友達と恋バナをする日がくるなんて
「おう」
そんな質問はこれまで誰にもされたことがなかった。好きな子っというのはどういう子のことをいうのだろう。
「気になるなぁっとか、気付けば思い浮かべちゃってるような子とか、いないのか?」
健也の言葉どおりに、気になる、気付けば思い受けべちゃっているような子っと、頭の中を探る。するとすぐに、ここなの笑顔が浮かんできた。一度思い浮かべたら、ここなのいろんな表情が次から次へと溢れてきて、それはどれも可愛い。
「へぇ……、いるのか。っていうか、柏木ってそんな顔するんだな」
「へ?」
健也にそう言われて、僕はハッと我に返る。僕はどんな顔をしていた?!恥ずかしくなって、顔が火照ったのが自分でも分かる。
「いつだってポーカーフェイスっていうか。すましているっていうかさ。俺、お前のこと、ずっとそんなイメージだったんだ。だけど、今日一緒に過ごしていて、そうでもないんだなと思った」
健也の僕に向ける表情からは、抵抗や敵意はまるでなくなっていた。隼人がいつも僕にしてくれるような優しさで溢れている。
ポーカーフェイスやすました顔。確かに僕はここなと出会うまでは、そういう顔をしていたんだと思う。だけど最近自然と、表情が緩んできているのだとテルから指摘されて気付いた。
「んで、その子って、この学校の生徒か?」
「いや、全然違うよ」
ここなは学校の生徒であるか云々の前に、この世界の住人ですらない。
「なんだ!そうなのか!」
健也はなんだかホッとしたような明るい声を出した。そして頬を赤らませて、照れ隠しなのか指で鼻をかく。
「……教えてもらったから、俺も言うよ。……俺、桃花のことが好きなんだ」
「え?そうなの?」
健也の告白に、僕はやっと合点がいった。だからあんなにも二人は仲良しだったのか。健也が桃花をずっと気遣っているのもそういうことだったんだ。
「二人はお似合いだと思う」
僕は心からそう思って、健也に笑いかける。
「……柏木っ!お前、ちょっと抜けてるけど、いいやつだな!」
健也が照れながらもはしゃいだ顔で、僕の腕を叩いてくる。地味にけっこう痛い。
「い、痛いんだけど」
「あれ?なんか楽しそうじゃんか」
「おぉ、隼人」
隼人が僕と健也の会話に入ってきた。気付けば隣のブースに、恵利華と楓は居なかった。
「恵利華と楓さんは?」
「小腹が空いたから、二人で飲み物とお菓子を買いに行くって出掛けて行った」
「へぇ、そうなんだ」
恵利華も楓と二人きりで買い物に行けるくらいには仲が深まっているみたいだ。僕と健也がこうして話せるようになったように、恵利華も新しい友達が作れたみたいだ。
そのうち桃花が戻ってきたから、僕たちは買い物に出掛けた二人が帰ってくるまで、くだらなくて楽しい会話をして楽しんだ。隼人以外のクラスメイトとこんな風に過ごせる日がくるなんて、少し前の僕では思いもしなかった。
3.
