恵利華のオーラ
恵利華が朝日を見ながら、話し始める。
『灰色』。それはこれまで関わった阿砂先生や楓の姉の梓も纏っていた色で、そういう色を纏っている人は性格が暗かったり、攻撃的だったり、逆に無気力だったり、生気がなかったりすると、恵利華が話してくれたことがある。
「私の纏っていたオーラは『怒り』だったわ。これまでずっと、嫌なことや辛いことがあると、すぐに私は怒っていた。イライラが収まらなかったの。だけど、最近知ったの。周りに攻撃していたのは怖かったからだったんだって。自分が傷つくのが怖くて、傷つく前に攻撃していたのよ」
初めて恵利華に会ったときのことを思い出す。確かに恵利華の第一印象は、こっちが避けたくなるくらいに気性が激しかった。だけどここ最近は、刺々しく怒っていることはなくなっていたように思う。
「私、結人たちと出会ってから、怒りたくなることが減ってきたの。怒る必要なんてないなって思うようになって、それからはイラっとしても一度深呼吸して、どうしてイラっとしたのかを自分に確認するようにしてたの」
恵利華にそんな心境の変化があったなんて知らなかった。
「そしたらね。私の纏っている色が『灰色』じゃなくなっていたの。いつのまにか薄青色になってた。その色は『恐れ』。私、ずっと怖かったのよ、何もかもが。この能力も、環境も、周囲の人も。みんな敵のように思えて、私はずっと周りに攻撃していた。だけど、そうだったんだって気付けたから、私はその『恐れ』とも、これからは向き合っていこうって思っているの」
『怒り』の裏に隠れている『恐れ』。きっと、恐れは誰もが心の中に持っているもので、その恐れに耐えきれなくなった時、怒りとして自分の心を守ろうとすることがあるのだろう。
「隼人が『青い鳥』の童話の話をしたときのこと、覚えてる?『幸福は自分たちの捉え方、見方次第』って言ってたこと。本当にそのとおりね。怒りも同じだった。本人の捉え方と見方次第で、変化する」
恵利華は落ち着いた声で続ける。
「私ね。みんなの色が視えるでしょう。それが嫌だったけれど、その色が視えるなら、私も何か役立てたいって、結人みたいに何かしたいって思い始めたの。私や楓のお姉さんのオーラが『灰色』から変化したみたいに、凛花さんが元飼い主に謝ることで、オーラが『灰色』じゃなくなったらいいと思ったのよ」
「凛花さんのオーラは『灰色』なんだね」
「ええ、そう。『生気を失わせるかもしれない罪悪感』を纏っているの」
恵利華がテルに必死に訴えていた背景にはそんな理由があったのか。
「そっか、じゃあ僕たちの手助けが、彼女が楽になるキッカケになれたらいいね」
「ええ」
恵利華の清々しい表情に、海から昇り切った太陽の光が当たる。その明るさを浴びた顔が笑った瞬間、光が溢れたみたいだった。僕たちはこれからする計画が上手くいくことを願い、神社から歩き出した。
*
神統神社から辻村家へと歩いている間ずっと、恵利華の心はふわふわと夢見心地のようだった。
「これは夢だって言われたら、そう思えちゃいそうよ」
朝日がだんだんと登り始める早朝の世界。この次元の景色は緑が溢れ、僕たちが普段住んでいる世界とはまるで違うから、夢だと言われたら、そう思ってしまうのも無理はない。
僕もこれまで訪れていた時よりも、空気が心地よく感じられ、朝日のせいなのか、はたまた他に理由があるのか、世界全体がキラキラと細かい光の粒子を含んでいるようだった。
「今日は私が拗ねないように、こんな機会を考えてくれたのよね?ありがとうね、結人」
「いや。この機会を提案してきたのはテルだよ。僕はそれに答えただけ」
「へぇ、本当にテルが結人に頼んだのね。そうなんだ……」
恵利華は嬉しそうにする。
「テル、安心して。私はこれから『CWC解決室』のメンバーとして、ちゃんと『門番』の役割をしっかり果たすわ」
恵利華はそう空に投げる。スマホが軽やかに通知音を鳴らし、恵利華はそれを見て、「あははっ」と笑った。
恵利華が見せてくれた画面には『信じらんねー』と書かれていた。
4.
マンションのベランダから空を見上げなら、気付けば逃げてしまったピピのことを思っている。
ピピが居なくなればいいとずっと思っていた。ピピを見ると、どうしても彼女のことを思い出すから。居なくなって良かったと思うのに、それではダメだと胸の奥が騒ぐ。
その瞬間、身体が動かくなる。
───こんな自分が憎い。赦せない。
頭の中で声が聞こえて、何も考えられなくなる。ふわっと自分の意識がベランダから落ちていくような感覚に囚われ、その解放感にのってみたいと思ってしまう。
───でも、それはダメ。私はピピを、彼女に返したい。そうじゃない、謝りたい。謝りたいの。
そう強く思うと、身体は何事もなかったように動けるようになる。そんな夜が、ピピが居なくなった日から、何日か続いた。
*
ピピと、ピピの元の飼い主に出会ったのは、小学校6年生の秋だった。
私は当時、見た目が綺麗な方だと自覚していて、クラスの中でも目を惹く方で、男子も女子も自然と寄ってきて、取り巻きが多いと自負していた。
だけどピピの元の飼い主である彼女が転校してきてから状況が変わった。彼女は私よりもぜんぜん可愛くないくせに、何故か人を惹き付ける魅力があった。私も気付くと目で追ってしまいたくなる。守ってあげたくなるような可憐さがある。
彼女はあっという間にクラスの人気者になって、私の取り巻きは、みんな彼女に取られていた。
私は彼女の存在が気に入らなかったし、逆にとても気になってもいた。だから彼女の後を気付かれないようによく追いかけて、そして彼女の秘密を知ってしまった。
学校に自分が飼っているペットを連れてくることは禁止されている。だけど、彼女は机のフックにかけてある巾着袋の中に、いつも鳥の入った鳥かごを隠し持っていたのだ。
「学校にペットは連れて来ちゃいけないのよ」
彼女と2人きりになった瞬間、私は彼女にそのことを追求した。彼女は慌てぶりは明らかだった。
「私、その鳥のこと、先生に話しちゃおうかな」
「や、やめて」
彼女がとても怯えた顔をしたから、好都合だと思った。
「じゃあ、その鳥のこと誰にも話してもらいたくなかったら、私のいう事を聞くって約束する?」
彼女は私の顔色を見て、頷いた。
彼女が鳥かごの中の鳥を可愛がっているところを見たけれど、その鳥は本当に綺麗な青い鳥で、幸せを運んでくれそうな美しい見た目をしていた。
自分のものにしたいと思って、鳥をちょうだいと言ったら、私の言いなりになると約束したくせに、それは絶対にダメと巾着袋を自分の胸元にぎゅっと仕舞い込んで、鳥だけは絶対に触らせてくれなかった。だけど、鳥のこと以外ことなら、私の言いなりになってくれる。
引き続き、読んでくださりありがとうございます。
次回更新は明日21時の予定です。
ここまで読んでくださって、とても嬉しいです。




