が叡智でもって、正しき文明へと導こうではないか。」
響く笑い声、朝焼けに溶け、そうして空に抜けていった。
規則正しく鳴る革靴。黒光りする銃口を掲げ、フリントロックの群れが蠢く。
足並みは揃わず、お世辞にも練度が高いとは言えない。
しかし、彼らに迫られつつある人々からすれば、そんな事は些末な事であろう。
彼らは一つの都市を囲む。ある者は欠伸を堪え、ある者は略奪を想起したのか下卑た笑みを浮かべていた。
眼前の軍勢を尻目に、アルフォンソが男の傍らに立ち、語り掛ける。
「兄上、先程、敵首長オルソンによる最後通牒の拒絶を確認しました。」
男は目を細め、一つ息を吸い、そして応じる。
「…分かった。」
彼は歩み出て、声を張り上げる。
「諸君!我が牙、我が盾、我が同胞達よ!」
軍勢を扇ぐようにさざ波が広がり、多くの意思が彼に目を向けた。
「先程、敵都市アイベックが我等の寛大なる最後通牒を拒絶した。
度重なる交渉、寛容な申し出にも関わらず、彼らは闘争を選んだのだ!
都市を一番に落とした者には、貴族位か報酬を約束しよう。
勿論、両方でも構わない!死を覚悟しそれを乗り越え、王家への忠誠を示したものにこそ、勝利は訪れる。
かの都市には、農耕により蓄えた莫大な財があると聞く。その裁量権は、兵士一人一人に任せられている。諸君、多くは語らない。ただ進め、立ち塞がる愚か者は消し飛ばせ、我等こそが正しき秩序となるのだ!!」
瞬間、剣を引き抜き、高々と掲げる。瞬きの静寂、割れるような歓声。怒声にも聞こえるそれは、紅潮し、潤み、そして高鳴った者たちの雄叫びであった。
「「「万歳!万歳!ゼンタール万歳!オットー閣下万歳!我等がオットー・ゼンタール・ホーエンランデに栄光あれ!!
フラァァァァ!!!」」」
オットーは微笑みを浮かべていた。軍勢を見渡し、そして笑みを消す。
剣でもって、突き立てるように指したその先、アイベックに向けて、鉄血は振るわれた。
ロイエンベルク王国の首都は、かつては2つの都市であったという。
一つは王家の父祖の地、一つは農耕で栄えた、豊かな地。
此等は、王国の初期段階における、小規模な領域でもあったのだった。
本日も、ご読了頂きありがとうございます。初めましての方は初めまして。チャデンシスと申します。大体2週間に1話で投稿しています。
前後作も読んだ方が、時系列が分かりやすくなると思うので、オススメです。




