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視えちゃう僕は、異世界の君と、この世界の謎を解く  作者: HiKaRi
◆第二部◆ 第三章 Spirit Photo
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楓が隠していたこと


 そして放課後、楓に連れていかれたのは、この町にある病院だった。


 病院内にある入院病棟に連れてこられた僕たちは、病室のベッドで眠っている女性に近づいた。


「私の姉の(あずさ)姉さん。もともと体調は良くなかったんだけど、雨の中、傘をささずにずっと外に居たらしくて、それで倒れて入院したの。今は薬の影響で眠ってる」


「雨の中、傘をささずに?」


 僕はふと子猫を預けられた女性のことを思い出して、そして眠っているその女性をよく見た。


「……あ。子猫を僕に預けた女性だ」

「え?あの子猫?」

「え?梓姉さんのこと、知ってるの?」


「こないだ大雨が降った日、学校の帰り道に捨てられた子猫が居て、その子猫が濡れないように路地でずっと座り込んでいたんだ。それで体調を崩しちゃったんだね」


 あの時、彼女の身体はとても冷たくて、服もびっしょりだった。子猫はそのおかげで今も元気だけど、代わりに彼女が倒れてしまったのだろう。


「……そっか。そんなことがあったんだ。でもたぶん、子猫はキッカケだったんだと思う。梓姉さんは敢えて雨に濡れていたんだよ」


「敢えて雨に?どうして?」

「あの写真立てに飾ってある写真、見える?」


 楓が病室の棚の上に置かれている写真立てを指さす。その写真立てに飾られている写真を見ると、どこか見たことがあるような男性と楓の姉・梓が映っていた。


「ねぇ、この男性。裏山の幽霊と似てない?」


 恵利華がそう言って、僕もそうかと納得する。天海を実際に見ている僕としては同一人物とは言えないけれど、確かにその写真の男性は天海に似ている。


「梓姉さんの恋人なの。病気でね、半年前に亡くなったんだ」


「……そうなのね。じゃあ、あの幽霊に会わせたい人って、梓姉さんのことなのね?」


「うん。梓姉さん、恋人を亡くしてから、すごく塞ぎ込むようになって、たぶん後を追いかけたいと思ってるの。だから……」


 敢えて雨に濡れていたということなのか。


「私、恵利華にあの幽霊の写真を見せてもらって、やっぱり似てるって思った。だから、梓姉さんの恋人の幽霊なんじゃないかって思ったの。

塞ぎ込んでいる梓姉さんのことを思って、成仏できずに居るのかもって。もしそうなら、ちゃんとサヨナラを言ってもらえたら、梓姉さんも変わるんじゃないかって思って」


「そうだったんだ。お姉さんが元気がないのを見ているのは辛いわよね」

「……うん」


 恵利華が泣き出した楓の身体を抱きしめる。そして恵利華自身も楓の色に同調してしまって、今にも泣きそうな表情をしていた。


 * * *


 雨のしずくがパラパラと傘にあたる。その優しく軽やかな音が恵利華の心を落ち着かせてくれたらいいのに……。


 僕の隣を歩いている恵利華は赤い傘の下でさっきからずっと静かで、こちらから気軽に話しかけるのも気が引けるくらいには、重ための空気を纏っていた。   


 楓は落ち着きを取り戻した後、「あの幽霊は、梓姉さんの恋人ではないと分かったから。私、どうしたいのか、もう一度、考えてみる」と僕たちに言った。


 天海の言葉は伝えたのだ。あとは楓の解答次第で、あの『CWC(クロスカ)』をどうするかを考えることになるだろう。


「ねぇ、結人」

 恵利華がやっと、静かな声で僕に話しかけてくれて、僕は恵利華の傘をのぞき込む。


「……楓のお姉さんの纏っている色がね」

「うん」

「とても暗めのグレーを放ってた」


 暗めのグレー。阿砂もグレーだと聞いていたけれど、とても暗めということの違いは何だろうか。


「その色はね、絶望の色なの」

「絶望……」

「お姉さんは、生きる気力がぜんぜん残っていない」


 楓の話を聞いているだけでも、姉が恋人を失ったことの悲しみに耐えられなくなっているのは伝わってきた。


『でも、私は大丈夫。それでいいの』


 あの雨の日、傘を差しだした僕にそう言った彼女の言葉の意味が今なら分かる。氷のように冷えていた濡れた彼女の体温。


「このままだと、本当に……」

 恵利華はその後の言葉を閉ざした。


