凛花と本来の鳥の飼い主
彼女が私のものになったみたいで楽しかった。彼女が私の傍にいつも居てくれて嬉しかった。そして私と彼女の様子を見て、取り巻きたちは私側に戻ってきたから、私はとても気分が良かった。
だけどその私の態度は、悪い空気を伝染させた。私の取り巻きが彼女をこき使うようになり、他のクラスメイトも彼女を同じように扱うようになった。
彼女はいつしかクラスメイトからいじめられるようになっていた。
そのいじめは、私が見ていられないくらいにエスカレートしていった。どんどん酷くなる。こんな状態になることを望んでいたわけじゃない。だけどそんな言い訳は許されない。このいじめは私が始めてしまったこと。これは明らかに私の罪《《せい》》だった。
彼女は学校に通うことができなくなり、卒業式を迎える前に、転校することになった。それを知った時、私は彼女に会いに走っていた。
彼女の背中を見つけ、声を掛ける。彼女はビクっと肩を揺らして恐々と振り向いて、私だと気付いたら、ホッとしたように優しく微笑んだ。私に向けられたその表情に驚いたけれど、彼女はそのまま、私の方を見て何も言わなかった。
私は何故、彼女に会いに走ってきたのだろう。そう、私は謝りたかった。私のせいで、彼女はいじめられるようになったのだから。
「えっと……」
謝ろうとしたけれど、その言葉が出なかった。謝って許されることなのだろうか。彼女が味わってきた辛さを目の当たりにしてきた。私が発端なのに止めることも出来なかった。そう思うと何も言えなくなる。
「この鳥。預かってくれる?」
彼女がそう言って、持っていた青い鳥の入った鳥かごを私の方に差し出した。鳥が可愛く鳴く。
私に触らせたくないと、あげたくないと絶対に譲らなかったのに、今度は私に鳥を預かってほしいと言っている。私はそっと手を伸ばして、その鳥かごを受け取っていた。
「さよなら」
私が青い鳥に目を向けているうちに、彼女のお別れの声が聞こえて、私が顔を上げると、彼女はもうその場から居なくなっていた。
*
青い鳥。幸せを連れてきてくれるという青い鳥。
だけど、彼女から預かった鳥を見る度に、彼女にしてしまったことを思い出す日々が始まった。
私は彼女に酷いことをしてしまった。謝れなかった。
彼女が転校して、彼女が転校することになった責任は誰だとクラスメイトの誰かが言い出して、次は私がクラスメイトのいじめの対象になった。
小学校を卒業し、中学1年生になっても、周りの環境は良くならなかった。中学生活はほぼ不登校。私のことを誰も知らない私立高校へと進学して、イジメられることはなくなったけれど、友達は作れなかった。学校ではいつも一人。でもこれは天罰。私は幸せになってはいけない。
ピピと名付けた青い鳥。幸せなんて運んでこない青い鳥。
ピピがいると、彼女へしてしまったことをいつまでも忘れられないから、逃がしてしまおうと思ったことがある。
部屋の窓を全開にし、鳥かごの中から外に出し、自由に飛べるようにした。だけど、ピピは窓の外へと飛んで行かなかった。そればかりか、私の肩や頭に乗ってきて、懐いてくる。
居なくなればいいのに。そしたら、忘れられるかもしれないのに。ピピはそれさえ許してくれない。
だから、ピピが気を失っている間に逃げ出して、居なくなってくれて、私は解放されたはずだった。
*
目を覚ますと、私は何故か竹林に囲まれた一本道に立っていた。辺りは薄暗い。ところどころライティングされているのか竹林は光っている。ここはどこだろう。鳥の鳴き声が聞こえて、青い鳥が私の目の前で羽根を羽ばたかせた。
「ピピ……」
ピピは居なくなったはずだったけれど、数日前に私の元に帰ってきてくれた。ピピが小さく鳴いて、竹林の奥へと飛んでいく。
「待って、ピピ!」
私はピピを追いかける。ピピは小道の先にあった赤い鳥居の上に留まって、私が追い付くのを待っていた。私が鳥居の前にたどり着くと、ピピは私の肩に飛び乗ってくる。
「この鳥居を抜けるの?」
鳥居の奥は明らかに普通ではないと思った。アニメでよく見る異次元空間みたいだ。ピピが行こうとでも言うように、小さく鳴く。私は意を決して、その門の奥へと踏み入れた。
真っ白な光に包まれて、眩しくて目を閉じる。その眩しさが薄らいできて、そっと目を開ける。すると目の前には、森が広がっていた。辺りは夜だけど、月明りに照らされて、森の中はそこまで暗くはない。ピピが私の頬をついばむ。夜の森とはいえ、ピピも居るからか不思議と怖い感じがしない。
「ピピ。ここはどこだろうね?」
ピピが鳴いて、そしてパタパタと私の肩から離れ、ゆっくりと私の目の前へと飛んでいく。ピピが何もないところで羽根を羽ばたかせて、どこかに留まろうとしている。
ピピが羽根を休めた瞬間、そこには見覚えのある女の子が映し出されて、その子の頭の上に、ピピは留まっていた。
「凛花ちゃん、ひさしぶり」
「………あ、あなたは」
その声を聞いて、見覚えのある女の子は、ピピの元の飼い主である転校生だと気付いた。だけどどうしても名前を思い出せない。
「鳥をずっと預かってくれて、ありがとう。元気だった?」
元気だったと言いたかったけど、まったくそうは言えなかった。気分はずっと、目の前の彼女への罪に囚われれいて、辛くて自分が許せなくて、深く闇に覆われていたから。
「鳥を返しに来てくれたの?」
彼女は優しく微笑む。その顔が転校することになったあの日、私に見せてくれた顔と重なった。




