雨の日に訪れた出会い
1.
大きな雨粒がアスファルトの上を盛大に跳ねる。校舎や木々に当たる雨音が周囲の音をかき消す。
六時限目はまだ雨が降っていなかったから、帰宅時間まで持つと思っていたのに……。一気に降り出した雨は、僕を校舎内に引き留めていた。
折り畳みの傘は持っているけれど、普通の傘よりも小さい。激しい雨の中にその傘で立ち向かったら、身体はすぐに濡れてしまうだろう。
「よぉ、柏木。また明日なー」
「柏木くん、またね」
昇降口に立っていると、僕に気付いたクラスメイトが声をかけてくる。彼らに会釈と共に小さく手を振り返すと、彼らは強い雨の中を楽しむかのように、軽やかな声を上げて飛び込んでいった。
走っていく彼らを目で追う。もし今ここに、ここなが居たら、「結人くん、行くよっ!」と言って、雨足の強さなど関係なく、僕の手を取って走り出すのだろうか。そんなことを思い浮かべて、一人笑う。だけど今ここに僕一人。走り出すということはしない。
雨足がある程度弱まってから、僕はしとしとと降る雨の中を歩き出した。グラウンドにはさすがに誰も居ない。遠くから、運動部特有の掛け声が聞こえるから、体育館にはいるのだろう。
靴がびしょびしょにならないように、ゆっくりと歩く。通学路の途中にある小さな公園までたどり着くと、僕は再び、足を止めることになった。公園の外周を囲む低い生垣の横で、傘を指していない女性が1人しゃがみこんでいたからだ。
見たことのない女性だった。髪や服をびっしょりと濡らしているその女性の存在はパッと見、異様でもある。僕の世界の人ではないかもしれない。彼女の姿をじっと見る。透けているようには見えない。
この世界の人でないならば、声をかけても気付かないだろうけれど、一応、声をかけてみようか。放っておいたら、きっと風邪をひいてしまうだろう。
僕が彼女の方に近づこうとすると、彼女は僕の足音にビクっとして、僕を見た。視線が合う。どうやら同じ世界の人のようだ。それが分かると、僕はためらわずに彼女に近寄った。
「体調が悪いんですか?」
僕が尋ねると、彼女は声をかけられたことに驚きつつも、小さく首を振った。
「いいえ、違うんです」
そう言ってから、生垣の下の奥に置かれた空き箱に目を向けた。
僕はその空き箱に近づいて、中を覗き込む。そこには、捨てられたのであろう真っ白で小さな子猫が丸くうずくまっていた。
「雨に濡れて、可哀そうだと思って。風邪をひいたら大変でしょう」
彼女はそう優しく言うが、その言葉はそのまま返したい。
「あなたも風邪をひきます」
僕は1人しか入れない傘を彼女の頭の上に持っていく。
「優しいのね。でも、私は大丈夫。それでいいの」
それでいいっていうのはどういうことだろう。
「あ、そうだ」
彼女は箱の中に手を伸ばし、猫を抱き上げた。猫は元気のない小さな声で「にゃあ」と鳴くだけで抵抗しない。
「あなたがこの子を守ってあげて」
「え?」
彼女が僕の腕に、ぐいっと猫を押し付けた。その時、彼女の身体が僕に触れて、彼女の身体は氷のようにとても冷たいことに驚く。
それに引き換え、雨の中にいたであろう子猫はまったく濡れていなくて、温かい。彼女は雨が降り出した時から、もしかしたらこの猫の雨除けになっていたのだろうか。
「じゃあ、お願いします」
「え?ね、猫は、困る……」
「結人ぉ!」
その時、後方から声を掛けられて、僕は後ろを振り返った。大きな傘をさした隼人が悠々と歩いてくる。
「隼人」
「あれ?その猫、どうしたんだ?」
僕は慌てて、前方に視線を戻すも彼女の姿はない。僕の腕の中で子猫がもう一度小さく「みゃあ」と鳴いた。
* * *
「それで、飼えもしない子猫を病院に連れて行って、しかも預かることになっているわけ?結人はお人よしすぎるんじゃないの?」
辻村家の大きな空き箱の中に居た白い子猫を見た恵利華は、事情を話すと大いに呆れ顔を披露してくれた。僕はぐうの音も出ない。
僕の住んでいるアパートは動物を不可にしていた。大家である母が猫を家にあげてしまったら示しがつかないこともあり、母からは「本当にごめんね」と謝られた。分かっていたことだった。
隼人に相談したら、葵は喜ぶだろうけれど、面倒を見切れないということで断られた。父子家庭であり、ましてやまだ小さい子猫の世話となると無理だろう。
「恵利華のところで飼えないかな?家は広いし、子猫は喜ぶと思うんだけど……」
「恵利華の家の縁側とか、猫が似合いそうだよな!」
「似合うとかそういう問題じゃないでしょ。うちもダメよ。両親が猫アレルギーなんだから」
恵利華にもしっかりと断れてしまった。
「結人くん、ごめんね。うちの家族で面倒をみれたら良かったんだけど、来條さんが世界が違う存在を勝手に持ち込むのはダメって」
ここながしずくと目を合わせて、申し訳なさそうにいう。
「まぁ、それはごもっともだと思う」
ここなの世界でも猫や犬は存在しているが飼うという概念がないし、そもそも動物を狩るという考えすらないそうだ。
さて、どうしようか。この子猫の行き先はしばらく決まりそうにない。
「お前、困ったな……」
僕の問いかけに、子猫は他人事のように「みゃぁ」と鳴いてから、あくびをした。
* * *
子猫がうたた寝をたてている横で、僕たち5人はソファに集まる。恵利華が僕たちに相談したいことがあると言いただしたからだ。
「私のことというより、クラスで仲良くなった友達からの相談なんだけど」
「楓さんからの相談?」
「そう」
恵利華の口から仲良くなった友達という言葉が出てきて嬉しくなったのも束の間、恵利華は予想外のことを口にした。
「楓が、どうしても幽霊に会いたいって言うの」
「「幽霊?」」・「「幽霊!?」」
ここなとしずくは首をかしげて、僕と隼人は驚く。恵利華は楓から受けた相談を僕たちに話し始めた。
新たな章が始まりました!
楓が会いたい幽霊とは?
次の更新は明日の16時です。
(時間、変更してます♪)




