ここなに目覚めた能力
「あの青い鳥の声が聞こえたの。一番最初は『この子に話を聞いて欲しい』だった。それで……」
「ああ。だから凛花さんをお茶に誘ったのか?」
「うん」
「もしかして、元の飼い主のことを突然聞いたのも?」
「うん。『預けた友達のことを聞いて欲しい』って言われたの」
「そうだったのか」
ここなが突拍子もないことを言い出したのは、そんな理由があったからだったようだ。
「鳥の言葉が分かるなんて、私の勘違いかもしれないけど……」
「そんなことないと思うよ」
そもそもここなたちが鳥を捕まえた方法は、僕から見たら鳥と会話をしているような感じだった。鳥たちがここなたちのところに集まってきたのは、あの鳥たちがここなの願いを聞いたからなのではないだろうか。もしそうなら、その逆にここなが鳥の願いが聞こえるようになることは有り得ないことではない。それに……。
「来條さんや天海さんがアカシアを読める能力があるように、ここなが鳥の言葉を分かる能力を持つことだって、あるんじゃないかな?」
僕はここなに笑いかける。
「信じてくれるの?」
「ああ、信じるよ。そもそも、ここなが言うことを疑うなんてこと、僕はしないよ」
「結人くん……」
ここなが安心したように微笑む。
「それで。鳥は他に、何か言っていた?」
「うん。『私だけでは、この子を幸せにできない。それなら、あの子のところに行く必要がある』って」
「……そうなのか」
つまり、凛花と元の飼い主を会わせることは、あの鳥の願いでもあるということなのか。
「私、しずくと一緒に、元の飼い主を探してみる。だから、見つかったその時は……」
やはりこの件は、恵利華にしても、ここなにしても、これで終わりというわけにはできないのだろう。
「結人くん。どうにかしてくれる?」
ここなは僕の目をじっと見つめてくる。
「ああ。分かったよ」
僕はどうしたって、このここなの麗しい瞳には本当に弱いのだ。
*
それから僕たちは、凛花が元の飼い主に会えるようにと動き出した。恵利華と隼人は、凛花の意志確認や元の飼い主の情報集めのために、凛花の話を聞く。
ここなとしずくは、ここなたち独自の方法で元の飼い主を探す。そして僕は、2階の書物を読み漁った。
次元が違う世界に住んでいる2人を会えるようにする方法。隼人と恵利華がここなやしずくと関わることができているのだから、策は何かしらあるはずだ。そして、僕たちはある方法にたどり着いた。
*
「へぇ。よくそんな方法にたどり着いたな」
僕たちの計画を説明すると、テルは感心したようだ。
「実はここなが、鳥の言葉が分かるようになったんです」
今回の方法は、ここなの開花した能力があってこそとも言えた。
「ふーん。ここなは鳥の言葉が分かるようになったのか。なるほど、そういうことか」
テルは妙に納得した顔をして、「つまり、ここなの両親は……」と小さな声で呟く。
「え?なんて?」
「いや、なんでもないよ。そうだな。結人が話してくれたその計画なら、試してみてもいいかもしれない」
「いいんですか?」
許可が下りなかったら、さらにどう説得しようかと思っていたのだけど、テルがすんなり認めてくれて助かった。ここなと恵利華はもうかなり前のめりで、すぐにでも実行する気になっていたから、仲介しないといけないリーダーの僕からしたら、気が気じゃなかったのだ。
「評議会には俺から報告しておくよ。俺は見守ってる。お前たちがやってみたいようにやればいいさ」
「ありがとうございます」
「ただ、その方法を試すなら、その前に、結人に頼みたいことがあるんだけど、いいか?」
そしてテルは僕に、あることを依頼してきた。
* * *
神道神社の境内は、まだ薄暗かった。僕はあくびを噛み殺しながら、上を見上げる。少しずつ青味を帯び始めた空は、夜明けが近いことを知らせていた。
本殿の前に立っていると、恵利華が参道に沿って歩いてくるのが見えた。
「……こんな時間なのに、本当に結人がいる」
半信半疑だったのだろう。恵利華は驚いていた。
「結人もテルに呼び出されたのよね?こんな明け方に神社に来いなんて、何を考えているのかしら」
テルは恵利華に事情を話していないようだ。僕はテルからの依頼を恵利華に伝える。
「僕はテルに頼まれたんだよ。恵利華を開かずの門の向こう側に連れて行ってやってくれって」
「え……?うそ……でしょう?」
僕の言ったことが予想外過ぎたようで、恵利華は目をまん丸くさせた。僕が嘘をついていないことは恵利華だって分かっているはずなのに、そう聞かずにはいられなかったようだ。
「本当に?……いいの?」
恵利華は僕に聞いたわけではなかった。テルに投げるように空に尋ねている。軽やかな着信音が一度だけ鳴る。
その通知内容を僕に見せてきて、恵利華は興奮を隠しきれない表情で僕を見る。
『今回だけな。せっかく変化した色を戻したくないしな!』
恵利華が見せてくれた画面には、そう書かれていた。
「変化した色?」
「そのことは後で話すわ!結人、さっそく行きましょ!」
恵利華はもう待ちきれないといった様子で、僕の腕をつかんで、門前へと駆け出した。
僕がテルに頼まれたのは、恵利華に別次元の世界を見せること。神社の開かずの門から入り、辻村家の玄関から帰るという早朝散歩だ。
どうして朝方になったかというと、それにはちゃんと理由がある。寒色系のオーラを纏っている住人を暖色系の人達が住む世界に連れていく場合、『丑三つ時から明け方までの時間帯』が理想なのだそうだ。その時間帯であれば、 互いの世界の干渉が最小限で済むらしい。
だけど真夜中の散歩となると、恵利華は景色を楽しめないだろう。テルと相談した結果、ギリギリの配慮の時間帯で、この時間帯になったのだ。
門前に立つと、恵利華は門番として鍵を開けた。押し開いた扉を抜けて、竹林の道を歩き出す。こんな時間帯だし、今回のことは部の他のメンバーには話していない。
竹林は当たり前ながら誰もいない。だけどテルには、それで問題ないと言われていた。赤い鳥居の前に立つ。僕にとっては3度目の世界変換だ。
第五の赤い鳥居を抜けて、世界が作られ始めた。周囲の景色が映し出されると、その世界は僕がこれまでも何度か見ているここなとしずくの世界と同じような景色だった。
近くにある高台の前まで進むと、目の前に広がる海面に、朝日が照らし始める。赤みを帯びた光が神殿の外観に反射すると、周囲は光に包まれたかのようだった。満たされていくような感覚が心から身体全身に広がっていく。輝く光が何もかもを受け入れてしまう高揚感。
「……なんて綺麗なの」
「本当、綺麗だね」
隣に居た恵利華が目を潤ませている。僕たちは広大な光の海がよく見える位置まで移動し、しばらく言葉を交わさずに、その朝日が登っていくのを眺めていた。
「……実はね、私が纏っている色は『灰色』だったの」
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