青い鳥が潜む場所へ
印が付けられた地図を眺めると、ある住宅地の一角に集中していることが判明した。
「この辺りって住宅も多いんだけど、緑地計画の一環で木も結構あるんだよ。まとまっているというより点在しているから、鳥も一カ所に留まっているわけではないんだろうな」
恵利華が地図の印を見て、気付いたことを話し出す。
「印が多い場所があるわね」
「そうだな。中心に向かって、印は多くなってるなとは俺も思ってた」
「だけど、地図の中心には印がまるでないのね」
「ああ、この辺りは集合住宅が並んでいるところなんだよ。だから鳥が隠れて留まっていられるような場所が少ないんだ」
隼人と恵利華が印をなぞっていると、隼人が思いついたように声をあげた。
「あれ?そういえば、この場所って、こないだ認定不可になった場所だな」
隼人が印の中心を示して、トントンと地図を叩く。僕はあの日のことを思い出した。
「集合住宅のベランダに居る女性を見に行った場所?」
「そうそう。『星を見る女性』の都市伝説を確認しに行ったとこだな」
あの奇妙だった一連の光景。あの時、僕は集合住宅のベランダから、女性が飛び降りたような光景を見て、その落ちたと思った場所に父の姿を見たのだ。
『案件が重なって、たまたまね』
そう言ったテルの言葉も思い出す。あの場所に居た父。青い鳥の情報が集まった印の場所。
まさか。この青い鳥探しとあの女性は繋がっている?
どうして僕はこれまで気付かなかったのか。妙に確信じみたものを感じ、今すぐその場所に行きたくなる。
「隼人、恵利華。まずはその集合住宅に一度行こう。ここな、しずくさんは待機してて。場所が分かったら教えるから、後から合流してほしい」
「なんか分かったのか?」
「確証はないけど、ちょっと気になることがある。移動しながら説明するよ」
そうして僕たちは、辻村家から飛び出した。
*
ペンダント装置のマイクボタンをオンにしたまま、僕は父に会った日のこと。テルから聞いた父のことを5人に説明しながら現地に向かった。
「玲人先生も評議会と関わっていたんですね」
ペンダント装置から、しずくの声が聞こえてくる。
「結人くん、ずるいよ!先生に会ったなら、私にすぐに教えて欲しかったのに!」
声しか聞こえないけれど、ここなのふてくされた顔が想像できた。
「ごめん、ここな。会ったといっても、ほんの一瞬だったんだ。テルがこれからは父さんのことを気にかけてくれるって言ってたから、今後教えて貰ったときはここなにも伝える」
僕はここなを宥めるように、ペンダント装置に向かって謝る。以前会った時のことは実は敢えて伏せていた。前回にしても、今回にしても、父の状況が不穏だったからだ。ここなに余計なことを話して、変に心配させたくない。
ただでさえ、ここなは思いのままに突っ走ってしまうところがある。そもそも僕自身だって、父の身に起きていることは掴めていない。説明できないのに、ここなを混乱させたくはなかった。
「特命がどんなものかも教えて貰えなかったの?」
「あまり詳しいことは教えてくれなかった」
「テルっていつも、全部は教えてくれないのよね」
「まぁ、仕方なく教えられないこともあるんじゃないか」
隼人が達観したようにテルのことをかばう。
それが『星ノ川銀河評議会』の判断なのか、宇宙人としてのルールなのか、地球人である僕たちに関わるにあたり、一定の線引きがあるようには感じていた。
「おじいさんが使っているアカシアもそうなんですが、助言される人側にも、それに必要なタイミングというものがあるんだそうです」
つまりは受け取る側も心の準備ができていなければ、助言も意味をなさないということなのだろう。
「俺、アカシアについて調べっちゃったんだけどさ。こっちの世界だと、アカシックレコードって呼ばれてるみたいだな。結構な情報量らしくって、一気にその情報を降ろしたっていう人は、その情報量の多さにしばらく放心しちゃったらしいぜ」
「脳がついていけないってこと?」
「どうなんだろうな。結局のところ、その情報を全て理解するのに、数ヶ月は掛かったんだって」
そんなこんなな会話をしているうちに現地に到着した。僕はコンパスの数値をここなたちに伝える。ここなたちもそのうち合流してくれることだろう。
僕は父の姿を見た位置から、件のベランダを見上げた。そこには誰も居なかったから、周囲を見回す。ところどころ、大きな木は植えられているが、鳥がいる気配は感じない。近場の木から順々に範囲を広げていくうちに、ある大きな木の前でその木を見上げている女性の気配に気が付いた。