 僕はその先の言葉の意味を受け止めて、自分を落ち着かせるために深呼吸する。


天海と出会ったことで、命の終わりについての見方は少し変化した。

この命を終える日が来たとしても、それで終わりではない。この身体でまっとうする生活が無くなったとしても、まだ別の形でその先が存在する。


 だけど……。今この瞬間の生活に絶望を感じながら、その命を終えたとき、その魂はまっさらな新しい生活を求めることができるのだろうか。


 しずくの父親は自ら今の生活を終え、転生することを強く願った。だけどその理由は絶望からではない。


きっと楓の姉が放っているような色とは真逆の眩しいくらい光のある色を放って、まっさらな新しい生活を求めたはずだ。


「……お姉さんはまだ生きてる。それなら僕は、その絶望の色が変化することを願いたいな」


 どんな形で死ぬとしても、絶望ではなく希望を持って、この身を去りたい。


「……うん、そうよね」

 傘の下から、恵利華の小さな声が返ってくる。


「私が楓とお姉さんの感情に取り込まれちゃったらダメよね」

 恵利華は傘を上げ、空を見上げる。


「色が見える私にできることが、もしかしたらあるかもしれない」

 雨に濡れたのか、それとも涙なのか、恵利華は頬に一筋の光が流れる。そして恵利華は僕に笑顔を作ってくれた。


 * * *


 翌日。僕と恵利華は、楓のことを隼人に話した。

「そういうことだったのか」


 隼人があまり見せない暗い顔をする。楓の姉が抱えている辛さ。それを見続けている楓の辛さ。そのどちらのことを考えても、僕たちの気持ちだって重たくなってしまう。


「どうしたら、お姉さんの気持ちを軽くしてあげられるんだろう。あの写真の男性が実際に恋人じゃないとしても、会うことが出来たら少しは楽になれるものなんだろうか」


「だけどよ。もし後を追いかけたいと思っているなら、その幽霊が恋人だって思っちゃった場合、一緒に居たいって思って、裏山に飛び込む可能性だってあるかもしれないだろう」


 そんな最悪な事態を招く可能性があるのなら、安易に会わせるのは危ない。


「みんな」


 僕たちが項垂れて学校の廊下で話していると、そこに楓が近づいてきた。そして、真面目な顔で僕を見る。


「柏木くん。あの幽霊さん、『私が探している人ではないけど、それでも会わせたいですか?』って聞いてくれたんだよね?」


「ああ」


「私、梓姉さんに、どうしてもまた笑って欲しいの。だから、やっぱり、あの幽霊さんと楓姉さんを会わせたい。

こんなお願いするの、バカげてるんだろうけど、幽霊さんに恋人のフリをして欲しいって伝えて欲しいの。このまま何もしないよりは、きっとその方がいいから」


 楓は僕にそう言った。


 * * *


 僕は楓の思いを天海に伝えるために、一人でしずくの世界を訪れた。そして天海に『事の成り行き』を話す。


 天海は楓の願いを聞き入れてくれて、僕たちにある事を提案してきた。僕はそれを受け入れ、僕たちがこれからどうしたらいいかも話し合った。


 帰り際、僕はひとつ気になっていたことがあったから、天海に尋ねる。


「天海さん。魂が望みどおり転生できるとして、もし楓さんの姉が死ぬことを選んだ場合、その魂はどうなるんですか?」


 死が終わりではなく、また新しい人生を始められるのであれば、今よりも楽になるという可能性でもあるのかもしれないと、姉の行末について考えあぐねいていた。


「彼女が死ぬことを選ぶその理由は、亡くなった彼に会えないことの辛さですよね。また彼に会いたいと思っている。


それを生まれ変わった後に、別の人生で会って一から始めるという望みであれば、可能性はあるでしょう。

ですが、亡くなった彼そのものに会うことはもう出来ません。


その限定した彼を望んで命を絶つのであれば、その彼の魂とは巡り会えないループに落ちるでしょう。


彼への悲しみを手放さない限り、そのループから抜け出せなくなります」


「そうなると、明るい未来になるというわけではないのですね」


「そうですね。亡くなる瞬間、その時の『心』が次の人生に反映されます。


ですので、人生半ばで『転生』を願う時は注意が必要です。私のような役割はそのためにあるのでしょうね」


 そう言った天海の表情は、天使のように穏やかだった。


次回、姉・梓の解決編へ。

更新は明日の16時です。

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