青い鳥の捜索開始
数日後、僕たちの元に届けられたのは小型の装置だった。緯度と経度がデジタルで表示されるコンパスで、どの世界に居ても互いに通信ができるトランシーバーのような機能もついていた。それを5人分、用意してくれた。
デジタル画面の裏側は青い宝石が埋め込まれていて、フラワーオブライフと呼ばれる幾何学模様が描かれているから、パッと見はお洒落なアクセサリーだ。
各々が装置を持ちやすいようにと、しずくが金具を付けてアレンジしてくれた。隼人はスマホのストラップ。ここなは父が落としたペンダントと合わせられるネックレストップ。しずくはブレスレット。恵利華はイヤーカーフ型のイヤリングにした。僕はそういうのに疎かったから、最後まで悩んで、無難にキーホルダーにしてもらった。普段はズボンのベルトループに引っ掛けている。
同じ地球上ということもあり、コンパスは共有できるだろうとは想定していたけれど、まさか世界を跨いだ状態で5人の声を届け合えることができるのは、驚きだった。
テル曰く、姿を映し出すのは各個人の波動が関係してくるから簡単ではないけれど、声や音は誰でも発せられる周波数なので、特有の周波数帯域にそれらを集約さえできれば簡単だそうだ。以前、石膏像が割れてしまった時も音が共有されてしまったことがあったくらいだし、条件が整えば可能なのだろう。
隼人の情報収集能力は、正直さすがだと思わされた。僕たちが探している『青い鳥』であるかは別として、手元にコンパスが届いた時点で、青い鳥を見かけたという情報は何件か集まっていた。
僕と隼人、恵利華は、青い鳥が逃げ出した日以降に青い鳥を保護したという人に会ったり、ある公園に住み着いているという青い鳥を見に行ったりと、隼人が集めた情報を元に、そこに出向く日々が始まった。
「『青い鳥』って聞くと、『幸せの青い鳥』を思い出すよな」
今回も集めた情報を元に現地へと向かっていると、隼人がそんな話をし始めた。
「童話よね。青い鳥は幸せの象徴で、兄妹が青い鳥を探しに旅に出たけれど、その青い鳥は自宅に居て、幸せはすぐ傍にあったっていう話よね」
敢えてしっかりと読んだことはないけれど、僕もざっくりとそんな童話であることは知っていた。隼人は父子家庭で妹がいることもあって、本を読んであげる機会が多かったらしい。それもあって、『青い鳥』の童話もしっかり読んだことがあるようだ。
「要約すれば、そのとおりなんだけどな。あの話って奥が深いんだぜ」
そう隼人が言ってきたが、僕にはまったく分からない。
「奥が深いって、どういうこと?」
「その自宅に居た青い鳥は、物語の始まりと終わりで登場する。それはもちろん同じ鳥のはずだろう?だけど、その鳥の色が違って見えたっていうことが大事なところなんだよ。その青い鳥の色が幸福を指すのだとしたら、つまり、幸福は自分たちの捉え方、見方次第っていうことなわけだ」
恵利華が考え深そうに、隼人のその言葉を繰り返すように呟いた。
「自分たちの捉え方、見方次第……ね」
「俺たちが探している『青い鳥』も、もしかしたら見る人によって、色が変わるのかもしれないな!」
隼人がウキウキした目をする。恵利華にだけ分かる特別な色の鳥。隼人の話を聞いて、僕も探している青い鳥がどんな鳥なのか楽しみになってきた。
3.
