世界を変換して異世界転移する
「しずくさんは僕が見えないから、伝言をお願いしたい。
まず2人はこの門から中に入って、開かない白い門の内側まで行って欲しい。そこでしずくさんだけを待機させて。
ここなはしずくさんを待機させたら、その白い門の外側に周って、僕が来るのを待ってて」
「分かった。しずく、こっち」
ここなはしずくを連れて、門の扉をすり抜けて、中へと入っていく。
「隼人、頼むから、絶対に中に入るなよ」
「ちぇ~」
「恵利華、隼人を頼んだ。僕が中に入ったら、この門の鍵は自動で閉まると思うんだけど、ちゃんと閉まってるかを確認して欲しい」
「分かったわよ。それが私の役目でもあるしね」
「結人、戻る時はどうするんだ?」
「辻村家から帰れるから大丈夫」
「あの男性に会えるといいな」
「ああ。ありがとう、2人とも。ここまで付き合ってくれて」
「いいのよ。本当に門が開くのか、門番として見たかっただけだから」
「恵利華!俺、恵利華が門を開けるのも見てみたい!」
「馬鹿言わないでよ」
「いいじゃんかー」
恵利華と隼人がふざけ合っているのを見ながら、ここなを待っていると、「結人くん、おっけーだよ」と、ここなが目の前の門の扉からすり抜けてくる。
「じゃあ、試してくる」
「おおー。いってらー」
僕は少し開いていた扉をさらに押し、門の先へと足を踏み入れた。
門の中へ僕の身体全体が入ると、扉は自然と閉じていった。閉じた扉を内側から押してみてもビクともしない。鍵はしっかりと掛かったのだろう。僕は竹林の道の中を奥へと進む。
竹林の中には誰の姿も映っていないことを確認しつつ、五の鳥居の近くまでたどり着くと、しずくが立っているのが見えた。しずくは手持ち無沙汰に、竹林の中をキョロキョロと眺めている。
僕はしずくの傍にある赤い五の鳥居の中側を見る。そこには以前見た時と同じように、何もない空の世界があった。この中を通り抜けたら、しずくの世界に転移できるはずだ。
机の引き出しに入っていた書類には、僕が望んだ人物の世界へ行くためには、この竹林の道の中にその人物だけを配置しておくことが条件だと書いてあった。
僕は思い切って、五の鳥居の中へと入る。以前ように、僕の周りが真っ白に光り輝き、ゆっくりと周囲が変化して、色、音、景色が創られた。
「結人くん」
景色が新しく創られていく中、目の前にここなの姿も映し出された。僕は周囲を見回す。右前には光り輝く神殿があり、左側の奥は広大な自然が広がっているのが見える。僕の世界ではない。
「ここなたちの世界には転移できたよ。ここな、しずくさんを呼んできてくれないか?」
「うん、分かった」
ここなが反対側の門の方へ走っていく。ここなの姿は特別、変化は感じない。しずくから見えているここなの姿に変化が起きたりするのかとも思っていたのだけど、それは無いようだ。
僕は改めて、周囲を見渡す。神殿のような建物も、以前見た時と変化を感じなかった。その先を歩き、周囲にある天使の像や建物を見ても、特別何か気付くことは無い。
そもそも詳細な違いを確認できるほど、ここなの世界を知っているわけではないから、よほど大きな違いがなければ、僕は気付けないのだろう。ゆっくりと歩いていると、ここなとしずくが後ろから追い付いてきた。
僕はここなに触れ、しずくの前に姿を現す。
「しずくさん。協力してくれてありがとう」
「いえ、それはいいんです。でも本当に私の世界に来たんですか?」
「景色の違いが分からないから、そうだと断言できないけど、その方法は試したよ。それを確かめるには、しずくさんの記憶が頼りかな」
「おじいさんにも聞いてみたら、あの男性は確かに実在しているってことでした。だから、例の場所に行ってみるのがいいかもしれません」
「結人くん、道順はどうしたらいい?」
「任せるよ」
「しずくは裏山にはどうやっていつも行くの?」
「その裏山には小さい頃におじいさんと行ったきりで、一度も行ってないんですよ」
「え?そうなの?」
「だから、行き方もあんまり覚えていないです」
「そうなんだ。じゃあ、ここから一番行きやすいルートでいいね!」
ここなとしずくが三の鳥居の階段を下り始める。僕は2人から少し離れて、ゆっくりと後をついていった。
ここなが選んだルートは果樹園を抜ける前回とは反対側の麓から山へと向かうコースだった。
