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視えちゃう僕は、異世界の君と、この世界の謎を解く  作者: HiKaRi
◆第一部◆ 第二章 Spirited Away
9/23

気付かなかったもう一つの能力

 来條には僕の声は聞こえないのに、思わず声に出して尋ねてしまった。気配を感じるとはどういうことだろう。


「来條さん、それってどうやってやったらいいの?」

 ここなが来條に聞いてくれる。


「ここなさんもそうですが、誰もが普段やっていることですよ。耳を澄まして、心を静かにして、そして周囲の様子を身体全身で感じるんです。


すると、風が吹いていることに気付いたり、誰かが話している声が聞こえて、近くに人がいるのを知ったり、ほら今だと、集会所の外で垣根を手入れしている人がいることが分かるでしょう」


 来條が耳を澄ましているのを真似て、僕たちも耳を澄ましてみる。

確かに集会所の外で、誰かが垣根をハサミで整えている音が聞こえる。


気配を感じるというのはこのことか。それなら僕は普段から、これをよくやっていた。


 周囲の目を気にし続けてきた僕は、周囲に誰か居ないかを常に意識していた。だから事あるごとに気配を探っていた。結構、それに助けられてきたこともある。


だけど探れるとしても、そこまで広い範囲を感じ取れるわけではない。せいぜい各校舎の一階分くらいの範囲だ。


もっと広いこの世界の全てを網羅するには、何回、気配を探ればいいだろうか。


「どう?結人くん」

 ここなが『何か感じる?』というように、僕を見る。


「うーん、ちょっとひとまず外に出て、やってみるよ」

 どのみち探し回るつもりだったのだから、やってみることに越したことはない。


「そうだね」

「来條さん。私、結人くんと隼人さんを探しに行ってきます」


 僕たちはソファから立ち上がり、集会所の外へと歩き出す。来條は出口まで見送りに来てくれた。


「こちらも何かお役に立つことがあるか、引き続き調べてみましょう」


 来條が優しい表情で僕らを見る。その優しさに僕は救われた気がした。


「ありがとうございます」

 来條には聞こえないが、敢えてそう言って、頭を下げた。


「結人くんが、来條さんにありがとうございますって」

 ここなが僕の声を届けてくれる。


「ええ。結人さんとはまた会うこともあるでしょう。大切なお友達と一緒に元の世界に戻れることを祈っていますよ」


 僕らはもう一度、来條に頭を下げてから、集会所を後にした。


 * * *


 集会所を囲む垣根の外に出てから、僕らは周囲が広く見渡せるところまで戻ってきた。なんとなくだが、開けている場所で気配を探った方が隼人を見つけられるのではないかと思ったのだ。


何回、周囲の気配を感じ取ればいいだろう。だけど、闇雲に探すよりはずっと良い。


「じゃあ、やってみよう」


 僕とここなは目を閉じて、大きく深呼吸をする。

そして、心を静かに落ち着かせて、周囲の気配を感じてみた。隼人を思い浮かべる。


作物が風に揺れる音。遠くで鳴く鳥の声。そして水の音。上から強く落ちる水の音を感じて、それが滝の音だとすぐに分かった。


そして、どうしてか、何故そう感じたのか、不思議で仕方なかったのだけど……。

その滝の前で、スクワットをしている隼人の姿が頭の中に映像として浮かび上がってきた。


「……隼人」

 その映像に驚いて、パッと目を開ける。


「なんかこれ、不思議だね。私、しずくが居る場所が分かった気がしちゃう」


 ここなは目を瞑りながら、楽しい夢でも見るような顔でそう言った。そして夢から覚めたばかりのまどろんだ目を開き、僕に微笑む。


「これ、面白いね。今度、本当にそこに居るか、試してみちゃおう。結人くんはどう?隼人くんの居場所、分かった?」


「ああ。僕も本当にそこに居るのかは分からないけど、隼人が滝の前に居るのが見えた」


「滝の前?この近くで滝がある場所っていったら、果樹園の奥だね。そっちに行ってみる?」


「ああ、頼む。その滝に案内してほしい」

「うん。じゃあ、行こう」


 僕らは滝のある方向へと歩き出した。


 * * *

  