その女性の姿を目視で確認できる位置まで移動する。髪が長くて顔立ちが整っている大人の女性だった。だけど立ち振る舞いには幼さも感じる。僕が彼女を遠くからじっと見ていると、隼人が僕に近づいてきた。
「どうかしたのか?」
「いや、あの女性が木を見上げて何をしているんだろうって気になって」
僕は隼人に、その女性を教える。
「ちょうどいいじゃないか。あの人にも、『青い鳥』を見たことないか、聞いてみるぜ」
隼人は初対面の人に声をかけることを躊躇わない。すぐさますたすたと彼女の元に歩み寄っていく。そのあとを僕も追いかけた。
「すいません。この辺で青い鳥を見たことはありませんか?」
隼人が丁寧に敬語で尋ねると、彼女からは意外な言葉が返ってきた。
「あなたたちも青い鳥を探しているの?」
「もしかして、あなたも探しているんですか?」
「そうなの。実は飼っていた青い鳥がだいぶ前に逃げちゃったの。あの鳥は預かった鳥だから、見つかったらいいなとは思っているんだけど、やっぱり難しいのかなっと最近は諦めかけてて。でもやっぱり気になっちゃって、それでついこうして木を見上げちゃうの」
飼っていた青い鳥が逃げたというワードに、今回の任務の内容が重なった。僕たちが探している青い鳥がこの女性の青い鳥である可能性はあるかもしれない。僕は彼女に尋ねる。
「あなたの青い鳥はどんな鳥ですか?」
「あ!写真があるよ!」
彼女はスマホを取り出し、写真に映った青い鳥を見せてくれる。近寄ってきた恵利華に、その青い鳥の写真を見せると、恵利華は驚いた顔をした。
「……この鳥かもしれない」
「色が違うのか?」
「写真だから何とも言えないけど、うっすらだけど纏っている色が明らかに違う気がする」
まさに僕たちが今探している鳥の特徴とも似通っていたから、僕たち3人は食い入るように写真の中の青い鳥を見てしまう。
「あの……。ついででいいの。あなたたちが青い鳥を探しているなら、こんな青い鳥を見かけたら、教えて貰ってもいい?私、この集合住宅に住んでいるの。あの辺りの部屋」
彼女は集合住宅のあるベランダを指さす。その場所は、以前、僕たちが検証しにきたあのベランダだ。
「結人。なんかビンゴっぽいな」
「ああ。僕たちが探しているのは彼女の青い鳥だろう」
彼女に連絡先を教えて貰い、彼女から、更にその鳥の特性や性格も詳しく教えて貰った。神経質なところがあり、彼女以外の人が近づくと隠れようとするという話を聞き、見えやすいところには居ない可能性が高くなった。
「葉っぱが多めな木を中心に見ていこう。ねぇ、恵利華。鳥の姿が直接見えなくても、鳥の纏っている色は見えるの?」
「そうね。纏っている色が薄緑色だったら、なんとも言えないけど、見えやすい色ならば分かるかも」
そこは鳥の纏う色次第というところか。
「結人くん、おまたせ!」
ここなが僕の姿を見つけて、嬉しそうに走ってくる。
「そっちはどんな景色?」
「森林の中。地面はそこまで起伏はないし、歩ける場所だから安心して」
「そっか。それなら良かった」
「ペンダント装置からは声が聞こえるのに、結人さんたちの姿が見えないのが残念です」
後から歩いてきたしずくが、キョロキョロしながら辺りを見ている。
「それは俺も同じだぜ。だけど、声が聞こえるってだけでも全然違うよな」
「そうね。結人の動きを見て、想定はできるしね」
隼人と恵利華に、僕はここなとしずくが立っている位置を二人に教える。これまではしずくの姿は見えるのに声は聞こえなかった。それがペンダントのおかげで聞こえるようになって、かなり有難い。
「みんなの姿と声が分かる僕が、そこはフォローするよ」
「ああ、頼むぜ」
「そしたら、葉っぱが生い茂っている木を中心に、見て回っていこうと思う。僕は鳥の気配を探ってみるよ。恵利華は変わった色が木々の中で放たれていないか気にして見ていって。隼人は、ここなたちに僕らの位置を随時、教えてやってくれないか。ここなたちは僕が見えなくなったら、その位置情報を元に、安全なルートを選んで合流してほしい」
「おっす」「りょーかい」「はーい」「分かりましたー」
僕たちは隼人がまとめてくれた地図を見ながら、生い茂った木を探し始めた。
*
「あ……。あの木の中」
しばらく探し回っていたとき、恵利華が小さく声をあげた。
「見つけたのか?」
「見つけたかもしれない。見たことない色が木の中で光ってる」
次回更新は明日17時です