「この先は、もうずっと来ていないです」
しずくが辺りを見回す。
「前に来た時のことは覚えてる?」
「そうですね。なんとなくですが、記憶はあります。あの時は、おじいさんに手を繋いでもらいながら、この道を歩いていきましたね。この道を上り切ったところに白い道が伸びていて、建物があったはずです」
「私がいつも見ている景色は、この道を上り切ったところには何もなくて、見晴らしのいい丘なんだけどな」
ここなの言う景色は僕も見ていた。しずくの世界に僕が来た場合、この記憶違いは、どう映し出されるのだろうか。
しずくが少し前を歩き、すこし勾配のある道を進む。だんだんと道の上が見えてきて、その奥には確かに、こないだは無かったものが在るように見える。
「あ!ここです!こんなところでした!」
しずくが見えてきたものを見て、声をあげる。僕はしずくに近づき、しずくの指さすものを見る。そこには確かに、こないだは無かったものがあった。
それはこれまで見てきた建物よりも小さい建物が丘の側面に沿うように存在し、その建物から僕たちの居る道のところまで、白いタラップのような通路が伸びていた。
「え……、嘘。本当に?」
ここなが声を出す。
僕がここなの方を見ると、ここなは目を見開いて、すごく驚いた顔をしていた。
「ここな?」
「完全に登り切るまでは見晴らしのいい丘だったはずなの。なのに、登り切ったところで瞬きした瞬間、景色が一瞬で変わって、建物がそこに出てきた」
ここなが目を見開いたまま、そう言う。
「変わった瞬間が見えたの?」
「うん。私、意識して、じっと見ていたの。だから気付いたんだと思う。意識して見てなかったら、『昨日は無かったものが、今日は在る』くらいにしか思わなかったかもしれない。それくらいに、あっさり変わった」
つまり、しずくと建物があるはずだとこの場所に来たことによって、ここなの世界の景色は、しずくの景色に同調したようだ。
以前、空間の切れ間が井戸にすり替わったのと同じように、認識の相互調整が起きたようだ。
その建物は丘の側面に沿って、崖の上に浮かぶように建っていた。
僕たちの世界で心霊写真が撮れる位置には、その建物の窓が配置されている。つまり建物の中に居た男性の姿が、写真に映り込んでいたのだろう。
「今は男性の姿が見えないね。中に入ってみよう」
「うん!そうしよう」
僕たちは建物の入り口へと向かった。
「すみませーん。誰かいらっしゃいますかー?」
ここなが建物の中に入ったところで、声を出す。
すると、「はい。どなたでしょう?」と白い神職の服を着た男性が近づいてきた。その姿はこれまで見えていた姿と同一人物だ。
「私、来條の孫のしずくです。幼い頃、ここに来たことがあって、相談したいことがあってきました」
しずくが最初に名乗り出てくれる。
「私は来栖ここなです」
「来條さんのお孫さんのしずくさん。そして、あなたはここなさんですね」
「はい」
「そして、そちらの彼は?」
「え……」
僕はここな以外の住人からは見えないと思っていたから、2人から少し離れた場所で、ひとまず様子を見ようとしていた。だけど、彼に僕は見えるらしい。
「僕は柏木結人です。僕のこと、見えるんですか?」
「ええ、見えますよ」
こっちの世界で、ここなやテル以外に僕が見える人に会えるとは思っていなかった。
「僕は、しずくさんの世界の住人ではなくて、世界を跨いで来たんです」
彼はおそらく服装からして、来條と似た神職のはずだ。下手に隠すよりも、真実を言ってしまった方が話が早い気がする。
「……世界を跨いで来られた。そうですか。ちょっとお待ちください」
彼はその場で目を瞑り、来條と同じように軽く空を仰ぐ。おそらくアカシアを読んでいるのだろう。
「……はい。そういうことですか。評議会が関わっている方ですね」
どうやら彼は、星ノ川評議会の存在もちゃんと知っているようだ。
「申し遅れました。私は天海と申します。それで評議会の方々が、今日はどのようなご用件でしょうか?」
「えっと…。天海さんは神職の方ですか?」
「ええ、そうですね。神職の一種です。ただ来條さんとはまた違いますね。私は魂を天に見送ることが役割です」
「魂を天に見送る?」
次回の更新は明日の16時です♪