「夕飯、食べていくでしょう?テルさんは嫌いなものあるかしら?」
「ゆりさん、ごめん。俺、もうすぐ帰るから、夕飯はいらないよ」
「えぇ、そうなのぉ?とっても残念だわぁ」
僕の部屋から去っていった母は言葉通り本当に残念そうな顔をしていた。きっと母のことだから、父の話をゆっくりできないことをがっかりしているのだろう。
そんな母を苦笑いしながら見送って、テルを見ると、等の本人はまったく帰る気配はない。僕のベッドに寝転がって、どこからか持ってきた漫画を楽しんでいた。
僕の部屋のものではないから、持ち込みだ。何故、わざわざ持ち込んで、僕の部屋で読むのか訳が分からない。
「……本当にもうすぐ帰ってくれるんですか?」
「宿題は終わったか?」
「……もうすぐ終わります」
「そういうこった」
テルは僕の方を見ることなく、漫画を楽しんでいる。僕の宿題が終われば、帰れると言いたいのだろう。宿題の最中、テルは突然現れた。僕のことを気にせず、要件を話して、さっさと帰ってくれた方が僕は集中できると思うのだけど……。
僕はこうして、漫画を楽しんでいるテルを背にして、宿題をしなければならないという苦行を与えられていた。
* * *
「俺がここに居る理由は予想がついているだろう?」
苦行を終え教科書を閉じると、テルは僕のベッドに腰かけていた。振り返り、思い当たることを言う。
「あの井戸のことですよね」
「そのとおり」
気付いたことがあったら呼ぶように言われていたが、テルは呼ぶ前に現れたようだ。
「あれが例の『CWC』ですか?」
「そうだ。異世界を行き来する切れ間といったところだな」
異世界を行き来する切れ間。そう言われて、僕はあの山で見た景色を思い返す。テルの言葉どおり、僕が一番最初にみたときは、縦に真っ直ぐ光る空間の切れ間だった。だけど、隼人たちが来た後は見た目が変化していた。
「その切れ間、最初は空間が切れたようなものだったんです。だけど隼人たちが井戸だって言い出して。そしたら、僕にもそれが井戸に変わりました」
「それはな。認識の相互調整ってやつだ」
「どういうことですか?」
「お前たちの世界はそれぞれ独立している。だけど、同じような世界で生活しているように錯覚しているだろう。だから、自分が見える景色が相手と違う場合、相手の認識を受け入れることで、自分の認識を無意識に変えるんだ。無意識だから、いつのまにか過去の記憶もすり替わっている。だから違和感がない。知らない間にそういうことは結構起きているもんだよ」
つまり、僕自身が隼人たちの『井戸』という言葉を聞いて、景色をすり替えたということなのか。
「そんな積み重ねが、僕たちを同じ世界で生きているように思わせているんですか?」
「ああ。集合意識ってやつだな」
隼人たちと同じ町に住み、同じ学校に通い、同じ教室で過ごしている。そう思わせているのは僕の無意識が、多くの人たちの意識を共有している結果ということなのか。
「本来なら、あの切れ間は結人にしか見えないものだったんだ。だけど、隼人は結人が何かあるという言葉を心から信じた。その結果、事実と世界の認識を合わせたら、『井戸』が適格だったんだろうな。お前たちのオカルト界隈において、古い井戸は異空間やタイムスリップの入口とか言われているんだろう」
隼人はあの時、『関わると井戸の神様の怒りに触れるかもしれない』と言っていた。それが具体的にどんなものかを聞いたら、そんな話をしたのだろう。
「そういえば、たくさん人影が切れ間に消えていくのをみました」
「ああ。彼らはあの場所が何かを分かっていて、敢えて使っている奴らだから気にしなくていい。ほっといても大丈夫だ。
それに今回の『CWC』は、山の中の藪の奥に出来たものだ。普通に生活してれば、事情を知らない奴らが関わることもないだろうから、そこまで気にしなくても良さそうだ。
時が来れば、アレは消える。評議会に報告だけはしとくよ。じゃあ、引き続き、頼むな!」
要件が済めば、すぐにその場から消えるのがテルのお決まりのパターンだ。突然、居ないところから現れるのは毎度驚かされるけれど、在るものが消えるのであれば、心構え一つで何とかなる。
僕が身構えると、そんな僕に気付いたテルはニカリと笑った。次の瞬間、頭の上にゴツンゴツンと衝撃が落ちる。
「い、痛っ。痛い!!」
痛みと共に、僕の膝に二冊の漫画が落ちてきた。僕は頭をさすりながら、その漫画を手にする。さっきまでテルが読んでいた漫画だ。
「結人の部屋に置いといて。今度、続きを持ってくる~」
テルの姿はそこにはなく、声だけが響いてくる。続きを持ってくるの前に、宇宙人のテルはこの漫画をどこで手に入れたのだろうか。
書店で買っている様子が想像つかないし、そもそも漫画を読み始めたときも、いつのまにか手元に出現していた。
「ちょっとコレ、どこのを持ってきたんですか?」
「わかんなーい。どっかからー」
勘弁してくれ。僕が窃盗犯になっていないようにと、とにかく切に願った。
なんか結人とテルとの会話は、本当好きで、書いてる私が楽しんでます。
続きは明日の朝7時の予定です。
そろそろ事件が起きるかな~?笑。