 果樹園は神社の前を流れる大きな川の上流にあるそうだ。

たどり着けば、たくさんの果物がなった樹木が連なりだした。


奥に見える樹木には大ぶりのオレンジ色の実。近くの樹木にはびわやリンゴの実。その色の鮮やかさが、幸先のよさを感じさせて、足取りを軽くする。


 果樹園を抜けて更に進むと、周囲の木々が深くなった。ゴツゴツした大きな岩が増える。水が流れ落ちる音がどんどん大きくなってくる。僕の歩くスピードも、無意識に速くなっていた。


 大きな崖が見えてきた。崖の上から滝が勢いよく流れ込んでいる。窪んだ滝つぼが見えてきて、そこに。滝つぼの水で顔を洗っている隼人の姿があった。


「隼人!!」

 僕は声をあげていた。足が勝手に走り出す。


「ゆ、結人?」

 濡れた顔を腕で拭いていた隼人が振り返る。大きく目を見開いた。これまでにない驚いた顔を見せて、そして、飛びきりの笑顔を返してくれる。


「ゆいーとぉー!」


 隼人が飛び跳ねるような勢いで、駆けてくる。


その様子に心の底からホッとして、嬉しくて涙が出そうになった。無事だった。あいもかわらず元気そうだ。


抱きついてきた隼人を、僕は転げそうになりながらも受け止める。


「結人、会いたかったぜーー。俺、もうこのまま、どうなるのかと思ってたんだよぉ。よく分からないところに来てしまったし、それに人が誰もいないしよぉ」


「ああ、そうだよな。本当に無事でよかった。親父さんも心配してるよ」

「そうだよな!」


 僕らは強く背中を叩き合って、再会を喜ぶ。


「結人くん。隼人くんは見つかったんだね?」

 後ろをついてきたここなが、僕の様子を見て、微笑んだ。


「ああ、見つかった!ちゃんと今、僕の目の前にいる!」

 笑顔でそう返すと、


「そっか、良かった!」

 と、ここなもとびきりの笑顔で返してくれた。


「結人、そこに誰かいるのか?」

 ここなが見えない隼人は、僕を見て、首をかしげる。


「ああ。いるよ。隼人を一緒に探してくれたんだ」

 僕は初めて素直に、隼人の質問に答えることができる。


「……隼人に話したいことがあるんだ。会えたら、話そうと決めていた」


 僕が真剣な顔をすると、隼人は何事かと僕を見返す。


「……気付いているとは思うけど、僕は他の人には見えないものが、幼い頃から見えるんだ」


 やっと、隼人に打ち明ける。どんな返事をするのかと恐る恐る隼人を見ると、


「なんだよ。やっと話す気になってくれたのかよ?」

 と、隼人はちょっとチャラけた明るい声で嬉しそうに笑った。


 その返答がとてもくすぐったくて、心がじんわり熱くなった。ずっと待っていたんだぞ。そう伝わってくる大らかな表情。


「やっぱり気付いてたよね?」

「当たり前だろう。何年一緒に居ると思ってたんだよ」


 隼人はまったく驚きもせず、怪訝な顔もせず、興奮もせず。ただ当たり前のように僕の体質を受け入れてくれた。


今までの僕は、何を怖がっていたんだろう。

隼人はこんなに真っ直ぐに、僕のことを知っていてくれたのに。


「正直に話さなかったのに、こんな僕とずっと一緒にいてくれてありがとう」

「何言ってんだよ。当たり前じゃねぇか、友達なんだからよ」


 隼人が躊躇いなく『友達』と言ってくれたことが染みる。


「僕のことを気持ち悪いって思ったことなかった?」


「正直言うとさ、お前の噂だけを聞いていた小学生の時の俺は、そう思ってたかもしんねぇ。だけど、結人、覚えてるか?理科室で俺がお化けを見たって騒いだ時、お前だけが俺をかばってくれたことがあっただろう?」


