幽霊に会いたい
2.
楓が恵利華に相談した内容。それは学校の裏山に現れると噂になっている幽霊に会いたいということだった。
その幽霊については隼人もよく知っていて、『星種町オカルト現象No.4学校の裏山の幽霊』と既に認定されていたらしい。
何故、そんなに有名になっているのかというと、ある場所で写真を撮ると、いつも同じ男性が映り込むからだそうだ。
「心霊写真って、お祓いのために神社に持ち込まれるのよ。裏山の心霊写真は定期的に持ち込まれるから、私もその幽霊の噂は知っていたわ。楓もその幽霊のことは知っていて、お焚き上げ前の写真を見せて欲しいってお願いされて、見せてあげたの。それがこの写真」
恵利華がテーブルの上に3枚の写真を置く。そのどの写真にも、広大な山の景色と白い服を着た男性が映り込んでいた。男性の周りは太陽光の反射なのか白く光っている。映り込んでいる位置やサイズ、角度などは違うが、よく見ると確かに同じ男性のように見える。
「すげぇーー。しっかりと幽霊が映ってる!俺が撮影したときは、映らなかったのに!」
隼人は写真を見て、目を輝かせた。すでに撮影を試みているところもまた、さすがオカルト好きだ。
「そもそも、この男性は実際にその場所に居る人じゃないの?」
男性の周りはぼやけていて背景との位置関係がハッキリしないけれど、単に映り込んでしまったとういうことではないのだろうか。
「裏山のすぐ横は崖なんだ。幽霊が映るっていう場所は崖の空中なんだよ。どう考えても実際に人が居るとは考えられない」
隼人は熱のこもった声で否定する。
「ねぇ。幽霊って、何だっけ?」
3人の会話をずっと聞いていたここなが、話の輪に入ってくる。
「前に結人くんが私のことを幽霊かって聞いたことあったよね?」
確かにそんなことがあった。ここなの存在がどんなものなのか当時は分からなくて、幽霊か妖怪かと思っていた頃のことだ。
「幽霊って、ここなの世界では聞いたことがない?」
「うん。結人くんと会うまでは、そんな言葉を聞いたことがなかったよ。しずくもそうだよね?」
「はい。今日初めて聞きました」
「へぇ、そうなのか!俺たちの世界でも、本当に存在するかは証明されていないけど、恨みや強い未練を残して死んだ魂が、この世に留まってしまったものを幽霊っていうんだよ」
隼人が2人に説明してくれる。
「恨みや強い未練ですか」
しずくがいまいちピンとこない声を出す。
「ねぇ。恨みって、なあに?」
そして、ここなは、そう言って首を傾げた。
「恨み?うーんと、そうだな。他人が憎いとか、攻撃したいとか、そんな感情か?」
隼人の言葉に、ここなとしずくは更に、キョトンとした表情をする。
「誰かに対して、そんな風に思うことがあるの?」
「憎いって、どんなものなんですか?」
ここなとしずくは、さらに訳が分からないといった感じのようだ。
僕も滅多に誰かを憎いとか攻撃したいとか思うことはないけれど、二人にはそもそも、そういう考え方すらないのだろうか。
「二人の感情の色を見ていて、あまり寒色系の色を放たない二人だなって、私も思っていたのよ。きっと二人の住んでいる世界の人たちって、そういう暗くてネガティブな感情がそもそも少ない人たちなのかもしれないわね」
恵利華の言葉に僕は妙に納得した。確かにここなの世界は、住人みんなのために進んで奉仕作業することが普通の暮らしをしている。
動物すら狩らないというのだから、人を攻撃するということもないのだろう。幽霊を作り上げる感情がそもそも無いのだとしたら、幽霊自体も、その概念すらも生まれないのかもしれない。
「あの……、この男性なんですけれど……」
しずくが写真の男性を指さして、遠慮がちに話し出す。
「私、なんとなくですが、見たことがあるような気がしているんです」
「しずくちゃん、マジ?」
「その……。私が小さい時のことだから、絶対とは言えないんです。でも、この男性と何回か会ったような気がするんです」
「しずくさんの記憶が確かなら、その男性は幽霊じゃなくて、しずくさんやここなの世界の住人ということになるね」
「じゃあ、実際に存在しているってことになるのか?」
「それなら、楓の願いを叶えてあげられるかもしれない?」
恵利華の目に微かな希望の光が帯び、わずかに身を乗り出す。
「本当にそうなら、できないというわけではないんだろうけど……」