その恵利華が見たらすぐに分かるという鳥には、すぐには会えなかった。
水辺のある公園でみかけるカワセミ。海辺でみかけるイソヒヨドリ。彼らは雄大に空を飛び回っていたが、恵利華は空を仰ぎながら、「……うーん、違うと思う」と保留。
鳥かごに入っている青いインコを見れば、「違うわね」と即答。テルが言っていた『みたこともない色』だと確信できる鳥は、青くない鳥を含めても、なかなか巡り合わない。
数週間経過し、僕たちの気力が下火になりそうになった頃、ある一定の住宅街で青い鳥を見かけたという情報が増えていることが発覚した。その鳥を見かけた場所は、みな同じ場所ではないけれど、星種町全体で考えれば、範囲は狭い。大きさはスズメよりも小さくて、すぐに木の中に隠れてしまうため、青い鳥には間違いないが見えたのは一瞬だということだった。
僕はここなとこの町を観光するために使っていた地図をリビングのテーブルに広げた。
「ひとまず、その鳥と思われる情報を地図にまとめていこう」
隼人にはその鳥を見たという人から、場所を教えてもらい、地図に印を書き込んでもらう。それと並行して、僕と恵利華はその付近の住宅街を歩いて回ってみることにした。
ここなとしずくは、コンパスでそれらの場所を照らし合わせ、自分たちの世界を見て回ることにしたようだ。
「結人くん。私たちの世界だと、その辺りはあまり人が入らない森の中だよ」
テルが用意してくれたペンダント装置から、ここなの声が聞こえてきて、続けてしずくの声も続く。
「いろんな鳥さんがいるみたいですね。姿は見えないけど、鳥さんの声はたくさん聞こえます」
「まだ場所を特定するには時間がかかると思うぜ。まだまだ範囲が不確定すぎる」
辻村家で地図をまとめている隼人の声も入ってくる。こうして別々の場所にいる3人の声を聞くことが出来るのはなんとも便利なんだろう。スマホを持っていない僕は時代遅れにも感動していた。
「隼人がそう言っていることだし、人が立ち入らない森の中なら、まだ二人は無理に動かなくてもいいよ」
僕は二人を心配して、ペンダント装置に向かって話す。
「いいのいいの。私たちも練習が必要なんだ」
「そうです。特訓です」
「特訓ってどういうこと?まさか、テルに大変なことを頼まれてる?」
そういえばテルは、2人が鳥を保護できるように直接教えると話していた。それがどういうものか聞いていなかったけれど、特訓をしないといけないものなのか。
「ここにはたくさん鳥が居るから、練習するにはちょうど良さそう。3人が『青い鳥』を見つけた時に、私たちがしっかりと活躍できるようにしておかないとね!」
「そうですね!でも、本当にできるのか、すごく楽しみですね!」
「本当ね!」
特訓と聞き、心配になっていたが、ペンダント装置の向こうから聞こえてくる2人の声は、とてもウキウキしていた。なんだかとても楽しそうなことに思えて、何をするのかとても気になってくる。今すぐ、ここなの場所に行きたくなってきた。
「恵利華。僕は2人の様子を確認しに……」
僕がそう切り出そうとすると、恵利華にジトっと睨まれた。
「結人は私と、こっちの世界で青い鳥を探さないといけないでしょう?」
了承を得る前から却下されてしまった。
「……あはは、ダメか」
残念だけど、恵利華がそう言ってくるならば、勝手なことはできない。
「動機が不純なんだから……」
恵利華はちょっと拗ねるような、怒っているような顔をして、僕を見る。
「ふ、不純?……どうしてそうなるんだ」
「不純は不純よ」
僕はただ、ここなたちが何をするのか気になって見に行きたいと思ったのに、どうしてその思いが不純の色を示したのか、わけが分からなかった。僕がよく分からず眉間をしわに寄せていると、恵利華は僕から目を反らす。
「と、とにかく。私たちは鳥を探すことの方が優先よね?」
確かにまずは青い鳥をみつけないことには何も先に進まない。それは間違っていないから、僕は恵利華の言うとおり、ここなたちのところに行くことを諦めるしかない。
そんなこんなで、しばらく2・2・1で行動していた僕たちだったが、地図の印が重なってきたのは、それから数日経った頃だった。
次回の更新は明日17時です。