 過去を思い返す。あの頃の僕は、他人には見えないものが視えることに対して、まだ否定的じゃなかった。


 あれは隼人が学校の理科室で、お化けのような影を見たと騒いだ日のことだ。

本当にお化けが居るのかどうかは僕も分からない。僕もお化けは見えなかった。


クラスメイトが「見てるわけない」「嘘をついてる」と隼人の言葉を否定した。僕はそれが許せなかった。


視えることを否定されたくなかった。僕はクラスメイトに反論した。


『視たというなら、それを僕たちが、嘘つき呼ばわりするのはおかしいだろう!隼人が見たって言うなら、それをそのまま信じてあげればいいじゃないか!』


 目の前にいる隼人が、照れくさそうに鼻をかく。


「あの時、俺は気付いたんだよ。『自分の基準で誰かを否定したり、拒否したりするのはおかしい』って。


結人はあの日だって、そしてこれまでだってずっと、誰かを否定したり、拒否もしない。見ていて、不器用な奴だなって思うことも多々あるけどな!だけど俺は、そんな結人が好きなんだ」


 僕の性格をありのままに見て、好きだと認めてくれる。僕自身ではそれが出来ずにいる。だけど、かけがえのない友がそう思ってくれていることが、ちっぽけな僕を強くしてくれるような気がした。


「だから、俺。結人の見える世界をずっと分かち合いたいって思ってたんだ。そんで遂に!実際こうやって、俺にも不思議なことが起こり始めた!やっべー。超うれしいぜ!」


 隼人が、いつも見せてくるキラキラした興奮を僕に向ける。

この興奮に逃げ腰になっていたけれど、今日ばかりは僕にもそれが伝染した。


「それで?そこに、俺には見えないけど、誰かが居るんだな?」

 隼人が、ここながどこに居るんだ?と楽しそうに辺りを見回す。


「ここにいるよ。ここなって言うんだ」

 僕はここながいる場所を手のひらで示す。


ここなは急に自分を紹介されて驚いていたけれど、「ここなです」と言って、見えないところに笑顔を作った。


「うーん、悪い。ここなちゃん、ごめんな。俺、見えないや」


 隼人もここなの場所が分からず、二人は明後日の方向を向きながら、話している。

僕の体質を受け入れてくれた二人が、直接話せるようになったらいいのに。


「ここなちゃんってことは、お前が図書コーナーで話していた人ってことだよな?」

「やっぱり近くにいたんだね」


「わりぃな。結人が授業サボってるなんて、余程のことかと思ってよ。盗み聞きしちまった」

「僕も話していればよかったんだ」


 これからは隼人に隠さず、いろいろ話そう。


「隼人、実は分かったことがあって、聞いてくれるか?」

「おう」


「僕がずっと見えていた人たちの正体が分かったかもしれなくて」

「正体?」


「今、ここには、僕と隼人とここなが居る。僕には二人が見えるけれど、二人には僕しか見えないだろう」

「ああ」


「どうやら、僕と隼人がいつも過ごしている世界と、ここながいつも過ごしている世界の両方が実在しているみたいなんだ。僕はその両方の世界の住人が見える。それで隼人は今、ここながいつも過ごしている世界に居る」


「へぇ、なるほど、そうなのか。俺はここなちゃんの住んでいる世界にいるのか。俺さ、二つの世界があるっていうことで、ちょっと気付いたことがあるんだけどよ」


「気付いたこと?」


引き続き、ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。

皆さまの応援がとっても励みになります!

明日12時30分、続き公開予定。


こんな異世界がどうしてあるのか、答えはまだ先になりますが、

考察してもらえたら嬉しいです。


感想、お気軽にくださーい!

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