だからといって、引き合わせていいものなのかは分からない。
「そもそも、楓ちゃんはどうしてその幽霊に会いたいなんて言ってるんだ?恵利華がわざわざ俺たちに相談してきたくらいだから、理由があるんだろう?」
確かにそうなのだ。普通、幽霊に会いたいと会話になったとしても、そんなの無理だろうで済む話。恵利華だって、まともに取り合うようなタイプじゃない。
4人の視線が恵利華に集まる。
「楓の話では、以前、山で遭難した時にその男性に助けてもらったことがあるんだって。だからそのお礼が言いたいってことだった。でも……、それは嘘なの」
恵利華が神妙な顔で、目を少し触れる。
「それなら尚更、どうして相談に乗ろうなんて思ったんだ?」
「楓が嘘をついたのは、これが初めてだったのよ。楓とここ最近一緒に過ごしていて、楓の色を見続けていて、この話をしてくれたときの色がすごく気にかかった。楓は付かなくてもいい嘘は絶対付かないわ。それなのに、嘘をついてまで私に、しかもこんな相談をしてきたってことは、結構深刻な事なのかなって思ったのよ」
「だから、どうにかしてあげたいと思ったんだ」
「ええ」
恵利華の楓の呼び方は、いつしか「さん」が無くなって、呼び捨てになっていた。それだけ、2人は仲良くなっている証拠。僕にとっての隼人というくらいに、恵利華にとっての楓は、やっと出来たかけがえのない友人なのだ。そんな友人が深刻に悩んでいるのが分かってしまうのなら、助けてあげたいと思うのは当たり前だ。
「だけどよ。恵利華は神社の娘だとしても、陰陽師とかじゃないんだぜ。幽霊に会いたいなんて、恵利華に相談してどうにかなるようなものではないと普通は考えるだろう。楓ちゃんはそのあたりの常識はある子だと思ったんだけどな」
隼人が首をかしげる。
「……あ、え……と、その。結人、ごめん」
隼人の質問に戸惑いをみせた恵利華が、僕の方に向かって、急に大きく頭を下げる。
「井戸の事件が起きたときのことを、楓にいろいろ追求されちゃって……。だから、辻褄を合わせるのに上手く言い訳できなくて、『私も結人も、不思議なものが視える』って言っちゃったのよ」
「え……。じゃあ、楓さんは僕の特異体質のことを知っているのか?」
「どんなものが視えるかまでは話してない。ただ私が気分が悪くなりやすい理由はそのせいだって話した。結人が私のことを結構気にかけてくれていたでしょう?それは、結人も同じだからって言ったら、楓はすごく納得してくれたの。ちゃんと口止めはしてあるわ!楓は誰にも言わないと思う!」
恵利華の申し訳なさと必死さを感じて、複雑な気分になる。
「結人、大丈夫か?」
「……ああ」
隼人の僕を心配してくれている声に、僕は動揺しそうになった気持ちを落ち着かせる。
もともと恵利華に、能力があっても理解してくれる友人を作ろうということで僕たちは協力していた。それにおいて、僕の能力も明かすことが功を奏すならば、それは受け入れた方が良いのだろう。
健也と桃花が事件に巻き込まれたとき、楓も一緒に動いてくれた。
健也と桃花はあの井戸の中のことは夢だったと思っているから良いのだけど、楓が僕たちの奇妙な会話を気になったとして、恵利華が嘘をついて誤魔化してしまったら、最初の目的とズレてしまう。
「僕も、楓さんは僕たちの能力を安易に話してしまうような人ではないと信じられるよ。それに能力のことを分かってくれる友人が恵利華にできたのなら、それがどんなに心強いかは、僕が一番分かっているから」
恵利華に微笑み返し、隼人に視線と移す。目が合った隼人は僕の気持ちが伝わったのか、途端に嬉しそうに笑った。
「おぉ、確かにそうだよな!」
そして、隼人は僕の肩をぐいっと引き寄せた。
「じゃあ、恵利華の大切な友人のために、俺たちで出来ることをやってみようぜ!」
隼人が声を張り上げた。
「私も協力する!ね!しずく!」
「はい。私もその男性が会ったことがある人なのか気になります」
ここなもしずくも、快くのってくれる。
「そういうことだから、僕も楓さんのために、いろいろ調べてみるよ」
僕はみんなの意気込みを感じて、恵利華に僕の気持ちを真っ直ぐ伝えた。
「……ありがとう、みんな」
恵利華がとても嬉しそうに笑って、僕たち4人は大きく頷いた。
次回の更新は明日16時の予定です。




